【トルコ】トルコ大地震から1年10ヶ月(1) ピースウィンズが行ってきた支援と残る課題
トルコ南東部にもうすぐ厳しい冬がやってきます。およそ5万人が命を落とし、300万人以上が被災したトルコ史上最大の地震から1年10ヶ月。未だ多くの人がコンテナ製の仮設住宅に暮らし、先の見えない生活を余儀なくされています。ピースウィンズは大地震発生の翌日から支援活動を行ってきました。そのいくつかをご紹介します。
・小学校のプレハブ校舎を建てました
地震発生直後の医療支援、緊急支援物資の配付に続いて、ピースウィンズが取り組んだのが学校の校舎の建設でした。地震被害が最も大きかったハタイ県のイスケンデルン市にあるカライラン・サラッチ学校にプレハブ校舎を建設し、今年5月に落成式が開かれました。新学期が始まった秋に訪問すると、午前の部、午後の部に分かれて、ふたつの学校の児童生徒が新しい教室で元気に勉強していました。
案内してくれた校長のブンヤミンさんは、白い壁を指して「本当は子どもたちの絵など飾りたいのですが、作ってもらったこの校舎を大切に使いたいので、何も貼らないできれいに使っています」と話しました。また、「別の学校の子どもたちも私たちの学校の校舎を間借りして授業を受けているため、以前は混雑して、どことなく落ち着かないところがありました。でも、この新しい校舎ができて広くなったので、今は子どもたちも落ち着きを取り戻しています。そして、新しい教室で学べるということは、子どもたちの学ぶ意欲につながっています」とも語ってくれました。
好奇心旺盛で人懐っこい児童たちは、日本人スタッフをみつけると、口々に「こんにちは」「ありがとう」と習ったばかりの日本語の挨拶を聞かせてくれます。
・子どもたちとお母さんたちの心のケアをしてきました
もうひとつ取り組んだのが、コンテナ・キャンプで不便な暮らしを続ける家族の心のケアでした。地元NGOであるソリダリティ・リスペクト&プロテクト(SRP)と一緒に行っている、トルコの人びとが暮らすキャンプとシリア人被災者が暮らすキャンプでの精神保健・心理社会的支援(MHPSS: Mental Health & Psychosocial Support)活動です。
子どもたちの中には家族や親戚の死や負傷などの影響でトラウマを抱える子がいます。また親たちも不調を抱える子どもたちへの対処の仕方がわからなかったり、自身がストレスに苦しむなど様々な悩みを抱えています。ピースウィンズとSRPは、遊びや工作、話し合いなどを通じて、子どもがストレスを解消し、自分の気持ちを溜め込まないで相手に伝える方法などを身につけられるよう、様々なプログラムを提供してきました。
ある日のコンテナ・キャンプでの屋外活動はこんな様子でした。
私たちが近づいていくと、子どもたちが笑顔と共に親指と人差し指を交差させた指ハートを見せてきました。SRPスタッフによると、これは「大好き」の印として教えたものだそうです。安易に身体接触をして子どもたちが搾取されることに繋がらないよう、プライバシーを守りながら親愛の情を示す方法として指サインを使っているのだそうです。
放課後、小さな子どもたちは音楽に合わせて体を動かしたり物語を聞いたりして楽しい時間を過ごし、8歳から11歳の子どもたちは、質問への答えを動きと言葉で表現するゲームをしていました。たとえばSRPスタッフが「コンテナでの暮らしは楽しいですか?」と聞くと、縦1列に並んでいた子どもたちが、右(はい)と左(いいえ)に分かれます。元の列からの距離が遠ければ遠いほど、その気持ちが強いことを示します。子どもたちの回答は半々に分かれました。「いいえ」に動いた女の子は、「楽しいけれど、自分の家があればもっと楽しい」と説明しました。
次の質問は「家族とよくお話ししますか?」。ほとんどの子が「はい」に動くなか、1人の男の子は「いいえ」に動いて、「その理由は秘密にしたい。みんなとシェアしたくない」と答えました。もちろんその気持ちは尊重されます。「地震の前と後で生活は変わりましたか?」という質問には、ある女の子がはるか遠くまで離れて、強い「はい」の気持ちを伝えていました。ゲームのようにしながら自然に子どもたちの気持ちを引き出していく活動でした。
SRPスタッフはこう語ります。「このプロジェクトを始めた頃、子どもたちは率直な気持ちを話してくれませんでした。地震の後、大人たちは生活を立て直すことに精一杯で、子どもたちの気持ちを知ろうとする余裕がありませんでした。ある子どもが『誰も私の気持ちなんて聞いてくれなかった』と言ったこともあります。でもこうした活動を続けるうち、子どもたちは徐々に私たちスタッフに打ち解けて、気持ちを話してくれるようになったり、子ども同士で話をするようにもなりました。でも、男の子の方がなかなか気持ちを表せなくて、それを引き出すにはまだまだ工夫が必要です」。
別の日の活動では折り鶴を学びました。広島の被爆者・佐々木禎子さんが白血病と闘いながら祈りを込めて折った鶴の話をSRPのロニさんが聞かせてから、みんなで折り紙をしてみました。ロニさんはこう語ります。「サダコの鶴の本を2回読みました。これは希望の物語だと思います。子どもたちに希望を持って欲しい。そう思って私も折り紙を学んで、子どもたちに伝えました」。
トルコ地震で大きな被害を受けた人たちの中には、隣国シリアの内戦を逃れてトルコにやってきた避難民も数多くいます。紛争と地震、ふたつの災難に見舞われた人たちには、また別の苦労があります。次回は、シリア人被災者のコンテナ・キャンプでのピースウィンズの活動についてお伝えします。
(つづく)
このプロジェクトは、みなさまからのご支援とジャパン・プラットフォームからの助成金によって実施しています。トルコの地震被災者はまだまだ支援を必要としています。ひきつづき、あたたかいご支援をよろしくお願いします。