気候変動と災害#02|世界で頻発する自然災害の現状と事例


世界各地で自然災害の発生頻度は増加傾向にあり、その影響は深刻さを増しています。特に発展途上国では災害後の復興が困難であり、社会的・経済的な問題が顕在化。災害規模によっては命を脅かす人道危機が発生し、支援が必要な災害が後を絶ちません。この記事では、世界各国でどのような自然災害が発生しているのか、現状と近年発生した具体的な事例をご紹介します。
世界の自然災害の現状

国土交通白書2022『気候変動に伴う災害の激甚化・頻発化』では、南アジアや欧州において豪雨による壊滅的な被害が相次いで発生していると指摘されています。
さらに、世界気象機関(WMO)によれば、1970年から2019年の50年間で、暴風雨や洪水、干ばつといった気象災害の発生件数は約5倍に増加。特に2017年にアメリカを襲った3つのハリケーンによる被害は財政的な打撃も大きく、過去50年間の経済損失総額の35%を占める規模の被害をもたらしたといわれています(*1)。
WMOは、警報システムの向上により人的被害は減少しているものの、依然として多くの国が十分な対策を講じておらず、さらなる国際協力と防災対策の強化が求められていると警鐘を鳴らしています。
モザンビークのサイクロン

モザンビークは、アフリカのなかでも特に自然災害のリスクが高い国の一つであり、度重なるサイクロンによって深刻な被害を受けています。2019年3月に発生したサイクロン“イダイ”は、南部アフリカで過去20年間で最悪の災害となり、250万人が人道支援を必要としました。
その後も、2023年3月のサイクロン“フレディ”が襲来。2024年12月にはサイクロン“チド”が最大瞬間風速120km/h、24時間の降雨量250mmという猛烈な勢力でモザンビーク北部を襲いました。“チド”により45万人以上が被災し、7万棟を超える家屋が倒壊または半壊。特にカーボ・デルガド州メクーフィ郡は壊滅的な被害を受け、電気や通信の復旧が進まず、避難生活が長期化するなどその影響が深刻です。
さらに、度重なる災害は農作物の壊滅による食料危機を引き起こし、コレラなどの感染症蔓延なども問題となっています。もともと貧困率の高いモザンビークの復興は極めて困難な状況です。
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発展途上国の災害とその影響

発展途上国、特にインフラが脆弱な地域では、一度大きな被害を受けると復旧・復興が難しく、貧困や食糧不足のさらなる悪化を招いています。
2022年にはパキスタン、コンゴ民主共和国、サヘル地域での大規模洪水や、アフガニスタン、マダガスカル、アフリカ東部の半島一体での過酷な干ばつが原因で、何百万人もの人びとが強制移動を強いられました。さらに、経済的損失は貧困層に深刻な影響を及ぼし、医療や教育の機会を奪うことで長期的な発展を妨げています。
こうした発展途上国の課題に対処するには、温室効果ガスの排出を抑える「緩和策」と、防災インフラの整備や干ばつに強い作物の導入などの「適応策」を組み合わせた対策が不可欠です。国際社会が資金や技術の支援を強化し、持続可能な成長を後押しすることが求められています。
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アメリカの山火事

2025年1月に米ロサンゼルス近郊で発生した大規模な山火事は24日間にわたって燃え続け、東京23区の3分の1に相当する約1万4000ヘクタールを焼失し、29人が死亡、1万8000棟以上の建物が損壊しました(2025年2月2日現在)。山火事の背景には、近年の気候変動による異常気象が関係していると考えられています。
アメリカ航空宇宙局(NASA)は、近年の異常気象が山火事の発生を助長していると指摘。2022年から2023年にかけて南カリフォルニアでは記録的な豪雨が発生し、大量の草木が成長しました。しかし、2024年5月から2025年1月にかけては観測史上2番目の乾燥期間を記録。これらの植物が枯れて大量の可燃物として蓄積され、結果として一度火がつくと急速に燃え広がる状況を生み出したといわれています(*2)。
また、異常気象を分析する国際研究グループ「ワールド・ウェザー・アトリビューション(WWA)」は、地球温暖化が進行していなかった産業革命前と比べて、火災が発生しやすい気象条件の発生確率が約35%増加していると報告。10月から12月の降水量減少リスクが2.4倍に上昇し、乾燥した状態が長引くことで、山火事の拡大が助長されると分析しています(*3)。
これらの報告からも今回の山火事は、気候変動による極端な気象の影響が深刻化していることを示すものであることがわかります。アメリカ国内にとどまらず、国際的な協力と対策が求められ、山火事への早期警戒がこれまで以上に重要となっています。
北極圏の森林火災

近年、北極圏でも森林火災が急増しており、その中で「ゾンビ火災」という現象が注目されています。これは、一度消えた火が地中でくすぶり、高温や乾燥により再び発火する現象です。この現象の背景には、温暖化が大きく影響しています。
フィンランド研究所によれば、北極圏では地球のほかの地域よりも約4倍の速さで気温が上昇しており、これが土壌に影響を与えていると考察(*4)。特に北極圏の土壌の一部は腐敗した植物や有機物からなる「泥炭」とされ、可燃性のメタンガスを多く含んでいます。泥炭は通常湿っており、火の拡大を防ぎますが、温暖化によって引火しやすくなり、大きな森林火災につながってしまうのです。
また、北極圏で発生する森林火災の影響は気候関連にとどまりません。東京大学など研究チームが行った数値モデルに基づいた感度実験の結果によると、中国や日本を含む東アジア地域では、PM2.5の増加が原因で年間数万人の早期死亡者が出る可能性が示唆されています(*5)。この影響は健康面だけでなく経済的損失も大きく、北極圏の火災は地球規模で広範な影響を及ぼす可能性があります。
災害で苦しむ人びとを助けるために私たちにできることを考える

気候変動の影響で異常気象や自然災害が、日本だけでなく世界各地で深刻化し、被害に遭った人びとは命をつなぎ、生活を再建させるための支援を必要としています。
ピースウィンズでは、大規模災害が起きると危機にさらされた命を救うために緊急支援チームを派遣し、現地NGOとも密に連携しながら支援の最前線で支援活動を展開し、被災地の復旧・復興を支え、被災者や難民の生活再建をサポートしています。
気候変動が引き起こす自然災害の増加は、どうすれば食い止められるのか。不条理に苦しむ人びとを助けるためになにができるのか。まずは現状を知ることから始め、私たちにできることを考えていきたいと思います。
【参照】
*1)世界気象機関(WMO)|WMO Atlas of Mortality and Economic Losses from Weather, Climate and Water Extremes (1970–2019)
*2)出典:GIZMODO|NASA Satellites Show How California’s Wildfire Crisis Was Years in the Making
*3)出典:WWA|Climate change increased the likelihood of wildfire disaster in highly exposed Los Angeles area
*4)CNN|北極圏の温暖化ペース、世界の他地域の4倍 新たな研究で判明
*5)東京大学|【研究成果】シベリア森林火災の大気質・気候・経済への包括的な影響を現在及び近未来気候条件の感度実験から初めて評価~森林火災による大気エアロゾルは気候、人の健康から経済にまで影響を与える~
