迫る戦争 あきらめも 北海道新聞掲載「イラクNGO報告」
2003年の年明け以降、クルド人自治区では、イラクでの戦争の危機を感じさせる動きが相次いでいる。 まず、ドルの半落。1ドル=11~13ディナールだった相場が一時、8ディナールを切った。
スレイマニアの両替商、カルザンさん(24歳)は「フセイン政権崩壊後にディナールが急騰するとみて、周辺国政府や自治政府が業者をつかってディナール紙幣を大量に買っている」と話す。同様の噂も多い。
1月12日にはガソリンが一夜にして倍、種類によっては4倍にもなった。スタンドを経営するホシュヤルさん(47歳)によると「イラク政府が自治区への石油の運搬をストップさせた」のが原因だ。
自治区では石油の大半をイラク政府側(フセイン政権支配地区)からの輸送に頼っている。この先、アメリカが攻撃に踏み切れば「イラクからの石油は間違いなく止まる」とホシュヤルさんは言い切る。
イラクでの戦争について、不動産業のオスマンさん(50歳、仮名)は「フセイン政権を終わらせてくれるのなら、どんな戦争でも賛成だ」と強調する。しかしアメリカをはじめとする国々に何度も支援への期待を裏切られてきた歴史から、「アメリカは中東をコントロールしたいだけ」との声も根強い。そして、戦争の不安を口にする人は驚くほど少ない。
オスマンさんはいう。
「生まれたときからここでは戦争さ。習慣みたいなものだ。どの家も常に食べ物や燃料を蓄えている」
一方で、毎日の生活にも事欠く人たちがいる。
「戦争の話は聞いているし、もちろん怖い。でも戦争が起ころうと、そうでなかろうと私たちには何もできない」とあきらめ顔で語る声を聞いた。
※北海道新聞(1月19日付朝刊)に掲載された記事を一部、加筆しました