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インタビュー

「戦争は始まってしまったら止められない。いかに始めない努力をするかが大事と痛感」ピースウィンズ中東マネージャー 内海旬子

広報:ピースウィンズ国際人道支援 ジャーナル編集部

イスラエルによる前例のない規模の空爆とガザ全域への地上攻撃が始まってから、10月7日で1年になります。この戦争がこれほど長く続くとは、いったい誰が予測したでしょうか。

パレスチナ保健省の発表によると、8月15日の時点で40,005人のパレスチナ人が死亡し、92,401人が負傷。ただ、これは確実にわかっている数字で、犠牲者の数はもっと多いと考えられています。ガザの人々はどのような苦境に置かれているのか、ピースウィンズが事務所を置くパレスチナを訪問した中東マネージャーの内海旬子に話を聞きました。

破壊が続くガザの様子

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1年で変貌した東エルサレム

――訪問は久しぶりでしたか?

内海:去年、ガザの人道支援事業の現場を視察したのが、イスラエルによる激しい攻撃が始まった10月7日の2週間前のことでした。ですから、ほぼ1年ぶりの東エルサレムでした。今回はガザには入れていません。

――パレスチナの人々が多く暮らす東エルサレムの様子は変わっていましたか?

内海:エルサレムはキリスト教、イスラム教、ユダヤ教の3つの宗教の聖地ですから、以前は観光客が多く賑わっていましたが、戦争が始まって観光客が激減し、経済が非常に厳しくなっているのを肌で感じました。ゲストハウスのスタッフが少なくなっていたり、馴染みのタクシー運転手も観光客やNGO職員などがいなくなったために別の仕事に就いていたりしました。イスラエル人に雇われていたパレスチナ人が自分から離職したり、解雇されたりしたために、代わりに中国やアフリカから多くの労働者が流入しているようです。

テルアビブの空港では、出入国審査のカウンターに行く通路の床に「(イスラエル人の)人質を返せ」と書かれた一人ひとりの人質の顔写真のポスターが置かれていて、目を引きました。以前、ガザでもイスラエルの空爆で殺された子どもたちの顔写真が並べられたポスターを見たのを思い出して、どちらも同じことをしていて、大切な人を奪われた人の思いは同じなのに、と複雑な気持ちになりました。

――今、ピースウィンズはガザ地区でどのような支援事業を行っているのですか?

内海:ひとつは、避難所になっている学校などに給水車で水を届ける給水事業です。海水から真水を作る施設の大半が破壊されて真水が手に入りにくいので、避難民が暮らす施設のタンクに水を届けています。

もうひとつは、食料や衛生用品を配付する事業。農家から野菜を買い取ったり、営業している店からオリーブオイルなどの食料品を買ってパッケージにして配っています。

とにかく爆撃の中、何も持たず逃げてきた人々はお金もないし、避難先に仕事もなく、もし収入があったとしてもガザでは物価が高騰して買うことができません。今、卵1個が円換算で400円もするそうです。

――物資の配付に危険は伴いませんか?

内海:もちろん、安全に配慮しながら行っています。配付を予定していた場所が空爆を受けるなどしたために、場所を変更して配付したこともあります。ガザに駐在するピースウィンズ職員と、現地の提携団体の人々が細心の注意を払いながら、人々に必要な物資を届けています。

給水車で水を配っています

――現地スタッフはどのような日常を送っているのでしょうか。

内海:東エルサレムにいる間に、スタッフのひとりであるサミラさんと電話で話をしました。停電も多く、空爆があったり、地上軍が自宅の周りを取り囲んだりするので、いつでも電話で話せるわけではありません。彼女が「今なら大丈夫」というタイミングを見計らって電話をくれます。でも話している途中に切れてしまうこともしばしばです。駐在スタッフは、提携団体との打ち合わせも途切れ途切れの電話やショートメッセージを使って行っています。

彼女の日常を聞いたのですが、食料が手に入らないために、子どもたちも含めて食事は昼と夕の2回。朝ごはんは食べられません。家の前の空き地でトマトやナスを育てていますが、戦車に踏み潰されたり、盗まれたりすることもあるそうです。

サミラさんの畑

子どもたちは1年以上学校に行けていないので、家で勉強を教えているそうです。オンライン授業の教材をダウンロードしようと爆撃のないときに電波の届く屋上に上がってみるけれど、シグナルが途切れてダウンロードできないこともあるそうです。

夜通し爆撃や砲撃の音がして、眠れないまま朝を迎えることも多いと言います。これまでもビデオメッセージを送ってくれていたので、暮らしぶりは知っていたつもりでしたが、直接電話で聞くと現実の厳しさに言葉を失いました。それなのに、空爆で一部に被害を受けたもののまだ自宅に家族と一緒にいられる彼女の暮らしは「恵まれている」と言われてしまうそうです。

一方で、「避難所にいれば支援物資がたくさん来るから恵まれている」という声を別のパレスチナ人から聞きました。どちらも十分にひどい状況なのに、このような分断が生まれてしまうのが、現在のガザです。

目の前で破壊されていくのは初めての経験

――去年10月以前のパレスチナでは、どんな支援事業をしていたのですか?

内海:私は2019年からパレスチナ事業に関わっています。ガザはもともと電力が足りなくて、その影響が様々なところに出ていました。そこで、昨年度は、障害のある子どもたちが通う学校や補習校のようなインフォーマルな教育施設に太陽光パネルを設置して、何十台ものパソコンを提供して、例えば耳の聞こえない子どものための視覚教材や生物の仕組みが理解できるよう動画を使った授業など、今の時代にあったパソコンを活用した学習を支えるプロジェクトを進めていました。

ちょうど太陽光パネルを設置し終わって、これから先生たちと学習プログラムを作成しようとしていた時に紛争が始まりました。その前には、若者の就労支援や、幼稚園児の栄養指導や心理サポートなどをガザの人たちと一緒にやっていました。

ガザの人たちはとても誠実で勤勉で、力で押さえつけられて塀の中に閉じ込められるような状況でなければ、もっともっと力を発揮して、きちんと社会を作っていける可能性を持ったすごい人たちだと感じていたので、占領さえ終わればきっと良い未来があると思っていました。それなのに……

――この戦争で破壊されたのですね。

内海:すべては確認できていませんが、教育事業を行っていた3校のうち少なくとも1校の太陽光パネルが破壊されたのは確認しています。あとの2校もきっと壊されていると思います。

ガザの至るところがこんな状況になっています

――積み上げてきたものが、このような形で破壊される経験はこれまでもありましたか?

内海:初めてのことです。だいたい私たち人道支援NGOの仕事の多くは紛争や災害など何かが「起きたあと」で支援に入るので、支援してきたものが目の前で壊されていくのは今回が初めての経験でした。でも支援した物が壊されたことは残念ですが、それは仕方のないことです。人の命が奪われ続けている現実が辛いです。

東エルサレムでパレスチナの人が話した「enough is enough(もうたくさんだ)」という言葉が心に引っかかっています。1年間、街は破壊し尽くされて、家族や友人はバラバラになって、大切な人を失って、もううんざり。やめてくれ、という心情を耳にしました。

――聞くだけでも辛いです。内海さんはパレスチナとシリアをみる中東マネージャーに加えて、中欧マネージャーとしてウクライナ支援、大地震の後のトルコ支援(被災者の中にはシリアから逃れてきた難民が数多くいる)も担当しています。ウクライナもシリアもパレスチナも、終わりの見えない状況です。何を考えながら仕事をしていますか?

内海:痛切に思うのは、戦争は始まったら止められない。それが本当によくわかりました。だから戦争を始めてはいけない。とにかく、私たちは始めないための努力を精一杯しなければならないのです。今はそのことを強く思いながら、目の前の助けを必要とする人のために仕事をしています。

――ありがとうございました。

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お知らせ

10月5日午後4時から、港区芝公園の増上寺で、人道支援NGOから即時停戦を呼びかける共同声明を発表し、報告会を行います。それに続いて午後6時から停戦への願いを込めたキャンドルアクションを行います。どなたでもご参加いただけます。詳しくは、こちらをご覧ください。

「停戦を、今すぐに。」
人道支援NGOからの声明・キャンドルアクション
◼︎日時:2024 年 10 月 5 日(土)16:00〜19:30
第一部:報告会・声明発表 16:00〜18:00
司会:堀潤さん(ジャーナリスト)
登壇:人道支援に携わる NGO スタッフなど(調整中)
第二部:キャンドルアクション 18:00〜19:30
※キャンドルアクションの時間は天候・状況などにより変更の可能性がございます。
変更が生じた場合、こちらのページでお知らせいたします
https://www.ngo-jvc.net/support/event/20241005-gaza-action.html
◼︎場所:大本山 増上寺(東京都港区芝公園 4-7-35)
都営地下鉄三田線 御成門駅から徒歩 3 分、芝公園から徒歩 3 分
アクセスマップはこちら( https://www.zojoji.or.jp/map/
◼︎参加費:無料
◼︎申込:報告会へのご参加はフォームからお申し込みをお願いいたします(定員 100 名)。
キャンドル部分は 500 人参加可能ですので、ご自由にお集まりください。
フォーム URL: https://forms.gle/W1BwYAds8hUG1e5V8

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広報:ピースウィンズ国際人道支援 ジャーナル編集部
国際支援や世界情勢に関わる情報をお伝えしています。本当に困っている人たちに、本当に必要な支援を届けるために、私たちにできることを一緒に考えるきっかけになればと思います。
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