【仕事場は地球#3】困っている人を世界中で支援するピースウィンズスタッフ――パラオ代表・安間叙通

世界各地で助けを必要とする人を支援するピースウィンズスタッフは、どんなことを考えながら現場で仕事しているのかを聞く連続インタビュー。第3回に登場するのは太平洋の島国パラオに駐在する安間叙通です。どうすれば助成金に頼るのではない開発支援ができるのか、日々の仕事の中で模索を続ける安間の話を聞いてください。
原点はメキシコのストリートチルドレン
――パラオの画像を検索すると、白い砂浜に真っ青な海、まさに「楽園」という感じですが、住んでみても楽園ですか?
安間 ええ、楽園だと思います。暖かいし、人は穏やかで食べ物は美味しい。美しい海でダイビングやシュノーケルもできる。物価が高いのと娯楽が少ないことを除けば、生活する上で困ることはありません。暮らしやすいところだと思います。
――家族で駐在していらっしゃるのですよね。
安間 はい。相方とふたりの娘と一緒に暮らしています。家族もここの暮らしを楽しんでいます。みんな子どもに優しくて可愛がってくれるし、とても暮らしやすいところです。

―― 安間さんがその楽園にたどり着くまでの足跡を簡単に聞かせてください。人道援助に興味を持ったきっかけは何でしたか?
安間 学生の時に旅したアメリカで、徒歩で国境を越えてメキシコに入った時にストリートチルドレンを目にしました。なぜそんな境遇に身を置く子どもがいるんだろうと思ったのが、国際協力に関心を持ったきっかけです。
その後、2011年の東日本大震災でボランティア活動をして、NGOに関心を持ちました。将来はNGOで働きたいと思ったのですが、まずは関心が強かった観光関係の社会人経験も積みたいと思い、大学卒業後は旅行代理店に就職しました。その後、JICAの海外青年協力隊に応募しました。でも体質的な問題で健康診断に引っかかってしまい、協力隊は断念したのですが、すでに会社には退社の旨を伝えていたので、さてどうしようか考えました。
―― ふつう、行き先を決めてから退社しませんか?
安間 「背水の陣」派なんです(笑)。
―― それでピースウィンズに?
安間 はい。現場の経験が積めると思って。2018年に入って、バングラデシュとインドネシアの事業に関わりました。緊急支援や母子保健に関わる事業でとてもおもしろくて勉強になったのですが、もう少し観光開発とか地方創生みたいなことをやりたいと思ったので、2020年に退職して企業で観光コンサルタントの仕事をしました。
でも、やっぱり利益重視なところや地域との関わり方に違和感を覚えてしまいました。ちょうど子どもが生まれるタイミングでもあり、田舎で子育てしたいと思っていたところにパラオ事業の話を聞き、パラオなら観光と絡めた地域起こし的な事業ができる可能性があると思って2021年にピースウィンズに戻ってきました。
船酔いに苦しみながら、本当に支援を必要としている人にサービスを届ける
―― それで広島での本部勤務、パラオ駐在を経てパラオ事務所の代表になったわけですね。パラオでピースウィンズはどんな事業をしているのですか?
安間 パラオはたくさんの島々からなる国で、中心都市コロールがある島から遠く離れたところでは病院もなければ医療従事者も十分ではなく、必要な医療が受けられない人がいます。ですから『Kensing I』という船で離島をまわり、生活習慣病の早期発見のために健康診断をしたり、健康な食生活などの啓発活動を3年間行いました。
昨年秋に『KENSING II』という2号船を導入して健康診断を再開しています。この前も38時間船に揺られて南西諸島に行ってきました。
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健康診断と啓発活動に加えて行っているのが、現地の国立病院のサポートです。ピースウィンズの空飛ぶ捜索医療団ARROWSと連携して、現地の医療従事者の人材・人員不足を補うために放射線技師や看護師らにパラオの病院に駐在してもらって、実際に働いてもらいながら知識や技能を現地の医療従事者に伝える事業です。
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―― どんな時に喜びとか、やりがいとか感じますか?
安間 船酔いに苦しみながら、20人くらいの島民がいるところにやっとの思いでたどり着くと、島のリーダーのような老人が、「こんな辺鄙なところまで来てくれて、本当にうれしい。また来て欲しい」と涙を浮かべて言ってくれた時は、来て良かったと思いました。やりがいを感じました。NGOの一員として、本当に支援を必要としている人にサービスを届けることができた実感がありました。前回行った時から1年くらい経っていたのですが、私のことを覚えていてくれたのも嬉しかったです。
助成金だけに頼らない事業の仕組みを作る
―― 楽しそうですね。では今、やりたい仕事をできていますか?
安間 うーん、やりがいはあるのですが、「やりたいこと」とは言いにくい。今、主にやっているのは助成金に頼った支援で、それはもちろん大切な支援なのですが、私がやりたいのは助成金だけに頼らない事業の仕組みを作ることなのです。
中国やフィリピンに近く、台湾と国交を持つ数少ない太平洋の国であるパラオは地政学的に重要なため、実は海外からの援助資金が流れ込みやすいところです。それだけに人びとは援助慣れしています。そこに助成金を投入して事業を行うのではなく、パラオの人たちが責任をもって事業を行なっていくように、たとえば政府が予算をつけて私たちと事業を行なっていく、住民が自分たちのビジネスを興していく、また『KENSING II』を多くの人に使ってもらいパラオで収益が上がるようにしていく、そんな仕組みを作っていくのが、NGOとしてのピースウィンズにできる開発支援ではないかと私は思っています。

パラオには、それができる可能性があると思います。『KENSING II』は日本の助成金ではなく、パラオ政府の予算を配分してもらうことで、より広範囲に使えるようになっています。
現在政府の要請で『KENSING II』を使って定期便がない遠く離れた島への定期航海を実施することになっていますが、ピースウィンズだけでなく他のNGOによる調査利用や、パラオ領内の定期便としてなど活用範囲を広げることで、可能性が広がると楽しみにしています。
船を持っているのは大変ですが、船があるからこそできることもあります。先日は南アフリカに行く途中で座礁した日本の漁船の救援活動を行いました。
パラオは、魚は獲れるし果物や穀物も豊かで、ある意味本当に楽園なのですが、それでも問題がないわけではありません。最大の問題は、人手不足と人材不足です。2015年の国勢調査から2020年までの5年間で21,000人の人口は18,000人に減りました。2023年の世界銀行の調査ではさらに減っています。若い人は国外に出て行って帰ってこない。日本の過疎地と同じ問題を抱えています。
でもだからこそ、観光と絡めながら、この国をどう支えるのか、模索を続けたらきっとおもしろい未来が見られるような気がしています。
パラオについて
日本の南およそ3000キロ(時差ゼロ)にある太平洋の島国。340以上の群島からなる。スペイン、ドイツによる領有、日本による占領を経て、第2次世界大戦後はアメリカの信託統治となり、1981年にパラオ自治政府が成立。1994年に独立して国連に加盟した。人口は17730人(2023年)。主な産業は観光業やサービス業。日本への輸出の98%はマグロ。
パラオ事業について
ピースウィンズは2021年3月からパラオでの事業を開始。パラオ保健省と提携し、離島を含むパラオ全土で生活習慣病を早期発見するための健康診断や健康指導を開始。そのための船舶『KENSING I号』を日本から運んで3年間島々を巡って健診を行なった。その後、『KENSING II』を新たに導入して2025年2月から再び離島を含む健康診断を行っている。
安間 叙通(あんま のぶみち)
大学では国際文化学を専攻。在学中は2年の休学を含む6年間で日本も含め世界各国のNPO/NGOでボランティアやインターンシップを経験。卒業後は日本の旅行代理店にて法人営業担当として勤務。2018年にピースウィンズに入職し、バングラデシュ事業とインドネシア事業を担当した。2020年に退職して一般企業に転職し、観光コンサルタントとして地方創生に関わる。その後2021年にピースウィンズに再就職し、パラオ事業を担当。本部担当、現地事業調整員を経て、2023年より現地代表を務める。妻、ふたりの子どもと共にパラオ駐在中。
