【モロッコ】モロッコ中部地震被災地支援を完了しました!
2023 年モロッコ中部地震が発生してから1年以上が経過しましたが、いまだに多くの女性や女の子の月経衛生の支援ニーズは続いています。ピースウィンズ・ジャパンは、現地提携団体プロジェクト・ソアと、震源地であるアルハウズ県および同県に隣接し甚大な被害を受けたシシャウア県にある中等学校で11歳から12歳の被災女児に対して、月経衛生管理ワークショップを実施し、再利用可能な生理用ナプキンを含むMHMキットを提供しました。ここでは支援完了のご報告と感謝の声をお伝えします。
2023年9月8日深夜に、モロッコ中部に位置するマラケシュ市から約44マイル(約71km)離れたアルハウズ県高アトラス山脈を震源として、マグニチュード6.8の地震が発生しました。同地域の泥や粘土などで作られたモロッコの伝統的家屋の多くは地震の影響で倒壊し、主要道路が地滑りで寸断され、救助活動が難航しました。その結果、アトラス山脈周辺を中心として、死者2,946人、負傷者5,674人、家屋損壊59,674棟、避難者約500,000人と甚大な被害をもたらしました。
モロッコ教育省によれば地震により約600の学校が損壊または損傷しました。損傷・損壊を受けた学校の再建・修復が進められ、2024年夏、モロッコ政府は、学校の再建・修復の途中ではあるものの状況は大分改善されたとし、指定避難対象地においては集団避難していた学生の帰還および震災前に通っていた学校への再入学、もしくは指定避難対象地外においては仮設テントやプレハブを撤去して校舎を利用するよう奨励し、2024-2025年度を「正常化における重要な節目」と位置付けています。しかし、復旧が進む一方で、2023年モロッコ地震によって深刻化、顕在化した「生理の貧困」問題への対応は後回しにされてきました。震災以前より、貧困と家父長制と厳格なジェンダー規範の影響から、被災女児は月経に関する知識へのアクセスが乏しく、被災家庭は更に困窮し、生理用品へのアクセスがさらに制限されました。震災から1年以上が経過しましたが、損壊や損傷した住居の一部は再建や修復の目処が立たないまま、仮設テントに住み続けている人びともいます。一部の被災女児は月経中は授業の欠席を余儀なくされ、授業についていけなくなり、退学に至るリスクに直面していました。
そのため、11歳から12歳(モロッコの教育制度では第7学年。日本では中等学校第1学年に相当。)の女児を対象として月経衛生管理支援を実施しました。第7学年は、初潮を経験する女児が多いにもかかわらず、不十分な知識、および、経済的困窮や周囲の無理解による支援不足の影響を受けやすいため、支援は被災女児の月経による不快症状を予防し、衛生的な対処につながる知識やスキルを伝達し、より肯定的に思春期における身体的変化を受け止められることを目指しました。
支援対象校は深刻な被害を受けつつ、貧しい家庭の11歳から12歳の被災女児を多く受け入れており、他機関から類似の支援を受けていない学校を選びました。

(Al Qods中等学校にて)
月経衛生配付キットの中身は、再利用可能な生理用ナプキン、生理用ショーツ、生理用ナプキンとショーツが一体となったボクサー型ショーツ、洗浄用布、石鹸、使用済みナプキンも入れられる撥水性の袋、アラビア語の月経およびMHMに関する基礎知識がまとめられたパンフレット、月経衛生管理方法が記載され数ヶ月分の月経開始日や終了日を記録できる欄を設けたジャーナルです。
生理用ナプキンは肌に優しく速乾性のある竹布で作られ、生理用ショーツは伸縮性が高い素材のものを複数サイズ用意して、個人の体型の違いや、成長期の身体的変化に配慮しました。ナプキンとショーツが一体となったボクサー型ショーツは、「洗濯した再利用可能な生理ナプキンを外に干すのは抵抗が強い」や、「スポーツした時にナプキンがズレたり、寄れたりすることが心配」という過去事業へのコメントを反映して作られました。同キットの内容は、モロッコ保健省から承認されています。
ソーシャル・アシスタントと女性教師に対しては、月経衛生管理ワークショップと個別のオリエンテーションを通して月経衛生管理指導に必要なスキルや知識を提供しました。このテーマについて聞いたり話したりすることが恥ずかしいという理由でワークショップを欠席した女子生徒も少数おり、欠席した児童に対しては、トレーニングを受けたソーシャル・アシスタントや女性教員が後日個別指導を行いました。

(Anas Ibn Malik中等学校にて)
ワークショップでは被災女児にわかりやすいように専門用語を使わず、イラストを用いるなどの工夫をこらしたため、非常に好評でした。「恥ずかしいもの」とされるトピックに正面から向き合い、専門家とオープンに話し合うことができる貴重な経験として多くの被災女児が関心を持って参加しました。ワークショップの初めにはアイスブレークの場を設け、被災女児がよりリラックスしてワークショップに参加し、メンターに疑問に思っていたことを質問したり、月経に関する不安な気持ちを打ち明けたりできるように工夫をこらしました。ワークショップでは、月経が起こる仕組みや月経を衛生的に管理する方法を知らずにいた参加者が複数人いましたが、曖昧な表現を使わず、イラストを用いて直接的かつわかりやすい説明をすることで、参加者はようやく理解することができました。ワークショップの最中や終わった後に、参加者から多くの肯定的なコメントが寄せられました。その内の幾つかをご紹介します。
「誰かが私のことを気にかけてくれていると感じたのは初めてです。生理についてこんなに詳しく教えてもらったのは初めてです。」(Hajarさん、Errazi中等学校)
「自分の(月経に対する)考えや気持ちを他の女の子たちに安心して話すことができました。そして、メンターのおかげで(自分の身体に)何が起こっているのかをより理解できるようになりました。」(Fatimaさん、Al Qods中等学校)
「私が生理になった時、母は私が知っておくべきこと、つまり、私は女性として扱われるようになったこと、そして毎月生理が来るということだけを説明してくれました。でも、もっと詳しく教えて欲しかったし、生理にどう対処したらよいかも教えてほしかったです。本当にありがとう。これからは皆さんが私たちに教えてくれたことを母や従姉妹たちに伝えます!」(Ilhamさん、Errazi中等学校)
Al Qods中等学校ソーシャル・アシスタントのSabahさんは、以下のように話してくれました。
「私は今まできちんとした月経管理教育を受けたことがありませんでしたが、皆さんのおかげで、生殖器のしくみや生理中にシャワーを浴びても良いことを学ぶことができました。ワークショップは、少女たちだけでなく、大人の私にとっても、ためになるものでした。共有された(ワークショップの)知識は、私自身も少女たちの質問を予測し、適切な知識を共有しなければならないので、とても役に立ちました。」

(Al Qods中等学校にて)
月経衛生管理キットを受け取った被災女児は一つ一つを手に取り、下着や生理用ナプキンの肌触りを確かめ、生地の柔らかさに驚いていました。多くの被災女児にとって、女性特有のニーズに正面から向き合い、支援を受けたのは初めてのことでした。
Al Qods中等学校のAyaさんからは、以下のコメントが寄せられました。
「地震で祖父母を亡くしました。NGOが食料や衣服を持って来て、政府が避難所としてテントを送ってくれたのを覚えています。でも、私たち少女や女性のことを考えてくれる人は誰もいませんでした。生理用品を送ってくれる人もいなかったので、生理がきたら身の回りにある布で間に合わせていました。すべての組織が少女や女性の体の違い(およびそれに伴うニーズの違い)について考えてくれることを願っています。」
Errazi中等学校のSanaさんも、以下の力強いコメントを寄せてくれました。
「メンターの教え方がとてもわかりやすく、学ぶ機会をくださった皆さんに感謝しています。家族や友人を失うのは簡単なことではありません。私たちに地震が起こったことは今でも信じられませんが、私たちにはどうすることもできません。もう、これは運命なのです。メンターが言ったように、私たちは自信を持ち、勉強を続けるしかありません。教育は力を与えてくれます。そして、生理があっても、なりたい自分になるのです。女の子だからといって、男の子より劣っているわけではないのです。」
ワークショップに参加した被災女児のうち、ワークショップ後に 月経衛生管理 に関する知識や技術が高まったと感じた女児の割合を調べるために、ワークショップの最後に参加者アンケートを実施し、被災女子がワークショップに参加して月経衛生管理に関する知識や技術が高まったと感じていることが明らかになり、被災女児の月経に対する羞恥心の軽減に貢献することができました。本事業は被災女児に、月経衛生管理知識および手段(生理用品)、という月経衛生管理に不可欠な支援を効果的に提供することができました。
支援対象者の皆さんと提携団体プロジェクト・ソアからの今回の支援に対するお礼のメッセージをいただきました。
「皆様の支援のおかげで、健康サービスが行き届いていない被災女児に、月経衛生管理ワークショップを通じて彼女たちに今まで欠けていた基本的な知識および月経についてオープンに話し合える安全で支援的な場を提供し、月経衛生管理キットを配付することができました。被災女児は、これらの支援を受けることで、安心感や女性であることへの肯定的な感情、自分たちでエンパワーメントを推し進める自信が得られたのです。月経の健康は贅沢ではなく必須であり、基本的な人権であり、あらゆる緊急支援プログラムに不可欠な柱であるべきです。人道支援にジェンダーに配慮したアプローチを取り入れることの重要性を示していただき、深く感謝申し上げます。」
この度はご支援、誠にありがとうございました。

青字:「皆さん、ありがとう。皆さんの優しさと努力に本当に感謝しています。」
赤字:「イマンさん(メンター)、いろいろ説明してくれてありがとう。」
(Al Qods中等学校にて)

(Al Qods中等学校にて)