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【ウクライナ】戦死した夫の遺志を継いで地域の人々を支えるスタッフの思い

ピースウィンズは地元NGOであるエレオス・ウクライナと連携して、首都キーウから西に約220キロのジトーミル州ズヴィアヘル市で「ファミリーハブ」活動を行っています。「ハブ」とは、物事の中心になる場所や存在という意味です。この活動では、戦争の影響を受けた女性や子ども、近隣で暮らす国内避難民や地元住民に対して法的、社会的、心理的支援を提供しています。「ファミリーハブ」のスタッフであるカテリーナさんは、法律の専門家として公的支援を受けるのに必要な書類づくりを手伝ったり、家庭内暴力が起きた場合の対応について助言を行ったりしています。その彼女自身も戦争で夫を亡くし、幼い子どもを育てるお母さんです。どんな気持ちで支援活動を行なっているのか、聞いてみました(インタビューはロシアからの攻撃により首都キーウで30名以上が死亡する被害があった7月30日の翌朝に行われた)。
 

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ファミリーハブで法律相談に応じるカテリーナさん(右)

 
――連日ウクライナ各地で大規模な攻撃が起きていますが、ズヴィアヘルの状況はどうですか?
 
毎晩のことですが、昨夜も断続的に空襲警報が鳴りました。ズヴィアヘルでは被害はなかったものの、ウクライナ空軍機やロシアのシャヘド(イラン製とされる巡行型ドローン)が上空を通過する音が聞こえました。戦争状態も4年目に入り、警報が出てもそれ自体はあまり気に留めないというのが、この町の人たちの一般的な反応です。警報は州単位で「脅威が迫っていること」を知らせるものですが、ローカルのSNSには、どのような脅威なのか、例えば巡航ミサイルなのか、弾道ミサイルなのか、巡行型ドローンなのか、またそれが州内のどの地区に何機向かっているかなど、より具体的な情報が逐次更新されます。こうした情報も含め、人びとは自分の判断材料を基に行動していると思います。
 

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「無人機2機ズヴィアヘル方面」と更新されたSNSの画面

 
――空襲を怖いと思いませんか?
 
戦争が始まった当初は私も空襲警報が出るたびに反応し、隣家のシェルターに避難していました。でも今は、もうそのように強く反応しません。私の中でこのような変化が起きたのには、はっきりとしたきっかけがありました。それは夫・ティムールの戦死です。彼は軍人として、2014年にはコソボで、2017年にはリベリアで平和維持活動に従事し、退役後はズヴィアヘルに戻って学校を卒業して就職しました。ロシアの侵攻後にウクライナ軍に戻り、2023年8月に戦死しました。29歳でした。夫との間に3歳になる娘がいます。どうやら水疱瘡にかかったようで、今日は40度近い発熱があって、私の父が面倒を見てくれています。さまざまな思いがありますが、悲しみにくれてはいるわけにはいきません。娘を守るために私が冷静でいなければならないのです。
 

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ズヴィアヘル城址公園にある「愛の南京錠」。ズヴィアヘルには軍の駐屯地があり、多くの市民が大切な人の帰還を待っている。

 
――「ファミリーハブ」で法律相談を担当する傍ら、若者のための活動を主宰されていると聞きました。
 
はい。青少年向けのリーダーシップ・アカデミー「コード・タメルラン」を運営しています。現在、ズヴィアヘル出身の15歳から42歳までの人びとが参加しています。7月から10月までの週末、ボランティア、有識者、地方自治体の代表者などが講義を行います。この取り組みの目的は、より良い社会を築くために、地域の若者のリーダーシップ能力や、地域社会や国に影響を与える能力を育むための環境とツールを提供することです。
 

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青少年向けアカデミーでのカテリーナさん

 
――「タメルラン」とは、どういう意味ですか?
 
軍曹だった夫ティムールのコールサイン(軍内の識別名)です。この活動は私が発起人となり、市や仲間の協力も得て実施しているものですが、ティムールの価値観を反映しています。彼は強いだけではなくスマートで、優しさと繊細さを持ち合わせた人間でした。そして周囲の人々を助け、多くの若者のメンターでもありました。私たちは地域の若者たちに、優れたリーダーになる方法、知識や経験をマネジメントする方法、そしてそれを地域レベルのみならず、国全体のレベルで実践する方法を教えたいと思っているのです。
 

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カテリーナさんら戦没者家族有志が管理する市近郊のメモリアルパークでは、プラカードの後ろに、戦没者の記憶を長く後世に伝えるためにホワイトシダーが植樹されている

 
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法律家という職業柄かもしれませんが、自らの経験を語るカテリーナの口調がとても落ち着いているのが印象的でした。ズヴィアヘルの状況は、激しい戦闘のあるウクライナ東部地域や、集中攻撃の続く首都キーウとは少し違います。暮らしは一見穏やかですが、空襲警報や無人機の音が響く夜が日常化する異常なものです。この町には軍の駐屯地があるため、不安を抱えながら家族の帰還を待つ人、不幸にも家族を亡くした人、凄惨な戦場で心身のダメージを抱えて市民生活に復帰しようとする人など、戦争の被害を受けて支援を必要とする多くの人々がいます。ピースウィンズは、「ファミリーハブ」活動で、こうした方々を引き続きサポートしていきます。(インタビュアー:モルドバ事務所 久貝隆介)
 
※この事業は、外務省からのNGO連携無償資金協力や皆様のご支援で実施しています。

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