【ハワイ・マウイ島】マウイ出張報告②~マウイ火災で被災したコミュニティに向けた心理社会的支援~
2023年8月8日未明に発生したハワイ州マウイ島の大規模火災から4カ月が経った12月、ピースウィンズスタッフ2名が現地の状況を見てまいりました。報告①に続いてこちらでは、10月末に開始した「被災コミュニティに向けた心理社会的支援活動」についてご報告します。
ラハイナ・メモリアルの向こうに見える火災の跡地
出張初日は赤十字のスタッフから被災者の避難生活の状況について聞きました
この活動は、現地で子どもや家族に向けたグリーフケアを行う団体ナ・キキ・オ・エメリア(Nā Keiki O Emalia:以下NKOE)とホスピスを運営する傍ら利用者やその家族に向けたグリーフケアを行う団体ホスピス・マウイ(Hospice Maui:以下ホスピス)と協働で実施しています。
NKOEとピースウィンズスタッフ
ホスピス・マウイとピースウィンズスタッフ
火災は、マウイの歴史的な町ラハイナを焼き払ってしまい、人びとは家族や友人知人、家や持ち物を一瞬にして奪われました。住まいを失った人の多くは、政府が用意したホテル等で避難生活を続けていますが、徐々に観光客も戻っていることから、いつホテルを出るように言われるのかと不安になっているケースもあるそうです。政府やホテル、現地で避難所の調整を担う赤十字からの情報は日々変わっており、こういった情報の混乱はますます被災者の不安を助長させます。
この火災で特に影響を受けたのは子ども達です。家族や友人、住まいを失い、滞在先が変わるごとに転校して、やっと関係を築いた友人や先生とのお別れを繰り返し、また新しい環境になじまなければなりません。
メキシコ伝統文化「死者の日」のコミュニティイベントで高校生が作成した祭壇。火災で亡くなった方への追悼
NKOEは、こうした環境下にある子ども達や家族のために、グループ活動やコミュニティイベントを実施しています。そこでは、自分を取り巻く環境で何が起こっているのか、自分がどのような感情を抱いているのか、誰にどのように相談したり助けを求めたりしたらいいのかを自分で理解できるようサポートをします。参加者それぞれの年齢に合わせて工夫された絵本やワークブックもお渡しできるように用意しています。また、多くの被災者が支援情報を求めて集まる公共の場所では、「キキ(ハワイ語で子ども)・コーナー」という子どもが遊べるスペースを作り、子どものケアについて学んだボランティアを配置して、大人が安心して子どもを預けられるようにしています。さらに、グリーフサポートに特化したファシリテーター育成の研修も実施し、より活動を広げられるようにもしています。被災者の中には、「トラウマ」や「グリーフ」という概念を拒否する方もいるそうです。「自身や自分の子どもは弱くないから、助けはいらない」と感じているのかもしれません。そこで、「あなたは大丈夫」とその人の強さを認めたうえで、「でも、大災害の後には誰でも心理的な衝撃を受けているから、そこを癒しておきましょう」というように、肯定的な言葉を使って人びとをサポートしていきます。
コミュニティイベントでのNKOEブース。サポート資源や様々なアクティビティが用意されている
子ども達に渡す絵本
ホスピスは、被災者の支援活動に携わるカウンセラー、ソーシャルワーカー、教職員、コールセンターや病院スタッフ等を対象に「大規模火災におけるトラウマインフォームドケア」の能力強化に関するワークショップを計画しています。このワークショップでは、他人へのケアだけでなく、火災発生直後から自身もトラウマを抱えているにもかかわらず、休む暇なく支援に励んできた支援者自身のセルフケアも学びます。また、ハワイは、自分たちの文化や仲間たちを大切にする意識が強いと言われ、人びとは支援の専門家に頼るより、自らの力でお互いサポートし合うことを選ぶ傾向にあります。そのため、その特性は尊重しながら、個人ではなくコミュニティに向けたトラウマインフォームドケアのワークショップも実施します。
ラハイナ・メモリアル。火災で亡くなった方の写真やお花が添えられている
火災から4カ月経った今だからこそ見えてくる新たな課題やニーズがありました。それは、支援者の疲弊だったり、トラウマという概念を否定するコミュニティの姿勢だったり、文化に沿った支援の必要性だったり。
ピースウィンズは引き続き、提携団体と共に、マウイの人びとの心に寄り添えるよう支援に励んでまいります。
この活動は、皆様からのご寄付とJPF資金により運営されています。
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