【イラクを例に考えよう】どうして支援が必要なの?どんな支援のかたちがあるの?
帰還民の家屋修復支援 ~どうして支援が必要なの?~
ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)は、様々な国で紛争や自然災害等で家を失った人びとが安心、安全に生活できるよう、さまざまなかたちの住居支援を行っています。
イラクで行っている支援の例を通して、「なぜ支援が必要なんだろう?」、「どんな支援のかたちがあるのかな?」、「支援によって人びとの生活はどう変わるんだろう?」といったことを一緒に考えてみましょう。
支援の背景を知ろう
イラクでは、1980年代以降、戦争や内乱、過激派組織による攻撃を受けて、多くの人びとが国内外のより安全な地域を求めて避難し、国内では、2020年6月現在も約140万人が避難生活を送っています。一方で、もともと住んでいた地域や町での戦闘が終わり、避難先から地元に帰ろう(=帰還しよう)とする人びとも増えてきています。こういった人びとを「帰還民」と呼び、帰還先での安心・安全な環境を整える支援が必要になっています。
なぜ支援が必要なのだろう?
避難先の仮の住まいから自宅に戻り、生活を再建しようとする帰還民の前に立ちはだかるのは、爆撃等により破壊された町が抱える様々な課題です。その中でも、住む家が破壊されている、というのは深刻な課題です。爆撃によって屋根が吹き飛び、一部は崩れかけ、壁に穴が開き、家の一部分がすっかりなくなってしまっている家屋もあります。そのような状態の家に帰還し、壊れたままの家で生活を送っている帰還民が少なくありません。命だけは助かろうと身一つで家族と逃げて、避難生活の中で仕事を得ることが難しかった人びとは、自分たちで修復費用を出して直すことが難しいからです。
下の写真は、PWJが支援を実施している地域の破壊された家々の様子です。
「家が壊れたまま住むと、どんなことに困るだろう?」と想像してみてください。3つ以上、例を挙げてみることはできますか。
崩れかけた家に住み、破損した家にナイロンシートなどで即席の補修を行う家も。複数の家族が、狭い住居に同居している世帯も多くあります。
さて、いくつ思いつきましたか。以下は、ほんの一例です。
壊れた家に住んでいると・・・
・崩れかけた屋根や壁が落ちてきて、怪我をしてしまうかも。危険!不安。
・夏には、強い日差しや暑さで、体調を崩してしまうかも。
(イラクでは、夏には50度まで気温が上がる地域もあります。)
・冬には、寒さをしのぐことができず、病気になってしまうかも。
(イラクでは、冬にはマイナス15度以下まで気温が下がる地域もあります。)
・がれきや床のひび割れにつまずいて、怪我をしてしまうかも。
・トイレが壊れていて、家の外ですませないといけない。不便で、不衛生。
あなたがお父さん/お母さんだったら、子どもだったら、お年寄りだったら・・・
・“危険がいっぱいの家に子どもやお年寄りを置いて出かけるのは心配だし、お世話をしなければいけないので、仕事に出かけられない。”
→“収入がなくて、十分な食糧や衣服を買うことができない・・・。”
・“壊れていない部屋が2つしかない家に、親戚家族と一緒に住んでいる。もう18歳だし、子どもの女の子とは違うから、自分のスペースがほしい・・・。”
・“自分の世話をしてくれている家族が大変で、申し訳ない。迷惑をかけないように家の隅でじっとしていないといけないかな・・・。”
こんな風に、毎日を危険と不安の中で我慢して暮らす生活は、身体的にも、精神的にも健康な生活とは言えませんね。安心、安全な生活環境を整えることは、仕事に出かけたり、元気に遊んだり、前向きに生きるための大切な一歩になります。
どんな支援のかたちがあるのだろう?
PWJは、その一歩を支援したいという思いから、破壊された家屋の修復を支援する活動をイラクで行っています。戦闘で破壊された町で、帰還した人びとが活気を取り戻し、町が復興していく未来を支える、そのための一つの支援のかたちが、家屋の修復支援なのです。
もちろん、支援のかたちは一つではありません。家が修復され、生活や産業などの経済活動を営む上で必要な社会基盤が整うまでの間の生活を支えるために、厳しい夏や冬を健康に過ごすための衣服を配布したり、ストーブを配布したり、現金を給付したり。帰還民が経済力をつけられるように、就職しやすい環境づくりを支援したり。
様々な支援のかたちがある中で、どんな支援を行うか。それは、どの地域で、今、どのような支援が特に必要とされているのか、現地政府や国連機関、他の援助団体の支援実施状況も把握し、支援が重複しないように調整をしながら、自分の組織が持っている強みを活かせる支援のかたちを考えて決めていきます。
PWJは、現地政府や国連機関、他の援助団体と調整し、これまでの活動の経験を活かしながら、家屋の修復支援を実施しています。支援実施国であるイラク国内に事務所を持ち、エンジニア等現地の技術者をスタッフとして雇用し、できる限りイラク国内の資機材を利用することで、活動資金がイラクの経済活動に貢献するような工夫も行っています。また、時間や予算が限られる中で、必要な支援をより効果的に実施するために、支援の対象となる帰還民の声をよく聞くことも大切にしています。
支援によって人びとの生活はどう変わるのだろう?
さきほど考えた、「支援がなくて、壊れた家に住んでいたらどんなことに困るだろうか」ということを思い出して、「壊れた家が支援によって修復されたら、どう生活が改善されるのだろう」、と逆の発想をしてみてください。
PWJは、どのような支援をしたら、どのような効果を得ることができるか、事前に調査し、考えて支援の内容や実施方法を計画、実施しています。また、実施した後に実際の効果を確かめることも大切です。
PWJが家屋の修復支援を実施している家族の声を聞きました。
危険から逃れるため避難し、約3年3ヶ月間の避難生活を経て帰還してきたMさんの声です。自宅が修復されるまで、2年以上、壊れた家に住み続けていました。
「戻ってきた時、家は過激派組織「イスラム国」によって破壊されていました。水も電気もなく、また精神的にも苦しい状況でした。壊れている家の中では、蛇やサソリに刺される危険もあり、落ち着くことができません。また、体が不自由な家族がいるのですが、(壊れていない)適切な部屋が一部屋しかなく、つらかったです。
お金がなくて家を直すことができませんでしたが、今はPWJの支援で修復され、寒さや暑さから逃れることができます。これからは、農作業をしたり、家畜の世話をしたり、子どもを学校に通わせたり、以前は普通だった日常を取り戻していきたいと思います。」
同じ町に帰還したAさんはこう言います。
「家の破壊状況がひどく、崩れずに残った一部屋で家族全員で生活していました。修復のおかげで、今では2つの部屋に台所、シャワールームにトイレもあります。日々の生活必需品を買うことも難しいくらい経済的に困っていたので、大変助かりました。」
何ができるか考えよう
さて、今回はPWJのイラクでの活動を例に考えていただきました。
何が起きているのか(背景)を知り
→支援がないと人びとはなぜ困るのか想像し、調べてみる
→どんな支援ができるのかを考える
→実践してみる
ぜひ、今回の事例を通して、考えたこと、感じたことを周りの人と話し合ってみてください。また、PWJや様々な団体が実施しているの他の支援事業を例に考えてみてください。身の回りで起きている様々なことに対して、興味を持ち、考えてみること、そしてできれば自分でできることを実践してみること。そうすることで、支え合いの輪が広がり、よりよい社会に繋がっていきます。
PWJは、そんな輪を支える活動を、これらからも継続していきます。
※本事業は、ジャパン・プラットフォームからの助成金とみなさまからのご支援で実施しています。