診療人数は通常の3倍にも 4月末までの医療援助活動
ピースウィンズ・ジャパンがイラク国内での緊急対応を開始した3月下旬以降、4月末までに実施した医療援助活動の概要がこのほどまとまりました。ピースウィンズ・ジャパンの緊急医療チーム(最大時12チーム)が直接診療を行った通算診療人数は、旧中央政府側の地域を加え約18000人(通常巡回診療プログラムを含む)。クルド人自治区内では、国内避難民による人口増加などが影響し、従来の巡回診療と比較して1日平均の診療者数が3倍にもなっている地域も見られました。ピースウィンズ・ジャパンでは、このほか、医療機関などに対する支援も続けていて、間接的な支援を含めると受益者数は少なくともこの数倍にのぼると考えられます。
イラク戦争が避けられない見通しとなった3月17日ごろから、旧中央政府側のキルクークや旧中央政府と自治区の境界線付近、それに自治区内の都市部から住民たちが、自治区北部や山間部などへ避難し始めました。緊急対応開始当初は、避難先の混雑や寒さのため、風邪を含む呼吸器系感染症がもっとも多くみられました。下痢症の小流行が一部の地域・避難先で一時みられたほか、流行性耳下腺炎(おたふく風邪)の流行もありました。
ビタミン欠乏症の徴候である口角炎などの発生はありましたが、幸い、感染症の大規模な流行、栄養失調の増加、死亡率の増加などの事態は避けられました。子どもや老人、妊婦などの弱者グループの健康状態も一時、悪化しましたが、多くの地域で避難生活の長期化が避けられたため、それ以上に深刻な状況になりませんでした。
旧中央政府側での活動が可能になったことを受けて、ピースウィンズ・ジャパンは4月13日から旧中央政府側での巡回診療を開始しました。モスル県のティフケフ、アニシフニ両地域にある4つの村で、バグダッドなどから避難し、終戦後も帰還が困難なために避難生活が長期化している人を中心に診療を行いました。モスル県の4月末までの診療者数は1953人でした。旧中央政府側ではこのほか、キルクーク市内の3病院とモスル市内の6病院に食糧を提供し、モスル市内の3病院にスタッフ送迎用のバスの貸与を行いました。
クルド人自治区内では、ドホークなど都市部からの避難民も巡回診療の対象に加えて通常の活動を継続しました。また、多くの避難民が滞在していたドホーク県マンゲシ地域の村などにも巡回診療の対象を拡大しました。ドホーク県のマンゲシ地域とバーマルニ地域での1日平均の診療人数は計約250人と、通常時の約3倍になりました。緊急支援活動として、アルビル県のソーラン地域で、キルクークからの国内避難民とアラブ系投降兵の難治例に対する医療支援を行いました。また、自治区内の計6ヶ所の診療所にそれぞれ2000人の人口を1ヶ月間カバーするための緊急医薬品を提供しました。
一方、一般の病院での対応が難しく、本来ならモスルやバグダッドの病院での診療が必要な重症患者が18例ありましたが、戦争や病院機能の停止のために紹介ができませんでした。こうした患者の中には、待機中に病状が悪化してしまった人もいます。
ピースウィンズ・ジャパンでは、4月以降、バグダッドでの支援活動も開始するなど、イラク(クルド人自治区を含む)での支援をさらに活発に展開しています。なお、これらの支援にはジャパン・プラットフォームの支援を得て、緊急時に備えて購入・備蓄していた医薬品なども活用しています。