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私たちの活動

【イラク】現地スタッフインタビュー(下)一児の母、人道支援に携わる者として

時が経つと、やっと私たちの声が世界に届き始めました。医療支援や日用品の支給など、生活するために必要なものを得られるようになったのです。しかしその2ヵ月後には、もう危ないことはないので故郷の家に帰るよう通達されました。帰国の途に就いた人びともいましたが、多くの家族はそこに残るか別の国へ移っていきました。
私の家族は、弟の体調がとても悪く、瀕死の状態だったため、母はそこに留まることも他の国へ連れて行ってくれるNGOを待つことも拒否し、父を説得して帰国することにしました。あのとき帰国したおかげで弟は生き続けることができ、本当に良かったと思います。弟は今では27歳になり、人道支援団体で働いています。
すべてが落ち着き、もう逃げる必要がなくなったと喜んでいたのも束の間で、2003年にフセイン政権を打倒する戦いが始まると、また逃げなければならなくなりました。しかし、この時は以前とは違い、お金がある人は近隣国へ容易に逃れることができたのです。私たち家族は収入が乏しかったので逃げることができず、空爆の最中、村にある洞窟や地下に避難していました。戦闘の前線に近かったため、村は誤爆の被害を受けることもありましたが、地下に隠れていたので救われ、幸運でした。この戦争が終わったとき、フセイン政権が消滅し、もう逃げなくてもよいとわかって喜びました。
しかし、2014年に「イスラム国」がイラクでも攻撃を始め、モスルやシンジャール地方を制圧し、彼らの信仰のもとに何千もの無実な市民を殺害しました。たくさんの人びとが山の中へ逃げました。「イスラム国」の戦闘員は異なる信仰を理由に、若い女性をさらって性奴隷にしました。そのため、クルド人自治区にいたヤジディ教徒は、自分たちの尊厳と信仰を守るため、再びトルコへ逃げ始めました。

イラク

当時、私はピースウィンズ・ジャパン(PWJ)で働き始めており、山中から逃げてくるシンジャール地方の人びとに水や食料などを配布していました。父は電話で、「荷物をまとめ、生後6ヶ月になる娘を連れて、兄妹やいとことともにトルコへ逃げなさい」と言いました。「イスラム国」がクルド人自治区に迫っていたからです。しかし私は、「ひどいことにはならない。PWJの一員として避難してきた人びとを助けているから、必要とされているのに自分が逃げるわけにはいかない」と伝えました。
私の兄妹・いとこ・親戚・友人、ドホークにいたヤジディ教徒の知人はすべて、トルコや周辺地域に逃げました。残ったのは、両親、夫と娘、義理の両親、兄家族と私だけでした。国外に逃れた親戚からは、1日に何度も電話がありました。「私たちヤジディ教徒は『イスラム国』のターゲットだから、イラクを出たほうがいい。彼らは、私たちを不信心で悪を崇拝し、イスラム教徒やキリスト教徒のように聖典を持たないと考えているのだから」と。
それでも、私は国を出ようと思いませんでした。夫や母、義理の母には「私が仕事に行っている間に『イスラム国』が攻めてきたら、とにかく娘を連れて逃げて。私は何とかするから」と話していました。

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イラク国内避難民へ衛生用品や食料を配布するPWJ現地スタッフ

私たちは「イスラム国」の前線から15キロほど離れたイラク北部ドホーク州に位置するガウィラン・キャンプでシリア難民の子どもたちに夏服を配り、ドホーク州やザホ市ではイラク北部のシンジャール地方から逃れてきた国内避難民への食糧配布をしていました。
当時の私はとても判断が難しい状況にありました。一児の母として娘を守る責任がありつつ、人道支援に携わる者である以上、任務を果たさなければなりません。決断は難しかったものの、自分の心に問いかけた結果、ここに残って人びとの助けになりたい、シリア難民や国内避難民に何か起これば私もともに立ち向かおう、とそう思ったのです。10日後、アメリカ軍の空爆により、クルド自治政府の軍事組織(ペシュメルガ)の対「イスラム国」攻撃が後押しされ、「イスラム国」によるクルド人自治区への進撃は回避されました。
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PWJが支援活動を行うイラク北部クルド人自治区では、彼女のように、自身も難民や国内避難民になった体験を持つ人が大多数といっても過言ではありません。彼女たちは、クルド人自治区に避難しているシリア難民やイラク国内避難民の人びとの苦悩が痛いほど分かります。だからこそ、彼らの気持ちに寄り添い、長期化する避難生活の質が少しでも向上するよう、日々頑張っています。
PWJは、彼女らとともにこれからもシリア難民やイラク国内避難民へ必要な支援を届けてまいります。引き続き、皆さまの温かいご支援をどうぞよろしくお願い致します。
▼関連リンク
現地スタッフインタビュー(上)安全な場所を求めて逃げ続ける(2016.8.15)

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