【モルドバ】モルドバで慢性疾患のある障害者に医療支援を始めました
ロシアによる侵攻以降、ウクライナの南西に位置する隣国モルドバには、およそ85万人がウクライナから避難し、UNHCRによると現在もおよそ11万人が滞在しています。その中で慢性疾患を抱えた障害者を対象に、ピースウィンズはモルドバのNGOキーストーン・モルドバと連携して医療支援を始めました。並行して避難民を受け入れている地域の障害のあるモルドバ人にも同様の支援を行っています。
キーストーンの調査によると、今なお多くの障害者が支援の手から漏れている恐れがあります。医療資格者からなるモバイルチームが各家庭をまわり、医療施設に行くのが難しい人々に必要な医療的ケアや医薬品を届けています。
個々の必要に応じて医薬品をお届け
まず、私たちは慢性疾患を抱える障害者のうち、支援を必要とする人がどれくらいいるかを調査しました。首都だけでなく地方都市を巡回し、これまでにウクライナ避難民、モルドバ人の合計87人に医薬品を提供し、服薬指導や生活指導も行いました。支援物資は、医薬品の他に、血圧計、吸引器、補聴器なども含まれます。地元の社会福祉担当部局や、地元のかかりつけ医とも連携しながら、一人一人にあわせた薬の処方や、医療的ケアプランも作成しています。
●言語機能と運動能力の回復
ムコライウ出身の70歳のウクライナ人女性は、脳卒中の発作を起こした後、後遺症となった左側の麻痺やめまいに苦しんできました。侵攻を受けて、娘と一緒に、なんとかモルドバに避難してきました。キーストーンによる脳卒中後遺症治療支援を受けた結果、いまも麻痺が少し残るものの、自立した生活ができるようになるまで回復しました。
タチアナ医師(左)と女性
「モルドバに来て、こんな風に立ったり、歩いたりできるようになるまで良くなるとは思っていませんでした。それに、大部屋だった前の避難所に比べて、今は個室のある避難所に引っ越すことができて、ずっと暮らしやすくなりました。この間、娘はウクライナに帰りました。いまは一人ですが、何でも自分でできています。今日は先生のお顔を見られて、元気になりました」
毎日きちんと血圧を測り、決められたとおりに薬を飲んでいることを、嬉しそうにはきはきと私たちに教えてくれました。モバイルチームのスタッフも彼女の回復ぶりに驚いていました。「(このプロジェクトが始まる)前にお会いした時より、ずっと表情が明るく、お元気になられています。このプロジェクトでも治療を続けていけることが、彼女にとって、とても重要なことだと思います」と。
●チームの要のタチアナ医師
キーストーンのモバイルチームの要にいるのは、理学療法を専門とする医師のタチアナさんです。障害のある人を支えてきた長年の経験から、患者さんの気持ちに寄り添って話を聞き出し、適切な治療計画を作っていきます。最初の訪問では、過去の治療歴を確認した上で、患者の歩行能力や運動機能を観察します。血圧や体温、心拍数など、バイタルサインの測定もします。2度目以降の訪問では、患者本人、家族、地元のかかりつけ医と相談した上で、その人に必要な薬を届け、治療効果をモニタリングしていきます。
患者の話を聞くタチアナ医師
活動を通して障害のある人も暮らしやすい社会づくりを目指すタチアナさんは、人々の気持ちを汲んでくれるので、彼女が訪問すると患者さんは心を開いて自ら語り始めます。高血圧や心臓病の持病を持つ老夫婦は、自分たちだけが逃げてきたけれど、息子はオデーサの空港の近くに住んでいるから、空港が空爆されたら巻き込まれるのではないかと考えるといたたまれないと涙していました。心臓病のある女性は、息子と逃げてこられたものの、甥が軍隊で働いているために心配が尽きないと涙ながらに話していました。
避難してくるウクライナ避難民の人生は、一様ではありません。一人一人に寄り添った、適切な医療ケアやフォローアップをこれからも提供していきます。
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