【インタビュー】「緊迫するスーダン情勢に思うこと」海外事業部アフリカ地域マネージャー・福井美穂
アフリカのスーダンで首都ハルツームの治安が急速に悪化して、各国政府が自国民の救出にあたるなど緊迫した情勢が続いています。日本も自衛隊の輸送機を派遣して大きなニュースになりました。この背景にはどのようなことがあるのか、マネージャーとしてピースウィンズのアフリカにおける事業を担当する福井美穂に話を聞きました。
──スーダン情勢が緊迫しているようですが、そもそも何が起きているのですか?
福井 ひとことで言うと、スーダン国内の国軍と準軍事組織RSFの武力衝突ですが、ハルツーム近郊の被害とされていたものが、停戦の難しさから人道危機が「本格的な破局」的な状況になるという国連関係者のコメントもあり、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は5月1日、戦闘が続くアフリカ北東部スーダンからの近隣諸国への避難民が約81万5,000人に達する可能性があるという推計を示しています。ふたつの勢力の権力争いに加えて、コロナ禍やウクライナ戦争の影響で激しいインフレが起きたことや、2021年のクーデターで民主派を追い出した軍事政権への反発など、様々な要因が重なっていると思います。これまでに、近隣7カ国の南スーダン、チャド、エジプト、エリトリア、エチオピア、中央アフリカ共和国、リビアに約7万3,000人が避難しています。
──情勢が悪化していることはいつ頃から気づいていましたか?
福井 南で国境を接する南スーダン(2011年にスーダンと分離)でピースウィンズは2006年から支援事業を行っているので、現地スタッフと連絡をとりながら情勢は注視していました。去年の暮れぐらいからスーダンの治安が悪化しているという認識は持っていました。4月16日には南スーダンの首都ジュバでも警戒体制が敷かれるなど一時緊張はありましたが、そのタイミングでは停戦交渉も続いていたのですぐに全土的に広がる危機という受け止め方ではありませんでした。先週の段階では南スーダン側に逃げてきた人たちも4,000人ほどの、極度の貧困状態にある人たちではありませんでした。これから貧しい人びとの移動が始まるといわれていますが、スーダンで起きていることは、今後の展開については警戒が必要ですが、今の段階では10万人を超える規模の「人道危機」ではなく「治安の悪化」というのが私の認識です。
──「人道危機」と「治安の悪化」は違うのですか?
福井 明確な線引きがあるわけではありませんが、例えばジャパン・プラットフォームが支援に乗り出す「出動要件」では、紛争の場合は10万人規模とされていますが、今の段階では、スーダンの首都ハルツームを中心に起きている軍事政権と準軍事組織の衝突の結果としては、南スーダン側での流入は1万人程度のため、まだそれに該当するものではありません。紛争が長期化し、武力紛争が全土に広がっていくとその規模感は大きく変わっていくかと思います。それで言うと、実は南スーダンの方が全体状況としてはより厳しいと言えるかもしれません。
──南スーダンの状況はどのようなものですか?
福井 現在の国境付近を中心に、分離する前のスーダンと南スーダンの間で何年にもわたって紛争が続いた傷跡が残っていますし、経済の悪化と価格の上昇、また繰り返す干ばつと洪水による食糧危機、大量発生して穀物を食い尽くすサバクトビバッタの被害や、家畜の水場をめぐる苛烈な争いなど複合的な要因が重なって、南スーダンには数多くの国内避難民がいます。そのために、支援を必要とする避難所があります。世界各地で人道支援を行ってきた国連やNGOの職員も、南スーダンの状況は「本当に酷い」と嘆くほど、人々は厳しい状況に置かれています。
──そんなに厳しいのですね。その南スーダンでピースウィンズはどんな事業をしているのですか?
福井 井戸の修理をはじめとした給水、トイレなどの衛生設備の設置、食糧支援、感染症のまん延防止や井戸の管理といった啓発活動など、さまざまな分野で支援を行っています。4月には、北部のアッパーナイル州の緊急避難所で給水衛生支援を始めました。度重なる洪水の被災地で、近隣の郡で発生した武力衝突から逃れてきた人を含む多くの人々が劣悪な生活環境に置かれているところなので、これからもさまざまな支援を行っていきたいと考えています。
──福井さんご自身のお話を少し聞かせてください。長らく人道援助の現場に立たれて、支援をして状況が改善したところでも、紛争や自然災害が繰り返されてまた人々が苦しむ様子を見てこられたと思うのですが、それでも支援の最前線に立ち続ける動機というか心構えというか、何を心の支えにしていらっしゃるのですか?
福井 継続することにはそんなに強い動機があるわけではなくて、自分ではふつうのことをやっているだけだと思っています。
──ふつうのこと?
福井 私自身も、自分たちが困ったら誰か助けてくれる人がいると思っています。なので順番のような形で困っている人がいたら助けるというような、今は自分の順番だというある意味フラットな感覚があります。国際人道支援といっても、あまり特別なことをやっているとは思っていなくて、ふつうのことをやっている。実際、私たちが支援地に行く時にも、私たちが困っていたら支援する先の受益者の人たちが私たちを助けてくれることもあります。だから、私にとっては挨拶みたいなもので、「こんにちは」と言われたら「こんにちは」と答えるくらいの当たり前の感覚です。