気候変動と闘う。アフリカ・ケニアで起きている“不公平な”人道危機とは
2024年4月29日、東アフリカのケニアでダムが決壊し、大規模な洪水が発生。3月から続く大雨による影響で、ケニアを含む東アフリカ地域一帯で深刻な被害が出ています。この事態を受け、ピースウィンズはすでに長年活動してきたケニアの難民キャンプや周辺地域を拠点に支援事業を開始しました。海外事業部アフリカ地域マネージャーとして同地域の人道支援活動を統括する福井美穂に、アフリカ・ケニアが抱える人道危機の現状について聞きました。
参考:【ケニア】大規模洪水被災地における緊急支援を開始しました!
温室効果ガス排出量は少ないのに、その負の影響を強く受けるアフリカ
気候変動と聞いて、皆さんが思い浮かべるのは世界のどの地域でしょうか。地球温暖化が加速し、いま、世界中で異常気象が発生していますが、なかでもアフリカのサブサハラ地域が最も強く気候変動の影響を受けているといわれています。
しかし、気候変動の主な原因とされる温室効果ガスのアフリカの排出量は世界でも少なく、全土を合わせても数パーセントにしかおよびません。一人あたりの排出量で比較すれば、欧米、アジア諸国よりも圧倒的に少ないのが実情です(※1)。
国名 | 国別排出量比* | 一人当たり排出量* |
---|---|---|
中国 | 32.1 | 7.2 |
アメリカ | 13.6 | 12.8 |
インド | 6.6 | 1.5 |
ロシア | 4.9 | 10.8 |
日本 | 3.2 | 7.9 |
ドイツ | 1.9 | 7.1 |
韓国 | 1.7 | 10.5 |
アフリカ合計 | 3.6 | 0.89 |
出典:EDMC/エネルギー・経済統計要覧2023年版
*国別排出量比は世界全体の排出量に対する比で単位は[%]
排出量の単位は[トン/人-エネルギー起源の二酸化炭素(CO2)]
世界気象機関(WMO)は、気候変動によってアフリカの食糧安全保障や生態系、経済は悪影響を受け、住居や生計手段を失った多くの人々が移住や移動を強いられ、さらに枯渇する資源をめぐって紛争自体も悪化する可能性を指摘しています。
●アフリカ全域で気温上昇の傾向は継続。2021年は記録上、過去3番目または4番目に高い。
●アフリカの海面上昇は世界平均を上回る。特に紅海、南西インド洋は年間4ミリメートルのペース。2030年までにアフリカで1億800万~1億1,600万人が海面上昇の影響にさらされると予測。
●水の消費量増加に加え、干ばつや異常気象が頻発。水資源の需要と供給はさらなる圧力にさらされている。東アフリカでは、雨季の雨量減少や地域紛争などから特に状況が厳しく、5,800万人以上が食糧安全保障上の危機にさらされている。大陸全土で2億5,000万人程度が水資源の不足にあり、2030年までにはこれが7億人に膨らむ見込み。
●気温上昇により、アフリカの農業生産性は34%減少。世界が1.5度気温上昇すると、西アフリカではメイズの収穫量が9%、南部と北アフリカでは小麦の収穫量が20~60%減少すると予測。
出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)|世界気象機関、アフリカの気候変動リスクに関する報告書発表
温室効果ガスの排出量は先進国に比べて大幅に少ないにもかかわらず、その負の影響を限りなく受けているという“不公平”が、いまアフリカで起きているのです。
※1)参考:全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCA)|データで見る温室効果ガス排出量(世界)
気候変動による自然災害が難民キャンプをも直撃
ピースウィンズは、現在、ケニア国内のカクマそしてダダーブ難民キャンプ地域で人道支援を展開しています。どちらも開設から30年が経過した長期化する難民キャンプです。カクマの人口は28万人で当時のスーダン(現南スーダン)やビクトリア湖沿岸諸国から、ダダーブの人口は38万人で主にソマリアからの難民を受け入れています。
ケニア自体は、紛争地ではありません。しかし、紛争の影響を受けた難民を受け入れながら、気候変動による自然災害にも遭うという、複合的な危機下に陥っています。
難民の人びとは、紛争被害などさまざまな理由で帰国がかなわず、難民キャンプの人口は増加する一方で、最低限の人道支援に頼って暮らしてきました。人口が増えれば物資は不足し、生活環境における衛生面の問題などもより深刻化していきます。難民だけでなく、彼らを受け入れる側のホストコミュニティもこうした問題を抱えながら、ケニアでは6年連続で雨期に雨がほとんど降らず、ここ40年で最悪の大干ばつに見舞われました。
そして2024年4月末に起きた洪水は、ケニア、タンザニア、ブルンジをまたがる広いエリアに甚大な水害をもたらしています。気候変動は、こうした干ばつと洪水という両極の被害によって、土壌侵食、土地の劣化、害虫の発生などを呼び起こし、脆弱な立場にある人々の生活を圧迫しているのです。
ピースウィンズは、長年ケニアが抱える人道危機に対し、2016年から給水や衛生支援を中心に、シェルター、人道ロジスティックス、生計支援など多分野で難民支援活動を現在も続けています。特に多くの国連や国際機関と連携し展開してきた衛生事業については、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に最も優れた事業「ベストプラクティス」として選出されました。
ケニア政府は、5月5日時点で今回の豪雨・洪水による死者は228人、家屋倒壊や浸水の被害に遭った世帯は42,000以上になると発表。今回の洪水により、私たちが支援するカクマ・ダダーブ難民キャンプも被害を受けています。こうした事態を受け、ピースウィンズはこれまでの経験を生かして5月3日から初動調査を開始。主にこれまで支援してきた給水衛生施設への被害や、感染症の発生・拡大予防に焦点を当てながら、被災状況や必要とされる支援について調査を続けています。
気候変動の影響を受けた人道危機は誰が責任を負うのか
アフリカの人道危機のお話をすると、「遠い国の話」「自分とは関係ない地域」と思ってしまうかもしれません。長期化した難民キャンプの課題は「忘れられた危機」とも呼ばれ、国際支援も減少の一途です。そうした状況に重なるように、気候変動による干ばつや洪水被害等のさらなる危機が起きていることはあまり知られていません。
気温上昇と気候変動が人間の活動に原因があるとすれば、その影響によって起きた人道危機への対応は、私たち全員の責任であるといえます。
だからこそ、ピースウィンズは、世界各地で気候変動の影響を受けた人道危機を自分ごととして、支援をしています。アフリカ・ケニアで起きている災害についても、調査や緊急支援を行うとともに、災害に強い地域づくりのための伴走を続けます。
本事業はジャパン・プラットフォームやUNHCRからの助成とみなさまからのご寄付によって行われています。引き続き、温かいご支援をよろしくお願いいたします。