【トルコ】大地震の被害にあったシリア人被災者の心の傷に寄り添う提携団体職員たち
2023年2月に起きたマグニチュード7.8の大地震で5万人以上が犠牲になったトルコ南東部で、ピースウィンズは子どもたちと保護者の心のケアを続けてきました。この地域はシリアとの国境に近いため、避難生活を送る人びとの中には紛争から逃れてきたシリア難民も数多くいます。この事業を一緒に行なってきた地元NGOのソリダリティ・リスペクト&プロテクト(SRP)には、トルコ語だけでなくシリアの人びとが使うアラビア語を母語とするスタッフがいます。彼女たちがどんな思いで子どもたちの揺れる心を受け止めてきたのか、話を聞きました。
・チャイルド・フレンドリー・スペースでの活動
シリアと国境を接するトルコ・ハタイ県のイスケンデルン市。ここに、ユルドゥルムテペ・キャンプはあります。地震被災者が暮らす仮設のコンテナハウスが立ち並ぶ場所です。ここに、ピースウィンズはSRPと協力して、子どもたちが集まって遊んだり、素直な気持ちを表す方法を身につけたり、人間関係を学ぶことのできるチャイルド・フレンドリー・スペースを作りました。そこにはSRPの精神保健・心理社会的支援(MHPSS: Mental Health & Psychosocial Support)や子どもの発達分野における専門家がいて、紛争と地震で傷ついた子どもたちと保護者に寄り添ってきました。
学校に行く前や放課後と夏休み、キャンプの子どもたちはここに集まって、歌やダンスを習ったり、友達と一緒に遊ぶことを学んだり、工作をしながら気持ちを表に出したりして過ごしてきました。
・「人生はサボテンに似ている」
壁には子どもたちの様々な作品が飾ってありましたが、その中のひとつは手形を使ってサボテンを描いたものでした。
SRPのスタッフであるラマさんが活動の意図を説明してくれました。「これを作った時、子どもたちには『人生はサボテンに似ている』という話をしました。紛争と大地震を経験した子どもたちは、人生はトゲトゲしていると思うかもしれない。でも、サボテンは花を咲かせます。希望を持って自分の人生を作りましょう、という話をしてからこの作品を作りました」。ラマさんは、キャンプ暮らしで我慢することの多い子どもたちが自分の気持ちや感情を表に出せるようになる手助けとしてアート活動はとても重要だと言います。何も手に入れられないキャンプの子どもたちにとって、様々な色の素材や画材を使って作品を作る経験ができるチャイルド・フレンドリー・スペースは夢のような場所だったと語ります。「子どもたちは、『セーレーペー(SRPをこう発音する)と日本の人たちは天国を作ってくれた』と感じています」。
このプロジェクトは10月半ばで終了するため、子どもたちと保護者からは惜しむ声が寄せられ、子どもたちは小さなお菓子を添えた手紙をSRPのスタッフに届けてくれました。その中には、13歳のハリド君が日本語で書いた手紙もありました。機械翻訳に手伝ってもらった日本語ですが、それにしても立派な文章です。
・自身もシリアから逃れてきたSRPスタッフ
ここでは子どもたちはトルコ語ではなくアラビア語を話すため、スタッフもアラビア語を使える人たちが選ばれました。ラマさんもそのひとりで、2013年に内戦が激しくなったシリアから逃れてきました。曽祖父がハタイ県出身のトルコ人ですが、ラマさん自身はシリアのダマスカスで生まれて育ちました。両親もダマスカスで働いていましたが、内戦を逃れて一家でトルコに戻っていたのです。「ですから、子どもたちが何から逃げてきたのか、どんな経験をしてきたのか、私にはよくわかります」と語ります。
ファティマさんも、家族は元々トルコ出身ですが、自身はシリアで育ちました。内戦を逃れてトルコに一家で戻って、地震の後はトルコの移民局で働いていましたが、MHPSS活動に興味を持ってSRPに加わりました。子どもたちの笑顔は自分にとっても大きな喜びだと話してくれました。
シリアをよく知るギゼムさんはこう語ります。「もともとシリアは家族みんなで集まってよく笑う、人生を楽しむ文化なのに、紛争や地震があって、笑うことさえ忘れていたと言います。あるお母さんが、子どもと一緒にここに来るようになって『笑うことを思い出した』と言いました。笑ってもいいんだと思ってもらえたことが私はとても嬉しいです」。
セリンさんも、プロジェクトを通じて、子どもたちの変化を見ることができたと語ります。「『ゲーム』という言葉さえ知らなかった子どもたちが、今は人と仲良くなれること、一緒に遊べることを学びました。彼らにとっての課題はまだまだたくさんありますが、少なくとも人と一緒に何かをできるということは理解してくれたと思っています」。
このプロジェクトは、みなさまからのご支援とジャパン・プラットフォームからの助成金によって実施しています。トルコの地震被災者はまだまだ支援を必要としています。引き続き、あたたかいご支援をよろしくお願いします。