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イランの人びとを襲うインフレと暴力。反政府デモを経た街は今

広報:ピースウィンズ国際人道支援 ジャーナル編集部

イランを巡る情勢が緊迫しています。2025年12月末、瞬く間にイラン全土に拡大した大規模な抗議活動に対して、イラン政府は参加者の拘束・殺害を含む苛烈な取り締まりで応じました。政府の公式発表では犠牲者は3,000人超ですが、実際にはもっと多くの人が殺害されたとの指摘も多く出ています。

これに対し、アメリカのトランプ大統領はイラン政府を非難し、軍事介入を示唆して反政府デモを支援する姿勢をとっています。アメリカ軍がアラビア海に展開する米空母に接近したイランの無人機を撃墜したと明らかにするなど、緊張が高まるなか、2月6日にはアメリカとイランの間で交渉が行われました。

国同士の協議の行方が注目される一方で、大規模な弾圧を受けたとされるイラン国内の人びとの状況については、詳細な情報が報道されていません。イラン政府は武力弾圧やインターネット遮断などにより情報統制を図っているとされています。

私たちはイラン国内の状況や国民の苦境について知るため、かつてピースウィンズの仲間として共に支援に携わった、イラン人のSalim Mottaghi(サリム・モッタギ)さんにお話を伺いました。

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常軌を逸したインフレが反政府デモを引き起こした

テヘランから始まり全土に広がった大規模な抗議活動で、参加者が強く訴えたのはイランの危機的な経済状況への対応です。通貨リヤルの暴落とすさまじいインフレによって非常に苦しい生活を強いられていることが、多くの人を抗議活動に駆り立てました。

私は今国外にいて、実際のイランの今の生活を肌で感じることはできません。しかし、国内に住む知り合いから漏れ聞く話だけでも、大変に厳しい状況であることが伝わってきます。

例えば、私の母は12年前に3階建ての家を建てました。昨年親戚のために同じものを建てようとしたところ、内ドア1枚が、12年前家を建てた総額に匹敵する価格になっていたそうです。費用を抑えるため、母はあらゆる業者と交渉しました。ある日ドアノブを購入するための交渉中に急用が入り、ほんの30分ほどで対応を終えて戻ると、もうさっきの値段では売れないと言われたといいます。そのわずかな時間でドアノブの価格は20%も上昇したのです。

パンや野菜、肉といった基本的な食材でさえ価格が高騰しているので、過去数年で多くの人が生活費を稼ぐため、いくつもの仕事を掛け持ちしなければならなくなりました。昼間は銀行で働き、午後にはタクシー運転手、夜には警備員といった具合です。

1年前に母に聞いた話では、政府職員、あるいは大学教授のような高い給料の職業でも、小さいアパートの部屋の価格が給料の120年分に相当するそうです。この時から物価はさらに3倍、4倍に跳ね上がっていますので、状況はさらに悪化しているでしょう。

いったい人びとがどうやってやりくりして日々生活しているのか、想像することすらできません。ですが、とても、とても、とても困難な状況には違いありません。

反政府デモを経たイランの深刻な日常

常軌を逸したインフレに耐えかねて、人びとは抗議活動のため通りに繰り出しました。政府の圧力や報復、攻撃への恐怖があるにもかかわらずです。

しかしその後、デモは制御不能な規模に拡大し、平和的な抗議は大規模な暴動へと変わりました。そしてデモに対する政府の暴力的な対応が、事態を全く別の次元へと押し上げました。なぜそのような方向に進んでしまったのか、私は国内の知人を頼って情報を集めましたが、みな異なる見解を持っており、理由は判然としません。

なぜそのようなことが起きているのか、誰が関与しているのかを知るのは、今の時点では困難です。

現在は、大都市などでごく少数による散発的なデモが起きている程度で、以前のように組織化された大規模な抗議活動はありません。比較的落ち着いた状況です。しかしその理由は軍関係者が街で目を光らせているためで、根本的な問題が解決したわけではありません。

母がVPN回線や通信サービスを駆使して私に電話をくれた際には、状況はきわめて深刻だと聞きました。物価が再び急騰しているのに加え、多くのサービスが機能していません。特に深刻なのは医療サービスです。デモ活動に加わり怪我を負った人たちの数が膨大だったこと、さらに政府が抗議参加者を特定する目的で医療サービスを統制下に置こうとしていることがその原因です。

私の兄を含む何人かからは、「もう日常が戻りつつある」と言われました。でも、彼らと話していて気づいたんです。「普通」や「日常」への認識は、状況によって変わってしまうものだと。だから、その言葉を額面通りには受け取れません。

兄は、車を降りた瞬間に顔面に催涙ガスを浴びせられたことが何度かあったそうです。そんな目に遭うなんて普段の生活で想像しませんし、「普通」ではありません。そう指摘しても、彼は「でもそれ以外は大丈夫だよ」と言うのです。

どんなことも続けば日常になってしまう。だから彼らは、到底普通とは思えないような困難な状況にも、当たり前のことだと耐え忍んでしまいます。実際今も物価は上昇し続け、通貨制度は完全に崩壊しています。富裕層でさえ生活に苦労している状況です。

政府が閉ざす未来

抗議活動が広がって以降、母と連絡が取れない時期がたびたびありました。最初に電話で話ができたとき、ほんの1分弱ほどの通話でしたが、母の感じている恐怖が声から伝わってきました。彼女は今の国内状況について触れることを明らかに避けていました。電話が傍受されていることを警戒していたのでしょう。

そして、実際に母が「抗議活動は落ち着いてきた」と話し始めた途端、電話が切れました。まるで映画で見た冷戦時代のロシアのKGBです。まったくもって異常な事態ですが、これが今、現実的にイランで起きています。国外にいる私ですらこうなのですから、国内に残る人びとへの圧力は比べものにならないでしょう。

ここからどう事態が展開していくのか、本当に読めません。この時代に、平和を実現することの難しさを今、私はかみしめています。

2026年1月30日
Salim Mottaghi


暴力や混乱、経済危機の最大の被害者となるなのは弱い立場にある一般の人びとです。自身やご家族も恐怖にさらされながら、それでも現状を知ってほしいと取材に応じてくださったサリムさんの勇気に敬意を表します。

ピースウィンズは、1996年の団体設立以来、世界各国で危機にさらされた命を救うための活動を行ってきました。イランでは2003年に発生した大地震の際、現地にスタッフを派遣。テントの調達やテント村の設営、水・毛布・衛生用品の配布などの緊急支援活動を行ったほか、その後数年にわたって、耐震技術・知識の普及を図る取り組みを行いました。

現在、私たちはイランの状況を注視し、継続的に情報収集を行っています。危険にさらされる人びとがそこにいる限り、私たちは状況を見極めながら、どう寄り添うか模索していきます。

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広報:ピースウィンズ国際人道支援 ジャーナル編集部
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