『子どもの気候危機リスク指数(CCRI)』が示す、気候変動が子どもにもたらす影響とは?

気候変動による自然災害が毎年世界中で発生し、多くの人びとが犠牲になっているなかで、特に子どもたちへの影響が深刻化しています。ユニセフは2021年、『子どもの気候危機リスク指数(CCRI)』を発表し、気候変動が子どもの命や健康、教育、生活に深刻な影響を与えている実態を明らかにしました。この記事では、このCCRIの報告をもとに、気候危機が子どもたちにもたらす脅威と、大人が取るべき行動について解説します。
子どもの気候危機リスク指数(CCRI)とは?

『子どもの気候危機リスク指数(CCRI、Children’s Climate Risk Index)』は、気候変動によって子どもたちが直面するリスクの大きさを、国・地域別に数値で示した指標です。ユニセフとFridays For Future(若者たちが先頭に立つ国際的な気候変動アクション)の共同によるこの発表は、「気候危機は子どもの権利の危機である」という強いメッセージを世界に発信しています。
CCRIは、以下の2つの観点から各国を評価しています。
●子どもが直面している気候・環境ショックの度合い(洪水、熱波、干ばつ、サイクロンなど)
●気候・環境ショックに対する子どもの脆弱性(医療、教育、水・衛生サービスなどへのアクセス)
つまり、気温上昇や災害に加え、子どもたちが直面するリスクと支援体制の整備状況を「子どもの視点」から包括的に評価しているのです。
また、下記の表に示すとおり、CCRIのランキングの上位には、CO₂排出量がごくわずかな開発途上国が多く並んでいます。これらの国々は気候変動の原因をほとんどつくっていないにもかかわらず、その深刻な影響を受けているのが現状です。
一方で、中国や米国、日本などCO₂排出量の多い国々はCCRIの順位が低く、子どもたちが受けるリスクも比較的少ない傾向にあります。このことは、気候変動による影響と排出量の不均衡、そして世界の不公平さを浮き彫りにしています。
| 順位 | 国名 | 子どもの気候危機指数 | CO2排出量 (千トン) | 世界全体のCO2排出割合(%) | 一人あたりのCO2排出量(トン) |
| 1 | 中央アフリカ共和国 | 8.7 | 330 | 0.01未満 | 0.07 |
| 2 | チャド | 8.5 | 1,070 | 0.01未満 | 0.07 |
| 2 | ナイジェリア | 8.5 | 130,670 | 0.38 | 0.67 |
| 4 | ギニア | 8.4 | 3,120 | 0.01 | 0.25 |
| 4 | ギニアビサウ | 8.4 | 310 | 0.01未満 | 0.17 |
| 4 | ソマリア | 8.4 | 690 | 0.01未満 | 0.05 |
| 7 | ニジェール | 8.2 | 2,290 | 0.01 | 0.10 |
| 7 | 南スーダン | 8.2 | 1,380 | 0.01未満 | 0.13 |
| 9 | コンゴ民主共和国 | 8.0 | 2,200 | 0.01 | 0.03 |
| 10 | アンゴラ | 7.9 | 27,340 | 0.08 | 0.89 |
| 10 | カメルーン | 7.9 | 8,620 | 0.03 | 0.34 |
| 10 | マダガスカル | 7.9 | 3,370 | 0.01 | 0.13 |
| 10 | モザンビーク | 7.9 | 6,640 | 0.02 | 0.23 |
| 26 | インド | 7.4 | 2,434,520 | 7.15 | 1.80 |
| 40 | 中国 | 6.7 | 10,313,460 | 30.30 | 7.41 |
| 80 | 米国 | 5.0 | 4,981,300 | 14.63 | 15.24 |
| 90 | ロシア | 4.6 | 1,607,550 | 4.72 | 11.13 |
| 94 | 日本 | 4.5 | 1,106,150 | 3.25 | 8.74 |
気候変動がもたらす具体的な影響

気候変動がもたらす影響は、すでに世界中の子どもたちの命と生活を大きく脅かしています。ユニセフやCCRIによると、世界の子どもの約半数、およそ10億人が、深刻な気候リスクのある33カ国で暮らしています。
この章では、気候変動がもたらす子どもたちへの影響に焦点を当てて、その現実をお伝えします。なお、気候変動の原因や全体的な影響については、別の記事で詳しく解説していますので、ぜひこちらもあわせてご覧ください。
【関連記事】気候変動と災害#01|気候変動とは?原因と影響、世界で起きている自然災害を解説
水害と生活への影響

気候変動による水害は、子どもたちの命や暮らしに深刻な影響を与えています。特に洪水やサイクロンなどの自然災害によって、多くの子どもが日常を奪われています。
●河川洪水のリスクにさらされている子ども:3億3500万人
●沿岸洪水のリスク:2億4000万人
●サイクロンによる被害のリスク:4億人
洪水やサイクロンの発生により、毎年多くの子どもたちが住む場所だけでなく、教育の機会も失っています。たとえば、アフリカのモザンビークでは、ほぼ毎年のように被害が発生。2019年には過去最大といわれたサイクロン“イダイ”によって150万人以上が被災し、2024年12月にも大規模なサイクロン“チド”によって多くの人が被災しました。
【関連記事】ピースウィンズ|国際人道支援|モザンビーク
また、同じアフリカのブルンジでは、2021年の洪水により1年で5万人以上が国内避難民となり、水害で住む場所を失い、家族ごと強制的に移住させられる例もあり、子どもたちの生活に深刻な影響を与えました。
熱波・干ばつと食料危機

気候変動の影響で熱波や干ばつといった自然災害が増えており、多くの子どもたちが危険にさらされています。
●熱波のリスクにある子ども:8億2000万人
●水不足に直面している子どもの数:7億3900万人
熱波や干ばつによる畑や井戸の枯渇、家畜の飼育困難は、子どもたちの栄養不良や飢餓を引き起こす要因です。たとえば、アフリカのザンビアでは過去40年で最悪の干ばつにより、多くの子どもが重度の栄養不良で病院に搬送されました。
このような気候危機は、子どもたちの未来を脅かす重大な問題であり、早急な対策が求められています。
衛生被害・感染症

気候変動がもたらす水害や環境悪化は、子どもたちの健康に深刻な衛生被害や感染症のリスクを高めています。
●ベクター媒介性疾患(マラリア、デング熱など)のリスクにさらされている子ども:6億人
●大気汚染のリスクが非常に高い地域に住む子ども:10億人
●鉛汚染のリスクにさらされている子ども:8億1,500万人
洪水などの水害は、トイレや給水施設を破壊し、コレラや下痢性疾患、肺炎の流行を招きます。これは幼い子どもの死亡要因の上位に挙げられる問題です。2024年バングラデシュでは、サイクロンや洪水により1,800万人が被災し、数千のトイレや井戸が水没。結果として、下痢性疾患や肺炎がまん延しました。
気候変動による自然災害の増加は、子どもたちの健康や生活に深刻な影響を与えています。現在、約8億5,000万人の子どもが熱波や干ばつ、水不足、洪水など4つ以上の気候リスクが重なる地域で暮らしており、早急な対応が必要です。
子どもは気候変動の最大の犠牲者

気候変動は、地球の未来を左右する大きな環境問題であると同時に、現在の社会にある不平等を映し出す課題でもあります。特に影響を受けやすいのは、温室効果ガスの排出にほとんど関わっていない国や地域で暮らす子どもたちです。
ユニセフは、気候変動が子どもたちに及ぼす影響を「社会的・経済的な不公平の現れ」として捉え、世界に向けてその重要性を訴えています。
子どもたちが受ける気候危機の格差
気候変動の影響は、決して世界中に均等に及ぶわけではありません。チャドや中央アフリカ共和国など33の国の子どもたちが、極めて高い気候リスクにさらされていますが、これらの国々のCO₂排出量は、世界全体のわずか9%にすぎません。
一方、CO₂排出量の多い上位10カ国は、世界の排出の約70%を占めており、そのうち「極めてリスクが高い」とされるのは、たった1カ国のみです。つまり、気候変動にほとんど責任のない地域の子どもたちが、最も大きな被害を受けているのです。
こうした格差は国際間だけでなく、国内の貧困層や少数民族の間にも広がり、不公正な状況をさらに深刻にしています。
2050年ー子どもたちの未来に迫る危機
ユニセフが2024年に発表した『2050年の子どもたち(ユニセフ基幹報告書「世界子供白書2024」)』では、現在の子どもたちが大人になる頃、深刻な3つのメガトレンドが生活や権利に大きな影響を及ぼすと警告しています。これらの課題に適切に対処しなければ、未来世代に深刻なリスクが及ぶ可能性があります。
以下に、報告書で示されたメガトレンドとその影響をまとめました。
| メガトレンド | 主な内容・影響 | 具体的数値・予測例 |
| 人口動態の変化 | 子どもの割合が低下、地域ごとの偏在により社会サービスが不足する懸念 | ・2050年の子ども人口:約23億人(横ばい) ・アフリカでは40%以下、東アジア ・西欧では19%以下に低下 |
| 気候・環境危機 | 子どもたちの居住地における災害リスクが増大 | ・熱波:最大8倍に増加 ・河川洪水:3.1倍 ・山火事:1.7倍に増加 |
| 先端技術の影響 | AIやデジタル技術の進展により、教育や医療の格差が拡大する可能性 | ・情報格差やプライバシー侵害、ネット依存などの新たな課題が浮上 |
人口減少と高齢化の進行は、地域ごとに子ども向けの社会サービスに偏りを生み、気候危機は安全な生活環境を脅かします。また、先端技術の恩恵は大きいものの、情報格差やデジタル環境の安全確保は大きな課題です。
もっとも深刻な地域:アフリカの現実

アフリカは、気候変動が子どもたちに与える影響が最も深刻な地域です。CCRIの評価では、対象となるアフリカ49カ国のうち39カ国の子どもが高リスクまたは極めて高リスクにあるとされています。特にチャド、中央アフリカ共和国、ナイジェリア、ソマリアなどでは深刻な状況です。
アフリカで気候変動の影響が拡大している背景には、貧困や医療・衛生の未整備、紛争などの複合的かつ慢性的な脆弱性が存在しています。それにもかかわらず、各国政府や国際機関が気候変動対策のために拠出する「気候資金」のうち、子ども向けに使われているのは全体のわずか2.4%にすぎません。支援が子どもたちに確実に届くようにするための対策が、いま強く求められています。
こちらのコラムでは、温室効果ガス排出が少ないアフリカ・ケニアが気候変動の影響を深刻に受けている現状を解説しています。国際支援の取り組みも紹介していますので、ぜひご覧ください。
【関連記事】気候変動と闘う。アフリカ・ケニアで起きている“不公平な”人道危機とは
大人が今できること、するべきこと

デジタル機器に囲まれた快適な暮らしに慣れた私たちは、つい世界の現実から目をそむけてしまいがちです。しかし今、国際社会は深刻な気候変動、自然災害、格差の拡大といった地球規模の課題に直面しています。私たちに求められているのは、こうした現状をしっかりと理解し、具体的な行動を始めることです。
ユニセフや国連は、世界各国や企業に対し、以下のような取り組みを推奨しています。
●子どもに不可欠な水・保健・教育などのサービスの適応力と回復力の強化
●温室効果ガスの大幅な削減(2030年までに2010年比で45%)
●子どもたちへの気候教育やグリーンスキル(環境スキル)の提供
●子どもや若者の声を、気候変動に関する意思決定に反映する仕組みの構築
しかし実際には、各国の気候変動対策計画のうち、子どものニーズを明確に反映しているものは3分の1にとどまり、計画策定に子どもが関与した例はわずか12%という報告もあります。深刻な影響を受ける当事者であるにもかかわらず、子どもたちが取り組みに参加できない現状は大きな課題と言えるでしょう。
こうした状況を変えていくためにも、大人が子どもたちを支え、関与の場を広げていく責任があります。その第一歩として、家庭や学校で地球規模の課題に目を向け、子どもたちと共に考えることが大切です。ユニセフや国連が提案する取り組みを参考に、身近なところから環境保全やエコ活動、募金などに参加することも一つの方法です。
また、ピースウィンズが発信する国際人道支援や災害支援の情報に触れることも、現実を理解し、未来への意識を育むきっかけになるでしょう。
【関連ページ】ピースウィンズ国際人道支援|私たちの活動 気候変動・災害支援
まとめ:気候危機は「子どもの未来の危機」
私たち大人には、子どもたちの未来を守る責任があります。気候変動という大きな課題を正しく理解し、家庭や地域でできる小さな行動から始めましょう。子どもたちが声をあげ、安心して暮らせる環境を支えることが大切です。また、世界の子どもたちの現状にも目を向け、地球規模の取り組みに子どもたちと共に考えながら、少しずつ力を添えていく姿勢が求められています。
【参照】
unicef|子どもの気候危機報告書 約10億人が極めて高いリスク 子どもの気候危機リスクをランキング
unicef|「子どもの気候危機指数※」国別ランキング
unicef|「2050年の子どもたち」 少子化、気候・環境などの脅威にさらされる子どもたち ユニセフ「世界子供白書2024」で警鐘」
unicef|COP26 気候変動対応計画、2/3が子どもに配慮なし 各国政府に求める3つの行動
unicef|世界子供白書2024 2050年の子どもたち
国連|気候変動の影響
NHK|ユニセフが初予測 “2050年代の子どもたち 困難な状況に直面”

