【パレスチナ】「飢えて死ぬか、殺される覚悟で食料を取りに行くか」一刻も猶予のないガザの飢餓
「飢えて死ぬか、殺される覚悟で食料を取りに行くか」
これが、ガザ地区の多くの人びとが日々迫られている決断です。
イスラエル政府が管理するガザ人道財団(GHF)が本年5月下旬に食料配布を開始してから2ヵ月が経過しました。しかし、GHFがガザ地区で実施している活動は「人道」の原則からはかけ離れたものです。
南部ラファに設置されたGHFの配布ポイントには、中部、北部から数十キロの距離を歩いて食料を取りに来る人びとも少なくありません。配布ポイントに人びとが殺到すると、イスラエル軍は「混乱を避けるため」などとして発砲し、この2か月で1,000人以上が犠牲になっています。国境なき医師団(MSF)は、GHFによる食料配付システムを「援助に見せかけた虐殺」であるとして強く非難しています。
情勢悪化後、障害者のいる世帯への食料、衛生用品配付や現金給付事業でピースウィンズと協働してきたガザ障害者ユニオンの担当者が、ある女性のストーリーを伝えてくれました。
7月24日、7人の子どもを持つマリアさん(40歳)は、食料を受け取りに出かけた南部ラファにあるGHFの配布所で、イスラエル軍に頭部を撃たれ死亡しました。その日、ガザ地区当局は、「配布所には女性のみが食料を取りに行くように」と呼び掛けていたのだそうです。
マリアさんは数ヵ月前に夫を亡くし、迫りくる飢餓とイスラエル軍の攻撃の中で子どもたちを養う責任を一人で背負ってきました。子どもたちは2週間以上も飢えと窮乏に耐えており、マリアさんは子どもたちの命を守るために決死の覚悟で配布所へと向かいました。しかし、食料の袋を持って子どもたちの元へ帰ってくるはずだったマリアさんは血まみれになり、遺体袋に入って戻ってきました。
このマリアさんのように、命がけでGHFの配給地点に食料を取りに行かなければならないほど、ガザの人びとは追い詰められています。国連によると、ガザ地区のほぼ全人口(約210万人)が食料不足の状態にあり、半数以上が栄養失調で命の危険に晒されています。マリアさんの話をしてくれた障害者ユニオンの担当者も、「1日に手に入る食料は1杯のスープと僅かなサプリメントだけですが、これでも私は恵まれている方です。1杯のスープも手に入らない人も沢山います」と語ります。
3月上旬以降はイスラエル当局によってガザ地区の検問所が封鎖され、物資もほとんど入らず、状況は常に最悪を更新し続けています。
この状況に対し、国際社会からも非難の声が上がり始めています。7月21日、日本を含む28ヵ国とEUが共同声明を出し、一刻も早い停戦の実現と人道支援物資の搬入制限の解除を呼びかけました。また、各国の100を超える援助機関も、ガザ地区で深刻化する飢餓に警鐘を鳴らし、人道支援物資の搬入や即時停戦などを求める趣旨の声明を出しており、ピースウィンズもこれに賛同しています。
ピースウィンズは、2023年10月の情勢悪化以来、紛争の影響を受けた人びとへの支援を継続しています。本年5月から6月にかけて、ガザ市や中部デール・アル・バラハ県、南部ハン・ユニス県にて、のべ12,695世帯に食料や衛生用品を配付しました。また、昨年8月からガザ市の避難所で約19,000人に給水を行っています。
食料パッケージを受け取ったある人は「今回の戦争中に右足を負傷して障害が残り、歩くことができなくなりました。これまでに、北部ジャバリアから南部まで、5回以上も避難を強いられ、その間に家は完全に破壊されていまい、今はガザ市内の避難民キャンプのテントで暮らしています。大工の仕事も失って収入源がなくなり、断続的な人道支援に完全に頼っています。この3ヵ月間、野菜が高すぎて買えませんでした。子どもたちは常にお腹を空かせています」と語りました。
戦争前は美しく、活気にあふれていたガザ地区では、2023年10月7日に情勢が悪化して以降、人びとが殺され、飢えや渇きに苦しみ、逃げ惑うことが日常になってしまいました。国際社会からもイスラエルに対する非難の声が徐々に高まる一方で、この虐殺が常態化し、報道の量も減少し、注目を集めにくくなっているとも感じます。
今一度、ガザ地区で繰り返されている悲劇、その中で懸命に生きる人びとに思いをお寄せください。
そして国際社会には改めて、即時かつ恒久的な停戦の実現と、ガザ地区全域のすべての人びとが人道原則に則った支援を受けられるよう、一層の努力を求めます。