【シリア】地域や家庭内での暴力を防止するための取り組み
シリアでは長引く内戦や経済危機などの影響で、多くの人びとがストレスや不安を抱えていたことから、ピースウィンズは2022年よりシリア国内で心理社会的支援(紛争や災害等で影響を受けた人びとの心のケア)を実施してきました。特に、2023年2月にトルコとシリアに大きな被害をもたらした大地震以降は、心理的ストレスからとみられる暴力が増えてきたことから、同年11月から、ストレスおよび地域や家庭内での暴力を減らすことを目的とした「暴力防止ワークショップ」を開催しました。
ワークショップは、子ども向け、保護者向け、親子合同の3つの形式で行い、相手を尊重したコミュニケーション方法や問題解決の方法、人権、地域や家庭内の暴力防止、体罰などによらない子育て、暴力が与える影響、子どもを理解してサポートする方法、物事への前向きな取り組み方、リラックスの仕方などを学びました。
地震で子どもの遊び場が倒壊したり、ドアが壊れたままの家に住み続けざるを得なかったりと、震災後のストレスや不安を抱えていた大人や子どもにとって、安全な環境で開催されたワークショップは、安心して自分を表現でき、新しい知識を学ぶ良い機会となりました。
ワークショップの参加者からは、以下のようなフィードバックがありました。
「家庭内での暴力が減った」
「自分をより適切な形で表現できるようになった」
「自信がもてるようになった」
「ワークショップを通じてストレスが減って、よく眠れるようになったし、安心できるようになった」


また、子どもと一緒に描画やゲーム、ディスカッションを行うセッションに参加した保護者達は、日常生活に良い変化が見られました。
「子どもとの合同セッションに子どもたちと一緒に活動して、子どもたちとの絆が深まった」
「子どもとの会話や一緒に過ごす時間が増えた」
「しつけだと思って、子どもを叱るときに叩いていたけれど、間違っていたと気づいた。今では子どもの気持ちを考えながらポジティブな子育てを心がけるようになった」
「ワークショップを通じて、子どもの発達段階について学び、年齢や成長に応じたしつけや叱り方への理解が深まった。その結果、家庭内での子どもに対する体罰が減った」
「家では忙しさを理由に息子に厳しく接してきたけれど、初めて息子の感情を理解できた気がする」
「自分の子どもに絵の才能があることを知らなかった」
「セッションを通じて、子どもへの愛情が増し、絆を深めることができた」


全10回のワークショップの最初と最後には、臨床心理学者のカール・コッホが開発した「バウムテスト」という心理検査を行いました。白い紙に描いた木の絵から、描いた人の内面や心理状態を読み解くものです。
参加者のある母親は、ワークショップの前には、今にも消え入りそうな小さな木を描いていました。線が細く、ひとつも実がついていません(上の絵)。しかし、ワークショップに参加した後には、しっかりと大地に根を張った木を描き、目標達成や充実感、欲求を象徴する実をたくさん描きました(下の絵)。左上に少し描かれている太陽は、この母親が希望を感じていることを表していると分析されます。


バウムテストを987人の保護者と子どもが受けましたが、70%の人に前向きな変化が見られました。ワークショップによって、自信や安定感が増したと判断できます。
ピースウィンズは今後も、シリアの人びとに対して心理社会的支援を続けていきます。
※ピースウィンズの活動は、ジャパン・プラットフォームからの助成金や個人・法人の皆さまによるご寄付により、実施しています。