教育現場に“平和の芽”を
ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)は2006年春に発生した東ティモール騒乱による緊急支援の一環として、2006年9月から国際平和協力センター(IPAC)と協力して、対話促進のための教育支援の取り組みを続けています。教育の現場に、「暴力の文化」ではなく、「対話の文化(平和の文化)」を根付かせるきっかけづくりが目的です。
東ティモールの人びとは長年の植民地支配など過去の過酷な経験や度重なる騒乱により深い心の傷(トラウマ)を抱えています。PWJが行った教育関係者への聞き取り調査からも、こうした過去の経験が、脅迫や暴力で問題を解決しがちな傾向と関連している可能性があることがうかがえます。その一方、騒乱をきっかけに東ティモール教育省などは、対話による問題解決のアプローチを学校教育に取り入れる試みを進めています。PWJとしても、対話・平和の文化が定着することが東ティモールの安定と復興をしっかりしたものにするとの考えから、国内避難民の支援やコーヒー生産者の支援に加えて、対話促進の事業を開始しました。
昨年12月13日には、東ティモール各県で小学校教員の指導にあたっている教員トレーナー28人を対象に、東ティモール教育省とユニセフ(国連児童基金)と協力して、初めての「対話促進のための教育セミナー」を開催。対話促進の専門家である外山聖子(IPACからPWJに出向中)が、「問題解決のためのコミュニケーションスキル」や「調停の手法」などについて紹介しました。
(C)PWJ/IPAC/SeikoTOYAMA
外山からの最初の質問は、「紛争という言葉を聞いて何を連想しますか」。参加者からの回答は「加害者にも被害者も悪いところはある」「目に見えない対立がある」「自分の心の中で対立していることもある」などで、「問題を起こす人を殺せば解決することもある」という答えさえありました。外国人からの「暴力はよくない。対話で問題を解決しよう」というメッセージが、あまりにも短絡的で現実ばなれしたものに聞こえるかもしれないという開催前からの不安もあり、外山らはできるだけ慎重にセミナーを続けました。そして、「投石や放火などの暴力では、根本的な問題解決にはならない」、「対話を通じて他者と歩み寄る術を身につけることが、暴力を使わずに問題を解決する方法であること」というメッセージを参加者に何度も伝えました。
セミナーの後、3県のトレーナーから、「私たちの県で、教職員たちにこのセミナーをしてほしい」と依頼がありました。セミナー参加者の中には、問題解決には暴力が必要であると考える方もいましたが、平和的な問題解決へのアプローチという手法は参加者にとって非常に新鮮だったようです。
(C)PWJ/IPAC/SeikoTOYAMA
PWJでは今後も、教育省やユニセフなどとも協力し、ワークショップやレクリエーションイベントを通して、学校や避難民キャンプ内の教員、地域コミュニティに対し、対話による問題解決の普及を図っていきます。
※PWJの東ティモール国内避難民支援事業は、国際平和協力センター(IPAC)や、ジャパン・プラットフォームの協力を得て進めています。