【ウガンダ】難民居住地区を訪問して 自立へのエネルギーと支援の融合が生み出すもの 寄稿:理事 桑名恵
近畿大学教授で、ピースウィンズ・ジャパンの創立メンバーであり理事を務める桑名 恵が、ウガンダの事業地を訪問しました。実際に現地を訪れてみると、そこで出会った難民の女性たちのいきいきとした様子に「圧倒された」と言います。「アフリカの平和と安定の鍵を握る」というウガンダを視察してのレポートです。現地の女性たちの素敵な写真と共にご覧ください。
難民居住地区を訪問して
自立へのエネルギーと支援の融合が生み出すもの
人が自分らしく生活し、また社会を動かすにあたって、心から湧き上がる「いきいきさ」を持てることが、何よりも大きな原動力になる。
私が、2023年3月、チャカII難民居住地区に訪問した際に圧倒されたのは、女性支援センターで活動する女性たちのいきいきとしたエネルギーだった。
ピースウィンズは、2016年からウガンダに事務所を置き、難民支援を続けている。そのうちの一つがチャカII難民居住地区での支援である。給水施設建設や衛生促進活動に加え、近年は女性の保護の支援にも広がっている。ピースウィンズは、2021年、この難民居住地区に女性支援センターを建設し、難民やホストコミュニティの女性が気軽に集う場所を作った。この施設では、希望者に職業訓練(裁縫、美容、ICT技術の習得)や起業サポート提供しつつ、女性への暴力も含めなかなか表に出しにくい相談に対する窓口を設け、適切なサービスにつなげられるような体制を整えている。
「ここに来て仲間と話ができて、助け合って、自分の技術がどんどん上達いくのが楽しいです」、「自分の作ったものをSNSで発信して、注文が入って、収入が得られるようになりました。家族が私を見る目も変わりました」と口々に目を輝かせて語ってくれた。職業訓練の直接的なインパクトはもちろんのこと、子どもを連れ、女性がこのセンターで、楽しく語らい、歌を歌い、時にはダンスしながら活動をしている様子を見ると、信頼や強い絆が生まれていることもわかる。女性たちがいきいきとできる機会を得たことで、女性同士だけでなく、難民と近隣住民、難民居住地区と行政・NGOなど、様々な外との関係性が紡ぎ出され、人々に安心、平和をもたらす土台が作られている。
そして、職業訓練コースが終わった後も、多くの卒業生がグループで起業し、難民居住地区に店を構え、技術に磨きをかけている。継続的な収入を得ることで、いきいきさに自信が加わっている。また、3月8日の国際女性デーの大きなイベントでは、多数の住民、国際機関、行政機関関係者の前で、職業訓練の卒業生、現役生両方が集まり、「ピースウィンズ女性グループ」として力強いパフォーマンス披露していた。その輝きとパワフルな姿は、私を含め多くの人々を励まし、憧れを抱かせたように思う。
国際女性デーのイベントで歌や踊りの披露や作品を販売をする販売する女性たち
今回はさらに、難民が中心となって設立された団体(Refugee-led Organization)の調査も行った。これらの団体は、難民の経済的自立を促すだけでなく、難民自身の決定権の尊重、地域社会との協力、社会的な影響力の拡大を目指している。そして、その先には祖国の平和に働きかけることを見据えている。これらの団体の中心になっているのは、学生時代、奨学金などの支援を受け、高等教育や海外と接触の機会を得て成長してきた若者たちだ。若者や起業に対する革新的な活動を展開していることが多い。いきいきさに加え強い覚悟を持ったこの新しい世代は、難民の自立へのエネルギーと支援がミックスされることで生み出されたものだ。
このような先進的な動きがある一方、課題は援助資金の減少だ。近年、多くのドナーが撤退の傾向にある。しかし、難民の自立へのエネルギーだけでは、これまで築き上げられてきた平和の土台が崩れかねない。ウガンダはアフリカで最大の難民を受け入れる国であり、アフリカの平和と安定の鍵を握る。難民のいきいきさと組み合わせる継続的な国際社会の支援が必要だ。ピースウィンズはこうした支援環境の改善にも働きかけようとしている。そして、地球市民としての日本からの一人一人の関心がこうした動きへの大きな支えとなるだろう。
エネルギッシュなコンゴ民主共和国出身の難民女性たち。左から3番目が筆者
桑名 恵
近畿大学国際学部 教授。紛争地域の難民支援、平和構築支援、災害後の緊急復興支援について研究。特に、東ティモール、アフガニスタンの紛争後の復興、アジア地域の災害支援の研究を進める。ピースウィンズ・ジャパンの設立メンバーであり、現在は理事を務めている。