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コラム&インタビュー

【2025世界難民の日に寄せて(1)】
「たまたま生まれついた場所のために難民になる人がいる。その不公平を見逃さないようにしたい」
――ピースウィンズ・ジャパン イラク駐在 盛田青葉

広報:ピースウィンズ国際人道支援 ジャーナル編集部
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シリア難民キャンプの子どもたちと。中央右が盛田

6月20日は世界難民の日です(OAU=アフリカ統一機構=難民条約発効の日に由来します)。UNHCRによると現在、故郷を離れて暮らす人の数は全世界で1億2000万人を超えています。2025年の世界難民の日のテーマは、Solidarity with Refugees(難民との連帯)。500万人以上の難民と帰還民が暮らすイラクで、居住地の生活環境の整備と生計能力の向上を支援してきた盛田青葉に、難民と連帯するとはどういうことか聞きました。

難民キャンプの生活状況は厳しさを増している

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モスル市内では破壊の跡が各所に見られる

―― イラクは、ピースウィンズ・ジャパンが1996年に設立して以来事業を行っている場所ですが、支援対象はどのような人たちですか?

イラク北部のクルド人自治区を拠点に様々な支援を行ってきましたが、隣国シリアの政情悪化を受けて2012年からシリア難民の支援も始めました。2014年以降は「イスラム国」の攻撃を逃れてきた国内避難民と、その後イラク政府が「イスラム国」から奪還した地域に戻って生活を立て直そうとする帰還民への支援も行ってきました。

IOMおよびUNHCRによると、現在イラクには103万人の国内避難民と30万人のシリア難民がおり、加えて492万人の帰還民がいます。

―― シリアからの難民が暮らすキャンプでは、どのような支援活動をしてきましたか?

長引く避難生活で住居などが傷んでいるので、シェルターを修理・アップグレードしたり、衛生設備やインフラを修繕したり、またそうした修繕のための技術を身につけられるような訓練をしたり、道具を貸し出したり、修繕をしたら賃金が得られるようにする(cash for work)など、生活環境を良くすることと将来の仕事につながる技能が身に付くような支援を行ってきました。

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建設機材の使い方を説明して、機材を貸し出す

―― どのような変化がありましたか?

障害のある人が暮らすシェルターを改善したことで、人の手を借りないとトイレに行けなかった女性が人に頼らず自分で行けるようになって気持ちが楽になったと話してくれたり、高齢の女性が配管工事を学んで将来その技術で仕事を得たいと希望するようになった話を聞きました。こんな風に前向きに生活を改善していけたらいいなと思います。

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障害のある人の家にスロープや手すりをつけて、車椅子を提供

―― 帰還民にも職業訓練をしているのですか?

はい。かつて政府軍と「イスラム国」の間で激しい戦闘が行われた都市モスルで、破壊された街の復興のための建設需要があると考えて職業訓練を行っています。でも若者の失業率が30%を超える状況で仕事に就くのは簡単ではありません。

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モスル市での職業訓練の様子

―― 国内避難民が置かれている状況が大変厳しいと聞きました。

当初、国内の戦闘を逃れてきた人たちが長期にわたって避難生活を送るとは想定されていなかったので簡素なテント生活の人が多く、また現在イラク政府が国内避難民のキャンプを閉鎖して帰還を促そうとしているので、キャンプの生活環境は厳しさを増しています。

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国内避難民が暮らすテント

寄り添うことは難しい

―― 難民の日のテーマが「難民との連帯」ですが、盛田さんはどのように連帯というか、寄り添おうとしていますか?

キャンプで暮らす避難民の中には、戦争の中で拷問された人や、虐殺を逃れ、想像を絶する経験をしてきたヤジディ教徒など、私たちの暮らしとはあまりにも違う世界を生きてきた人たちがいるので、状況を理解するとか寄り添うとか軽々に言うことはできません。夏になったら40度を超えて息もできないくらい暑いキャンプと、空調の効いた私の部屋では同じイラク国内でも状況は違います。

寄り添うことは難しいです。でも、生まれた場所が違っただけでこんなに人生が違ってしまうという不公平を見逃さないようにしようと心がけています。それが私の原動力なのかなと思います。

―― この数十年のイラクを振り返ると、隣国イランとの戦争、独裁政権による圧政、アメリカの攻撃、アルカイダやイスラム国の攻勢と内戦などがあって、市民は翻弄され続けてきました。周辺国で何か起きるたびに難民も流入します。支援しても状況が好転しないのは辛いですね。

一朝一夕に改善しないのはジレンマです。支援活動を続ければきっと効果があるのに、資金援助が途絶えると中止になったり、もどかしいことはたくさんあります。でも、少しでも生活が良くなる人がいるなら、やらないよりやった方がいい。

故郷を追われるのは本当に辛い体験です。故郷への思いがあっても帰れない、キャンプに残らざるを得ないのは苦しいことです。でもそんな厳しい状況の中でも、自分にできることを見つけて生き生き暮らす人が難民キャンプにもいます。彼らが人間らしい尊厳のある暮らしを送れるようにサポートするのが私たちNGOの仕事だと思っています。

―― 盛田さんはアラビア語もできると聞きました。好きな言葉はありますか?

前任地のパレスチナのアラビア語では「ヤアティクラーフィエ」、イラクのアラビア語だと「アーシェトイーダック」。直訳すると、前者は「神様が良い状態を保障してくれますように」、後者は「あなたの手に祝福を」というような意味のようです。

ちなみにクルド語では「ダストホシュ」、イラクアラビア語と同じ意味だそうです。この言葉は、実際に使われる文脈でいうと日本語の「お疲れ様」に似ています。このお互いを労うような言葉が好きです。

 

盛田 青葉(もりた あおば)
大学院で国際公共政策(平和構築)を専攻。在学中に、縁あって内戦直後・復興期のスリランカに駐在し、紛争帰還民支援に携わる。その後、タイ、パレスチナでも災害復興支援・人道支援に従事。2021年4月ピースウィンズに入職し、ネパール駐在を経て、2022年10月よりイラク駐在。

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広報:ピースウィンズ国際人道支援 ジャーナル編集部
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