元女性兵士たちが食品加工技術をマスター
20年間続いた南北内戦が2005年に終結したスーダンでは、元兵士の社会復帰が課題となっています。2009年6月からは、南スーダン政府と国連開発計画(UNDP)によって、4年間に9万人の元兵士の復帰を目指すDDR(武装解除・除隊・社会復帰)プログラムが始まり、日本政府も1700万ドルの援助を決定しました。このプログラムの一環として日本の国際協力機構(JICA)が実施した職業訓練事業に、ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)高橋裕子が、JICA専門家としてかかわりました。その職業訓練事業を、2回に分けてレポートします。今回は食品加工コースに参加した元女性兵士たちの変化です。
元女性兵士が参加した食品加工の訓練コース(C)PWJ
私(高橋)は2009年9月から12月まで、JICAから事業実施を委託されたシステム科学コンサルタンツ株式会社(本部=東京)に出向し、南スーダンの首都にあたる都市、ジュバで、事業が順調に進むように監督(実施モニタリング)を行いました。
JICAは、元兵士向けの職業訓練の実施前、2007年から3年間、ジュバで一般の住民を対象にした職業訓練を実施してきました。その経験と市場調査、除隊兵のニーズ、そしてジュバ市内で実際に訓練を実施できる機関・団体を考慮に入れ、木工・縫製・ホテルサービス3科・食品加工・建築・金属加工の8分野の訓練を実施することにしました。
実際に、食品加工の訓練を実施することに決まったのは、内戦中も地道に活動を続けていたNGO「女性自立開発機関(WSHDO =Women’s Self-help Development Organization)」。WSHDOは、1975年に地元のママ・ルーシーが創設した、女性の自立を支援し続けている団体です。
募集に対して、元兵士以外の一般の住民12人を含む31人の女性が応募し、訓練が始まりました。家事・育児を担う女性の日常生活を考慮し、訓練期間を6週間と他の訓練期間より短めに設定しました。
子連れの参加者も多数(C)PWJ
除隊兵を対象にした訓練は、WSHDOとしても初めてだったため、開始当初は経験豊かな講師も戸惑い気味でした。訓練生の夫たちが、女性が職業訓練を受けることに対して理解が全くなかったため、遅刻者が絶えず、集まってもなかなか集中して講師の話を聞こうとしませんでした。「訓練を受ければ後は食べ物も、その後の生活もすべてWSHDO、JICAが面倒を見てくれるもの」という考え方が大半で、訓練に対しても常に受身の姿勢でした。グループで何か作業をする、という経験もあまりなかったようで、時々いざこざも起こりました。
しかし、訓練を進めていくうちに、女性たちは講師たちも驚くほど変化しました。女性たちが自分自身で生計を立てていく技術を身につけたことにより、自信を持つようになったのです。大半の参加者が修了後、自分たちで店を構えることに意欲を示し、何人かは修了前に自分の店舗スペースを市場に確保していました。
食品加工コースの修了式は、他のコースより一足早く、11月20日に実施されました。訓練生の半数以上が英語の読み書きはできないのですが、彼女たちは英語で書かれた式のプログラムを大事そうに夫たちにも配ったそうです。
卒業証書を持つ元兵士の女性(C)JICA
南スーダン政府労働省幹部、UNDP職員、JICAスーダン事務所長らが参列するなか、WSHDO代表のママ・ルーシーは、こうスピーチしました。
「見てください、彼女たちを。訓練開始当初は彼女たちがこうして静かに座って人の話を聞いているところなんて想像もできませんでした。それが、この6週間で彼女たちは自立する術を身に付け、自信にあふれています」
それまで戦争と家事にかかわることしか知らなかった女性たちが、自分たちで生活するための力をつけていく過程を目の当たりにして、私も事業の重要さをあらためて実感しました。