公共トイレが人びとに与える好影響
ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)が、ジョングレイ州ボー郡で2010年度も継続しているトイレの建設事業は順調に進んでいます。現在は、完成したトイレの引渡式とあわせ、先生、生徒の「衛生クラブ」(日本の学校の「美化委員会」のようなもの)、ならびにPTA役員を対象に「トイレと衛生講座」を実施しています。
過去に建設したトイレの受益者を対象にしたモニタリングから学んだ点を活かし、今回の「トイレと衛生講座」は、衛生クラブの生徒たちが主体となって進める、新入生や周辺コミュニティを主な対象にした、学校レベルでの衛生状況の改善の取り組みをサポートできるものになればと考え、準備を整えています。
そんな中、トイレの引渡式と「トイレと衛生講座」の準備のため訪れたパリアック小学校で、トイレの完成を喜ぶ校長をはじめ、先生たちが学校全体で衛生向上に臨む姿勢を口々に語ってくれました。
PWJ建設のトイレを背にポーズを決めるパリアック小学校
の先生たち(中央の青い服が校長先生)
(C)PWJ/Ayuko TAKAHASHI
「これで、子供たちが遠くの藪に用を足しに行くことによる授業の中断や、特にさらに遠くまで用足しに行く女子生徒たちが、授業についていけなくなってしまうことも少なくなるだろう」
「(トイレが学校にできたことで)生徒たちは、アイデアとしてはあった『学校における衛生向上』をこれから体験し、その価値を実感することができる」
「ボータウンから車で約1時間半、僻村といっても過言ではない場所柄、年配のコミュニティメンバーの大部分は、トイレと衛生向上を関連付けて考えてはいない。見た目がきれいで存在感のあるこのトイレについて、コミュニティの方から『あれは何?』と、すでにたくさんの質問が寄せられている。機会をみつけてトイレと衛生向上を啓蒙していきたい」
中でも、校長先生の言葉が胸に沁みました。
「南部スーダン全般にいえることだが、ディンカ人の生活の中にトイレが存在したのは本当に最近のことだ。公共施設である学校にトイレができることが、子供たちに衛生向上を体験学習する機会を与える。そして、すべての家庭にトイレが必要だとコミュニティが思い、自分たちの手でトイレを建設しようとする努力を始める日が、このプロジェクトの本当のゴールになるだろう。」
この校長先生は、パリアックコミュニティで初めて自宅に自費でトイレを建設した人物です。自分の力で深さ5メートルの穴を掘り、給料を貯めて、トタン、コンクリートなどの建設資材を購入し、校長の仕事をこなす中、のべ3か月という労働時間をかけて作り上げたそうです。「伝統的な用を足すやり方を、トイレに置き換えていくために、まずだれかがその利点を示さなければならないと思った。」と語る校長先生は、コミュニティの反応をこう説明してくれました。
「『大人は集落からより遠くに離れた藪で用を足す』という先入観をもつ人々は、集落の中の、しかも自宅の敷地内に用を足す場所―トイレ―が存在するという感覚が摩訶不思議だったようで、最初のうちはずいぶんとからかわれた。しかし、自分や家族がトイレを使用するのを見ることに慣れていくうちに、近所の人がトイレを貸してほしいと言ってくるようになった。最近トイレの作り方を聞きにきた家族が、コミュニティで2基目にあたる家庭用トイレを建設した。ゆるやかではあるが、衛生向上の概念は確実に浸透していっているように思う。」
コミュニティ初の自宅のトイレで消臭剤をまく校長先生
(C)PWJ/Ayuko TAKAHASHI
パリアックコミュニティ2基目の家庭用トイレ
(家主は残念ながら家畜を連れて遠出中)
(C)PWJ/Ayuko TAKAHASHI
トイレを建設すること、それ自体がさらなる衛生向上プロジェクトの始まりになります。パリアック小学校の先生たちは、「引渡されたトイレを大切に使うこと」、「トイレを日常的に使用し、掃除などのメンテナンスを行うこと」は、生徒一人一人の衛生の知識を向上させ、保健衛生の大切さを実感しつつ学べる場を提供することにつながると語ってくれました。下痢で苦しむ子供たちが少なくないコミュニティの人びとと、この新しいトイレを使用する生徒たちが、先生方のように、家族やコミュニティに対して衛生向上を啓蒙していくことを願いつつ、トイレの引渡式の準備を行っています。
ナイル川のほとりのゴミ捨て場で遊ぶ子供たち
(C)PWJ/Ayuko TAKAHASHI