【パキスタン】洪水を引き起こした「3つの水」 気候変動による災害の変化
2023年1月、ピースウィンズ職員は、モンスーンによる洪水被害を受けたパキスタンへ向かいました。
現地訪問をしたカメラマンより、洪水から半年が経った被災地の実情と、現地の人々から聞き取りをした、気候変動の影響についてレポートをお届けしていきます。
「調査とかそういう必要はないぐらいに未だ何も足りていない」
被災者への聞き取りから見える災害の規模感
洪水被害の最大被災地のひとつ、シンド州ダドゥ郡の複数の村で聞き取りを行ったピースウィンズ職員は、未だに緊急期と変わらぬニーズが続いている現状を確認しました。
今回の災害の特徴のひとつは、あまりにも広大な被災地の規模感です。
インダス川河口に位置するパキスタンで、特に南部シンド州においては、見渡す限りの平野が続きます。山どころか、小高い丘すら今回の訪問中に目にすることはほとんどありませんでした。インダス川の増水も洪水の要因のひとつではありますが、まさに「バケツをひっくり返したような雨 (現地の方がそう表現されました)」が降り続け、広大な水溜りを作り、高低差の少ない土地で低きに流れることもなく、水が残り続けているのが今回の洪水災害のいち側面なのです。
広大な穀倉地帯だったシンド州の農地は壊滅的被害を受け、未だに農業を再開できない農家が多数を占めています。結果として野菜や穀物の価格高騰が続き、収入の無くなった被災者をさらに苦しめる要因になっています。
ようやく水が引いても荒れた土地で農業を再開するのは難しく、種もみや農機具も失ってしまいました。そもそも自分の住む家すら、浸水により損壊あるいは倒壊してしまった状況です。経済活動も停滞し、日雇いの仕事も被災前のようには見つかりません。
「とにかく収入がない。仕事が何もないんだ。」
そう嘆く父親に、訪問中何度も出会いました。
「何が必要か?見ればわかるだろう?何もないんだ。調査とかしなくても、何でも必要なのはわかるはずだ」
そう訴える人がいるほどに、困窮した被災地が今も取り残されています。
収入がなければ、食べるものすら手に入りません。ピースウィンズは、先んじて最も困窮した家庭 (主に夫を亡くした母子家庭) を中心に食糧支援、生活必需品の支援を継続しています。今後は農地を調べ、農業を再開するために必要な物資や種子を支援する予定です。
現地行政が語る気候変動による災害の変化
「3つの水が重なり合って発生した甚大な洪水災害。これが今後も続くのか…」
被災地のひとつ、シンド州を管轄するいくつかの行政機関を訪問する中で繰り返し話題に上がったのが、気候変動の影響です。
今回の洪水がここまで深刻化したのには、これまでとは異なる洪水メカニズムがあったからだと話す現地行政関係者も少なくありませんでした。「3つの水が関わっていたのだ」と、現地で活動する人道支援団体の職員が、険しい表情で昨年夏のことを話してくれました。
パキスタンは4月から暑さが厳しくなります。40℃を越す日も多く、高温で上昇した空気により作られる低圧部にインド洋からの暑く湿った空気が呼び寄せられるのが、6月から9月にかけて雨が降りやすくなるモンスーンの仕組みです。
とはいえ本来パキスタンの平均年間降水量は250mmからせいぜい1250mm程度と決して多くはありません。それが2022年のモンスーンは、現地政府が「モンスターモンスーン」と表現するほどに多くの雨を降らせました。気温と海水温の上昇によって、海水の蒸発が促されたと考える人も多いそうです。
モンスーンはパキスタン全土で猛威を振るい、調査で訪れた南部シンド州では8月の降水量が平年の7〜8倍と過去最多を記録、パキスタンを縦断するインダス川の水量を急激に増加させる要因となりました。さらに4月末の強烈な熱波により国内で49℃を記録し、5月頃には氷河湖の決壊も報道されています。パキスタン北部、カラコルム山脈の麓にあるフンザ渓谷で決壊した氷河湖では、熱波の影響で決壊までの20日間で40%も水位が上昇していたと報告されています。
異常に発達したモンスーンによる大雨、増水したインダス川からの越水、熱波により溶け出した氷河の水、「これら3つの水が一斉に村々を襲い今回の大災害を引き起こした」と現地の人々は語ります。
「復興すら始められない私たちの元に、4月にはまた熱波がやってくる。そしてまた大雨と悲劇が繰り返される。これから先、毎年こんな災害が来るんじゃないかと考えるのはとても恐ろしい…」
復興の足がかりすら不透明な中、現地の人々は大きな不安と闘っています。
引き続きピースウィンズは、パキスタン洪水の被害に遭われた人びとを支援していきます。
みなさまのあたたかいご支援が力になります。ご協力どうぞよろしくお願いいたします。