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コラム&インタビュー

【解説】ロシア・ウクライナ戦争は終結に向かうのか?アメリカが仲介する停戦協議の行方

広報:ピースウィンズ国際人道支援 ジャーナル編集部
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ロシア・ウクライナ戦争の停戦を巡って、アメリカを仲介役とした交渉が活発化しています。アメリカのトランプ大統領は、ロシアのプーチン大統領と8月15日にアメリカのアラスカ州で会談したあと、ウクライナのゼレンスキー大統領とも18日に協議しました。その後、ロシアとウクライナの直接会談に向けて調整を始めたと明らかにしています。4年目に突入した戦争がついに終結に向かうことになるのか、今回の交渉が意味すること、停戦・和平の行方など、注目点をまとめました。

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2つの首脳会談のポイントを確認

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この1週間程度で、米ロ首脳会談、米ウ首脳会談が相次いで行われ、停滞していた停戦に向けての協議が再び動き出しました。会談の結果を順を追って確認してみましょう。

先だって実施された米ロ首脳会談は、アメリカがロシアの意向を尊重する結果と受け止められ、世界に衝撃を与えました。会談後のトランプ大統領が、ウクライナ東部のドンバス地方の2州をロシアに明け渡すこと、そして停戦合意よりも和平合意を目指すというロシアの主張に同調する姿勢を示したからです。

これまでアメリカは、まずは即時停戦を実現し、その後和平交渉に進むというウクライナ側の意向を支持してきましたが、プーチン氏との会談を受けて方針を転換したことになります。

和平交渉を優先する理由としては「一時的な停戦より、恒久的な平和を実現するための和平合意を目指すべき」ことが挙げられています。しかし現実には、停戦よりも和平交渉を優先する場合、最終合意に至るまで戦闘は継続されるため被害は拡大する一方です。このため、和平交渉に臨む姿勢を見せながら戦争を長引かせてより有利な条件を引き出そうとする、ロシア側の「時間稼ぎ」の一環とも見られています。

18日には、トランプ氏はウクライナのゼレンスキー大統領と会談。トランプ氏がウクライナに強く譲歩を迫る可能性が危惧されましたが、協議は和やかな雰囲気の中で終わり、ロシアを交えた3者会談の開催に向けて調整することで合意しました。

領土問題についての結論は、3者協議の場に持ち越されました。また、焦点の一つであるウクライナの安全の保証について、トランプ氏はアメリカが枠組みに加わる考えを明らかにしています。

これからの流れや注目点を理解するため、両者の立場の違いとこれまで交渉が前進しなかった理由、そしてトランプ氏が仲介役として登場してからの流れをあらためて振り返ってみましょう。

4年目に突入したロシア・ウクライナ戦争。引けなくなった理由とは

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2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻したことから始まった戦争も、もう4年目になります。両国の被害が拡大するなか、これまでも停戦は模索されてきましたが、求める条件に妥協点が見出せず合意には至りませんでした。

ロシアとウクライナの停戦を阻んできた大きな溝に、今回も争点となっている領土問題があります。ロシアは停戦の前提条件として、今回の侵攻で「併合した」と主張しているウクライナの領土から、ウクライナ軍が撤退することを要求しています。一方のウクライナにとっては、これを認めれば武力侵攻によって領土を奪われる結果になるため、決して引けない一線です。

「力による現状変更は認めない」という立場の国際社会からも、ウクライナの領土割譲を伴うような停戦協定は容認できないとの声があがります。特にロシアの脅威を身近に感じている欧州諸国は、軍事侵攻によって領土を拡張するという成功体験をロシアに与えることを、欧州の安全保障の面からも危惧しています。

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もう1つの重要な論点は、ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟です。ウクライナはロシアの侵攻から自国を守るため、加盟国間の集団防衛を任務とするNATOへの加盟を切望してきました。一方のロシアはウクライナの中立化(実質的には非欧米化)を求めており、当然これを認めない立場です。

▼開戦からの流れや、歴史的な経緯についての詳細はこちら
【解説】ロシアとウクライナ、今後どうなる? 3年ぶり直接交渉も遠い停戦

トランプ政権下のアメリカ、ロシアと積極交渉

自由主義国家の雄たるアメリカは、ウクライナ支援を主導する立場でしたが、25年に発足したトランプ政権はその方針を転換しました。ロシア・ウクライナ戦争を自らの仲介で終結に導くことに意欲を燃やすトランプ大統領は、ロシアとも積極的に交渉し、ウクライナに対しても無条件の支援ではなく「ディール」を持ちかけるなど、ウクライナ寄りの姿勢を撤回したのです。ウクライナのゼレンスキー大統領を「独裁者」と罵る場面もありました。

当事国であるウクライナ抜きに、米露で停戦交渉が行われる場面も増えました。そして今回、アメリカがウクライナに領土問題の譲歩を迫っています。力による現状変更を追認してでも早期の停戦を目指すトランプ氏の姿勢からは、ウクライナや欧州がタブー視している「ロシアへの領土割譲」という選択肢も、交渉材料の1つと捉えていることが伺えます。

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これまでの欧米の基本姿勢とは一線を画し、ロシアの肩を持つかのようなトランプ大統領の言動には懸念や批判も多く聞かれます。ただ、トランプ氏の介入が膠着状態にあった停戦協議に再び光を当てるきっかけになったことは間違いありません。

今後の停戦交渉の行方はどうなる?

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これまで言及してきた通り、ロシアとウクライナには2つの点で主張に大きな隔たりがあり、停戦や和平に向けてのハードルになっています。1つはウクライナの領土問題、もう1つはウクライナのNATO加盟の是非です。今回の交渉ではこれらの課題に関しても動きがありました。

ロシアはこれまでの交渉の場で、上記の点に関して自らの立場は揺るがないことを再三強調しています。消耗戦に分があると考えているロシアとしては、ウクライナが許容しがたい条件を突きつけることで和平が遠のいても、むしろ望むところと考えている節もあります。

一方のウクライナにとっても、上記の点でロシアの要求を飲むことはロシアに勝利を与えるとも言える重大な内容であり、妥協の余地はないとみられてきました。しかしウクライナの街や国民が攻撃にさらされて被害が拡大するなか、一刻も早い停戦に漕ぎつけたいのも事実です。

またトランプ大統領がロシアの要求を支持する姿勢を見せている現状、アメリカの支援がなければ戦況の悪化を免れないウクライナとしては要求をただ突っぱねるわけにもいかないという、苦しい立場に立たされています。

そこで欧州などで浮上している1つの案が、ロシアが要求しているドンバス地方のうち、ロシアが現在実効支配している地域については一時的にロシアが支配することを許容する、ただし法的にはロシア領土とは認めないという内容です。

この提案が実現するかどうかは、ロシアの占領を実質追認した格好になる点をウクライナ側が飲めるかどうか、またウクライナ支配地域も含めての領土割譲を要求しているロシアが、現状の支配地域の追認で満足するかどうかにかかっているでしょう。

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領土問題が合意に達した場合でも、多大な犠牲を払って漕ぎつけた停戦・和平合意にいかに効力を持たせるか、つまりロシアの再侵攻をどう防ぐかも課題になります。これは2つ目の論点であるNATO加盟を、ウクライナが強く求めてきた理由でもあります。

ゼレンスキー大統領は、ロシアの要求通りウクライナ東部の領土が奪われた場合、「ロシアは将来、それを今後の侵攻の足掛かりにする」と危機感を露わにしています。

この点については、アメリカがウクライナの安全を保証する枠組みに参加するとトランプ大統領が表明しました。ウクライナへのロシアの再侵攻を防ぐための実効性のある枠組みを米欧が構築するのであれば、ウクライナとしてはNATOへの加盟にこだわる必要性が薄れます。ただ、ウクライナの「中立化」「非武装化」を要求していたロシアが、実質的にNATOに近いこの体制を受け入れるかは不明です。

今回の米ロ会談、米ウ会談を通じて、これまで平行線を辿ってきた停戦交渉に動きが生まれました。実際に合意に至るにはまだクリアしなければならない難題が多くありますが、良くも悪くも妥協点を探る動きが出てきたことは、早期の和平を目指すうえでは大きな前進と言えます。当面の注目点は、3者会談を打診されたロシアのプーチン大統領の出方になりそうです。

心と体の安全が脅かされるウクライナの人びと

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この記事では、ロシア・ウクライナ戦争を巡る交渉の経緯や各国の主張などを解説しました。しかし、こうした国レベルの駆け引きが行われている裏で、今この時もこの戦争によって多くの人が傷ついている現実があります。被害の拡大が続くなか、一日も早い停戦が望まれます。

ピースウィンズ・ジャパンでは、長期化する戦争で疲弊するウクライナの人びとに寄り添った支援を届けています。生活物資の配布や医療支援、建物の修繕などに加えて、心のケアの取り組みにも力を入れています。現地団体とも力を合わせて、助けを必要とする人がいる限り、息の長いサポートを続けていきます。

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広報:ピースウィンズ国際人道支援 ジャーナル編集部
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