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【ブルキナファソ】肝炎問題を知ろう1「B型肝炎ウイルスはどうやって感染するの?」

世界にはB型肝炎ウイルスの感染者が約2億6千万人、C型肝炎ウイルス感染者は約7千万人います。このような「ウイルス性肝炎」が原因で肝がんなどになり、亡くなる方は増加しています。2019年には、全世界で82万人が、B型肝炎を原因として命を落としており、この数はHIV(63万人)やマラリア(57万人)の犠牲者数を上回っています。途上国においては、「B型肝炎」は、最も多くの人の命を奪っている「感染症」の一つなのです。
 
実際、7月に来日したカニア博士によると、西アフリカのブルキナファソでは、国民の9.1%がB型肝炎ウイルスに、3.6%がC型肝炎ウイルスに感染していますが、かつて国民の7%にのぼったHIVの感染者は、すでに1%もいないそうです。
 


主な感染症の犠牲者数

 
このような深刻な状況にもかかわらず、これまで「ウイルス性肝炎」には、国際的な支援の光が当てられることはありませんでした。そこで、ピースウィンズでは、感染症で失われる命を救う取り組みを開始するにあたり、この問題を選んで挑戦することにいたしました。
 
ピースウィンズは、国際機関に対して、B型肝炎、C型肝炎といったウイルス性肝炎対策への支援強化を呼びかけるとともに、NGOがただちにできることとして、国民の9%がB型肝炎ウイルスに感染しているという、西アフリカのブルキナファソにおいて、現地のNGO、患者団体とも協力しながら、B型肝炎の克服にむけた活動の支援を開始し、途上国におけるB型肝炎克服のモデル作りを進める方針です。
 
今回のクラウドファンディングで購入する検査機械フィブロスキャンも、肝炎の感染者の治療をすすめる上で、ブルキナファソにおいて最大のボトルネックの一つになっている、精密検査の体制づくりを支援するものです。
 
B型肝炎の克服にむけては、予防、検査、治療のすべてにおける対策が必要です。また、その全てを進めるためにも、肝炎に関するコミュニケーションの改善、啓発活動が必要です。
ここでは、日本のB型肝炎患者の支援にかかわり、また、この3年半、アフリカの患者団体との交流を続けてきたピースウィンズの榛田が、このプロジェクトを応援してくださる皆さまに、そもそも「B型肝炎」とはどんな病気なのかをお話します。
 
──肝臓の病気ですが、飲酒や生活習慣が原因ではないのですね。
B型肝炎は「生活習慣病」ではなく「感染症」です。B型肝炎ウイルスは、血液・体液の中のウイルスを通して、ヒトからヒトへと感染します。空気感染・飛沫感染などはしません。医療従事者や介護スタッフの方々などはワクチンを打つでしょうが、私たちのような一般の人は、ワクチンを打たなくても、たとえば患者さんと一緒に会議をしたり、一緒にご飯を食べたりしても、感染の心配はありません。差別や偏見などは、なくしていきたいですね。
 
もちろん、血液・体液を介して感染する以上、成人後の性交渉などによっても感染することがあります。しかし、幼少時、人間の身体の免疫が発達するまでの感染を防ぐことが、とりわけ重要とも言われます。
 
──子どもの頃の感染が重視されるのは、なぜですか。
サハラ砂漠以南の地域では、思春期を迎えるまでの子どもの大多数が、母子感染をはじめとした幼少期の感染によって、すでにB型肝炎ウイルスに被爆していた(一度は感染したことがあった)、という調査結果もあるのです(ワクチン接種が普及する以前の調査結果です)。また、母子感染の患者さんのほうが病気の予後が悪いという研究もあるようです。
 
加えて、一般的に言っても、大人は免疫が発達しているので、感染しても、「一過性」の感染(急性肝炎など)で終わることが多いのです。もちろん、「一過性」の感染でも、症状が重くて亡くなる方もいるので軽視はできません。しかし、免疫がまだ十分でない、乳幼児の頃に感染すると、「持続感染」といって、身体(肝臓)のなかにウイルスがずっと残って活動する状態になりやすいのです。
 
「持続感染」している人の身体からB型肝炎ウイルスを排除できる治療法は、まだ見つかっていません。ウイルスの活動を抑える薬(核酸アナログ製剤)は、すでに広く普及していますが、そのような治療を受けないまま、気づかずに過ごしてしまうと、一定の割合で、肝がん・肝硬変と重症化していき、命の問題になりかねません。肝がんの予防には、「持続感染」を防ぐことが大切なのです。
 
──日本では、どういう対策がありますか。
このようなB型肝炎ウイルスへの感染を防ぐために、日本では、B型肝炎に感染しているお母さんから子どもへの感染=「母子感染」を防ぐとりくみが1986年に始まりました。また、2016年からはB型肝炎ワクチンが、すべての子どもたちの定期接種のメニューにも加わりました。
 
肝臓は「沈黙の臓器」とよばれて、自覚症状が出るときにはすでに手遅れのことも多くあります。ワクチンを受けていない世代の人も、「一生に一度は検査を受けてほしい」と日本の厚生労働省などは呼びかけています。
 


来日中、佐賀の江口病院で、血液検査を体験するサノンさん(中央)。肝がん予防で重要なフィブロスキャンの検査となると、ブルキナファソでは、プライベートのクリニックでしか受けられず、約6000円かかると言う。ちなみに、ブルキナファソの最低賃金は月9000円ほどというのだから、その負担感が分かる。

 
──輸血などでも感染するのでしょうか?
歴史をさかのぼると、輸血もB型肝炎やC型肝炎の感染拡大の原因だった時代もありました。1964年、米国駐日大使のライシャワー氏が少年に刺された事件がありました。このとき、日本での輸血の治療によってライシャワー氏はC型肝炎に感染してしまったのです。このようなこともあり、「売血制度」が廃止されて、「献血制度」に切り替えられました。また、1972年からは日本赤十字社も、すべての献血の血液などに対して、B型肝炎ウイルスの抗原検査を行うようになりました。
 
また、血液製剤やかつての集団予防接種の注射器の使い回しによって肝炎ウイルスに感染した「薬害肝炎」や「B型肝炎」という大きな訴訟もありました(いずれも国と「基本合意」がむすばれ、肝炎対策基本法制定のきっかけにもなりました)。
 
逆に言うと、このような感染への対策がとられるようになるまでの世代では、日本でもB型肝炎やC型肝炎に感染した方は珍しくありませんでした。その状況を克服するため、そして、肝炎に苦しむ患者さんたちを支えるための対策を通して、今では世界トップレベルとも言われる肝炎対策が取られるようになっています。
 


日本の肝炎患者との交流をとおして、「肝炎患者でも、肝がんになっても、こんなに多くの方が生きているという、日本の皆さんを見て驚きと希望を感じます」とカニア博士(写真右)。自覚症状で肝炎に気づくのは、がんになってしまってからが多いが、がんの治療は途上国ではとても難しく、肝がんを予防する取り組みは、とりわけ重要と言う。

 
──ワクチンも検査方法も、治療薬もある。問題は使えないこと…
B型肝炎については、感染を防ぐワクチンもあり、治療の必要性を判断するための精密検査の方法もあり、ウイルスの活動を抑える治療薬もあります。ただし、途上国では、それらの方法が十分に使えていない。そのために、毎年、世界で82万人が命を落としています。使えない薬や治療法は、患者さんにとっては無いも同然ではないでしょうか。
 
治療さえ受ければ救える命が、適切な治療を受けられないために失われていく——これは、災害や紛争の現場における「未治療死」と共通する問題です。ピースウィンズは、日本の経験や技術を活かすことで、肝炎で苦しむアフリカの人々を救いたい、途上国における肝炎対策のモデルを作りたいと考えています。
 
次回は、その日本の肝炎対策などについて、ブルキナファソから来日されたみなさんとのエピソードも交えながら、さらにお話ししたいと思います。
 

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