【イラク】厳しい冬を越せるよう、イラク国内避難民や地元住民への灯油配布を開始
イラクでは、夏の猛暑が嘘のように朝晩冷え込む雨季がやってきました。ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)が支援活動を行うイラク北部のスレイマニヤ州の冬は、アルビル州やドホーク州と比べて冷たく吹きつける風が特徴で、ときに車がひっくり返るのではと思うほど強く、風の音で夜中に目を覚ますこともあります。これからますます寒さが増していく中、故郷を追われて逃れてきたシリア難民や国内避難民の家族、そして経済危機の影響で困窮した生活を送る地元住民が、安心して冬を越せるよう、PWJは11月下旬より、越冬支援として灯油を配布しています。
50度近い気温が続いていた7月頃から、「今年の冬は灯油を確保するのが難しくなる。価格が高騰する」と言われていましたが、実際に10月以降に灯油価格が少しずつ上がり、貧困世帯ほど確保するのが難しくなっていきました。PWJは国連機関や他の支援団体と調整して、一人でも多くの人々に灯油を届けられるよう、対象地域や世帯を分担し、スレイマニヤ州の中でもサイードサディーク郡に避難する国内避難民家族を担当することになりました。
11月末の灯油配布当日の午前9時、石油会社と連携してタンカーを手配し、配布場所に到着すると、すでに多くの人々がドラム缶を持参して集まっていました。同郡には、「イスラム国」との戦闘が激しいサラハディン州やアンバール州から逃れてきた国内避難民が多く、すでに一年以上避難生活を余儀なくされている人も少なくありません。
PWJでは灯油配布の際、配布者リストと身分証明書で名前を確認した後、引換券を配り、1世帯あたり200リットルの灯油をドラム缶に給油していきます。
写真左:1、配布開始時間前から集まっていた国内避難民の人々。ドラム缶を一列に並べて整列し、この順番に給油していきます、同右:2、PWJスタッフは配布者リストと身分証明書を照合し、引換券を渡します
写真左:3、高齢者やベビーカーを押してきた母親の姿もありました、同右:4、ドラム缶1つあたり、200リットルの給油が入るのを確認するPWJスタッフ
写真左:5、受領の確認として、引換証に拇印を押してもらいます、同右:6、給油後、ドラム缶を転がしてトラックの荷台にのせる人々。集まった国内避難民同士で声をかけ、手伝いあっていました
この時は、3日間かけて同郡の国内避難民541世帯に灯油を支援することができました。
また、現地政府からの強い要請で、2万2千世帯以上の国内避難民を受け入れている同州スレイマニヤ市の地元住民のうち、貧困世帯や脆弱世帯計316世帯にも灯油を配布しました。私たちが支援を担当したリストには、小人症の人々の世帯が多く含まれていました。みな親しい間柄のようで、 「一緒に灯油をもらえてよかったね」と話しながら、一台の車で協力しながら何往復もして、お互いの家にドラム缶を運んでいました。
脆弱世帯には障がい者世帯が多く含まれ、PWJは主に小人症の人々の世帯を担当しました
この他、夫が兵士で「イスラム国」との戦闘で負傷したという女性や、女性が家主の家庭、ガンなど重い病気を患っている人の世帯も支援しました。灯油を受け取ったナハバッドさん(以下、写真の女性)は、「もう今年の冬は自分たちで灯油を買うのは諦めていました。でも、家の中が寒くて毛布をかぶっても手が震えていました。これで凍えずに済みます。本当にありがとう。神のご加護がありますように」と、話してくれました。他にも、「シリアから来た難民や『イスラム国』から逃げてきた国内避難民の人々が大変なのはわかるけれど、援助団体は彼らを支援しても、地元住民の私たちが恩恵を受けることがなかった。私たちのことも忘れないでいてくれて、ありがとう」と話す女性もいました。
ナハバッドさん(青いスカーフの女性)
今回初めて配布に携わったPWJ現地スタッフは、「寒くて、一日中石油の臭いがする中で作業するのは大変だったけど、この3日間、何度も感謝の言葉をもらって、役に立っていると実感しました」と話しました。
今冬は降雨がまだ少なく、12月に入ってやっと雨が降り始め、乾燥した空気が潤い始めました。これからさらに、雨によって冷え込みが厳しくなり、スレイマニヤ市の中心部では、真冬は氷点下5~10度まで達することになります。灯油支援により一人でも多くの人々がこの冬を暖かく過ごせるよう、PWJは今後、ドホーク州、アルビル州でも灯油配布の支援を行っていきます。
※本事業は、みなさまからのご寄付のほか、ジャパンプラットホームからの助成金により実施しています。