旧中央政府側にも支援を拡大へ キルクーク市内の調査を開始
イラク・フセイン体制の崩壊に伴う行政機能・社会システムの混乱状況に対し、ピースウィンズ ・ジャパンでは、これまで中央政府の統治下にあった北部3県(キルクーク県、モスル県、ティクリット県)での支援活動を検討しています。ピースウィンズ ・ジャパンはすでに4月1日、クルド自治政府の厚生相の視察に同行する形で、旧中央政府側の地域の調査を始めていますが、キルクークからのイラク軍撤退を受けて11日、キルクーク市内の調査を開始しました。
この日、キルクークの調査に向かったのは、統括責任者の大西健丞、コーディネーターの岸谷美穂ら。治安情勢や医療状況を見極めるため、安全管理担当のスタッフ、医師、医療アシスタントも同行しました。
市内の旧サダム総合病院で、現在、病院の管理・運営にあたっている医師らに面会し、状況を確認したところ、医薬品が不足しているため、スレイマニアから持ち込む予定とのことでした。緊急事態に備え、ピースウィンズ ・ジャパンがジャパン・プラットフォームの支援を得て、クルド自治政府に提供した医薬品も活用されるものとみられます。
キルクーク市内では略奪行為などの混乱も伝えられ、流れ弾が飛来する可能性もあるため、安全確保のために調査は最小限のものとし、短時間で市内をあとにしました。今後、さらに調査を継続する予定です。
戦闘や混乱が生じた地域では、電気・水道・ガスなどのライフラインや医療サービス、都市機能が麻痺します。またイラクでは、政権党だったバース党の党員が実質的に、行政機能や公共サービスを担っていました。政権崩壊によるバース党員の離脱で、社会的機能の回復まで数カ月を要する懸念もあります。
ピースウィンズ ・ジャパンでは1996年の発足以来、クルド人自治区内(アルビル県、ドホーク県、スレイマニア県、ニューキルクーク県)で各種の支援活動を続けてきましたが、今後は状況とニーズに応じ、自治区外のキルクーク県、モスル県、ティクリット県でも、病院のサポートをはじめとした保健医療システムの復興支援などに取り組みます。その他の分野についても、社会機能が回復するまで、できる限りの支援を検討していきます。
なお、スタッフの安全確保については、引き続き最大限の配慮を重ねていきます。
[キルクーク出身スタッフの思い]
11日のキルクークの調査には、キルクーク出身のピースウィンズ ・ジャパンの医療アシスタント、ディアル・ムハンマド(39歳)も同行しました。
1991年、湾岸戦争後の蜂起の際、彼は旧サダム総合病院で医療アシスタントをしていました。フセイン政権によって蜂起は数日後に鎮圧され、彼は投獄されました。18日後に助け出された彼はイランに逃れ、家族と再会を果たした後にスレイマニアに移動。97年、キルクークなどからの国内避難民を対象にした医療活動をしているとき、ピースウィンズ ・ジャパンを知り、医療アシスタントとしてスタッフに加わりました。
彼にとって、12年ぶりのキルクークでした。「人生で一番幸せな日だった」。ごく短い滞在だったにもかかわらず、病院などで6人の知り合いと再会しました。12年ぶりの出会いもありました。「昼も夜もなく住民のために働きたい。そのためにベストを尽くす」と彼。「薬も不足し、医療システムも不完全。さらに、社会インフラの再建も不可欠だと思う」と支援の必要性を訴えます。
現地スタッフの思いも束ねながら、ピースウィンズ ・ジャパンは活動を広げていきます。