【南スーダン】未来を担う子どもたちがすこやかに育つ社会を目指して
2015年10月に南スーダン事業担当として、ケニア・ナイロビ事務所に赴任した井上です。11月初旬から2週間、ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)の事業地である南スーダンの首都ジュバに出張し、衛生事業の進捗確認と新たに保健プロジェクトを立ち上げるための状況分析や調査等を行いました。今回は、新たに取り組みたいと考えている南スーダンの保健プロジェクトについてご紹介します。
まずは、南スーダンの現状を知るために基本的な保健指標を調べました。保健指標とは、幼児死亡率や平均寿命など日本を含め世界の国々が公表する共通の指標であり、事業を実施したい国の保健分野の背景を知るにはとても有意義なものです。調べてみると、南スーダンでは、5歳以下の子どもの死亡率や妊産婦死亡割合、母子の栄養失調の割合が世界の国々と比べてとても高く、母親や子どもに対する保健対策は国の重点課題となっていることが分かりました。
重い荷物を担ぎ避難民キャンプに到着した妊産婦と子連れの女性
また、実際に現地で調査を行うと、ジュバ市内の国内避難民キャンプでは、混雑した狭い居住環境や朝晩の冷え込み等が原因で気管支炎にかかる人が多いことや、マラリア予防に利用する蚊帳が手に入らなかったり、キャンプ内の不衛生な排水設備でボウフラが大量発生しやすかったりするためにマラリアにかかるリスクが高いことがわかりました。
原虫を持った蚊に刺されることで高熱や死に至るマラリアという病気は、未だ途上国では子どもの死因のトップ3に入り、南スーダンでも多く発生しています。本来、これらの問題に対応するのは現地政府なのですが、南スーダンでは、国家予算のうち保健事業に関係する予算の割合がこの5年間で8%から2%に減少し、もっぱら他国の援助に頼っているのが現状です。国立レベルの病院ですら、医薬品や医療機器、医療従事者の慢性的な不足などが課題になっています。
来院患者も少なく静かな診療所
ジュバ近郊のジェンゲリという地区は、2015年初旬に約6000人の国内避難民が流入したと言われています。キャンプという形ではなく、ホストコミュニティの人々の中で国内避難民が共存しているため、正確な統計はありませんが、地区の診療所にくる患者数が一時期約2倍に増えました。しかし、患者数が増加したにも関わらず、診療所には定期的に国から配布されるはずの医薬品が十分に届いておらず、調査時は休業の状態でした。現在は、国内避難民だけでなく周辺住民の人たちも、この診療所で2週間ごとに実施されるNGOによる出張診療に頼らざるを得ない状況です。
移動診療日に診察を待つ親子連れ
今回の調査を受け、診療所への支援や、現在実施している手洗いやトイレの使用を推進する衛生普及員の活動経験を活かして地域の人たちの保健衛生への意識を高めるため、子どもや妊娠中の女性たちが適切な時に診療所に通うように促す活動を計画しています。内紛による止むを得ない移住や不安な日々から解放され、女性が安心・安全にお産ができ、子どもたちがすこやかに成長できる環境が整えられていくような事業にしたいと考えています。この事業が、世界で一番新しい国である南スーダン国家の明るい未来に繋がっていくことを願ってやみません。
キャンプ内で生活する子どもたち
報告:井上恭子(ナイロビ駐在南スーダン事業担当)
※この事業は、ジャパン・プラットフォームの助成や、皆さまのご寄付で実施しています。