【難民問題を学ぶ#03】アフリカ最大の難民受け入れ国ウガンダの「難民居住地区」が社会を変える!
南スーダン共和国やコンゴ民主共和国から170万人以上(2024年6月末現在)の難民が流入するウガンダ共和国。決して経済的に裕福な国というわけではなく、むしろ貧困に苦しむ人びとが多いウガンダは、なぜ多くの難民を受け入れているのか。また、ウガンダの難民政策に対して、ピースウィンズはどのような支援を行っているのか。今回の連載「難民問題を学ぶ」は、夢と希望のお話。アフリカ最大の難民受け入れ国、ウガンダの難民事情と、「社会を変える」支援活動について、ウガンダ駐在員の松澤礼奈に聞きました。
ウガンダが難民を受け入れる“オープン・ドア・ポリシー”とは
―― 現在、ウガンダは170万人以上の難民を受け入れていますが、現地の難民キャンプは、どのように運営されているのでしょうか?
ウガンダの難民政策は、「難民キャンプ」ではなく、「難民居住地区」と呼ばれるエリアを設け、難民を受け入れています。
かつてウガンダも内紛で困窮し、多くの人びとが国外へ避難して難民として受け入れてもらったという歴史があります。そうした社会的背景からウガンダの人びとは、同じような立場の人を助けたいという思いが強く、難民に対して「アフリカの伝統的なおもてなしの文化に基づき、安全のために逃げ惑う人たちに背を向けない」オープン・ドア・ポリシー(開かれた政策)がとられてきました。
この政策のもと、推進されてきたのが難民と現地の人びとが共に生活を営む、難民居住地区という考え方です。ウガンダでは、2013年からこの難民受け入れ政策を積極的に行い、現在では13もの難民居住地区が運営されています。
「難民キャンプ」と「難民居住地区」の違い
―― 難民キャンプと難民居住地区、どのような違いがあるのでしょうか。
難民居住地区の最大の特徴は、難民と現地の人びと(ホストコミュニティ)が同じ場所で共生しているという点です。一般的に難民キャンプは、一時的に避難する場としてテントやシェルターが提供され、難民は原則的にその区域外に自由に出入りすることは許されていません。
しかし、ウガンダの難民居住地区に避難した難民は、ウガンダ政府から土地や住居が与えられ、さらに就労したり、エリア外に自由に移動したりすることもできます。難民とホストコミュニティが共に暮らし、生活に必要なさまざまな資源が共有されているのです。
―― 一時避難ではなく、定住を想定して難民を受け入れているのですね。
難民問題の根本は、紛争や内紛がなくならない限り、解決されることはありません。解決の兆しが見えないまま、難民は増え続けている状況が続き、難民を受け入れる国にとっても、現状を維持することは困難になってきています。
こうした状況に対し、ウガンダでは難民も尊厳を持って生きていけるように、“共に暮らす”という政策を国として推し進め、難民を守ってきたのです。
難民居住地区における住宅事情
―― 難民居住地区において、難民の方々はどのような環境で暮らしているのでしょうか?
難民が避難してくると、最初は住む土地が決まるまでは登録手続き等を進めるためのレセプションセンターで過ごし、その後、ウガンダ政府より与えられた土地でUNHCR等が家屋用の一時的な資材として提供するテントを利用して生活を開始します。
その後は、資材や道具を支援する団体の助けを借りながら、自分たちの力で家やトイレを建てて生活していくことが求められます。
―― 現地の人びとと同じように、難民も自分たちの家を建てられるのですね。支援物資などは配付されるのでしょうか。
世帯のなかで子どもや高齢者、障害、病気のある方など脆弱性が考慮され、それに応じて食料や生活用品などの支援物資が配付されます。しかし、近年は人道支援の資金が縮小されるなか、今まで支援の対象だった世帯が支援をもらえなくなるという事態が起きています。
そのため、1日1食に減らしたり、子どもに食べさせるために母親は食べなかったりする家族が増え、さらにお金がないから子どもを学校に行かせられない、あるいは医療サービスを受けられないといった家族もいたりします。難民居住地区でも支援だけに頼るわけにはいかず、ある程度収入を得なければ生活は厳しくなってきている状況です。
こうした状況を踏まえ、私たちがここ数年推進してきたのが生計支援で、そのなかでも女性支援に力を入れてきました。
自立を促し、女性の社会的立場を変える
―― なぜ“女性支援”なのでしょうか。
目的は、大きくふたつあります。ひとつは、特に性暴力被害が多発している南スーダンそしてコンゴ民主共和国から避難してきた女性を過去のそして未来の“性暴力被害から守る”こと。もうひとつは、“女性の自立”を促し持続可能な支援につなげるためです。
ウガンダに限らず、アフリカの紛争地では女性が性暴力を受ける被害が数多く報告されています。これは世界のどの国にも共通する問題ですが、性暴力被害を受けてもそれを相談したり、助けを求めたりすることができず、口を閉ざしてしまう女性が少なくありません。
アフリカでも、特に避難中に被害を受けたり、また避難後に被害を受けた女性が難民キャンプや難民居住地区のような場所で声をあげることはさらに難しいことだといえます。
こうした過去のそして未来の性暴力被害から女性を守るために、私たちは相談所としての機能を備え、女性を受け入れ精神的に自立を支える場として、2つの難民居住地区に女性支援センターを建設しました。
―― もうひとつの“女性の自立”を促す支援とは、どのような支援になるのでしょうか。
対象地域に根強く残る男尊女卑の風潮は、女性がはたらくことを阻んできました。現在でも地方に行くと、はたらいた経験がないという女性が多く、そもそも女性ははたらく権利さえないと思っている人も少なくありません。
しかし、難民が増え続けるなかで、母親と子どもだけで避難してきたという家族が多くいます。現実的に女性もはたらいて収入を得なければ、家族を守れなくなってきているのです。
女性支援センターでは手に職をつけるために、洋裁や美容師の技術を学んでもらうトレーニング(職業訓練)を実施しました。
女性にもはたらいて収入を得る権利がある
―― 女性の労働に対する社会的意識も変えていく必要もあったのではないでしょうか。
この女性支援の事業は3年計画で実施され、最初は女性にも発言したり、はたらいて収入を得る権利があることを知ってもらう、啓発活動からはじめました。もちろん、はたらくことは自由ですが、その選択肢があることで、新しい夢や希望を持つことにもつながります。
また、同時に女性の自立を推進していくためには、家族やコミュニティの男性の意識も変えていく必要がありました。たとえば、女性が洋裁などのスキルを身につけるトレーニングに参加するには、家族の同意がなければ参加できません。
はじめは男性から抵抗されることもありましたが、女性が手に職を身につけることで家族にどのような前向きな変化がもたらされるのか、男性にも丁寧に説明しました。
そうした説明を繰り返していくうちに、最初は半信半疑でも、女性が変わっていく姿を見て、男性陣も少しずつ意識は変わっていき、途中からはトレーニング中に子どもの面倒を見る男性も現れてきました。これは、数年前では考えられなかった光景で、こうした社会的な変化が難民居住地区では起きています。
―― 女性の社会的立場が、生計支援によって変わりつつある。
はい。この事業は難民だけでなく、貧困に苦しむ現地の人びとからも注目され、多くの女性が難民と一緒にトレーニングを受けています。そして、ここで習得したスキルを生かしてお店を開く女性も現れるなど、一定の成果が得られるまでになりました。
そこで現在は、現地住民と難民の女性から成るセンター運営委員会を設置して女性支援センターの運営を任せ、センターの継続的な活動を通じた女性支援を行っています。
自立に向けてマネージメントを学ぶ
―― 手に職をつけるだけでなく、マネージメントのスキルも学んでもらう、そのねらいはどこにあるのでしょうか。
残念ながら世界的な国際人道支援の資金は、今後も減っていくことが予想されています。支援する側も限界があるなかで、どうすれば持続可能な自立支援ができるのかは、ここ数年の私たちの大きなテーマになっています。
もしも自分たちの力で継続的に活動を続けられるようになれば、たとえ私たちが現地を離れても女性支援センターは継続されます。運営委員会を設け、マネージメントも覚えてもらったのは、その土壌をつくるためです。
尊厳を取り戻し、夢を叶える。今後はより多くの女性を助ける支援する側に
―― この女性支援センターの成果として、特に印象に残っていることを教えてください。
このプログラムを通して女性の意識が変わっていく姿は、とても印象的ですね。そのなかでも忘れられないのは、コンゴ民主共和国から避難してきたMwaminiさんの言葉です。彼女は7人の子どもを抱えながらも手に職がなく、生活が苦しくなったため、女性支援センターの生計支援トレーニングへの参加を決意しやってきました。
今では自分のお店を持ち、同時にセンターを運営する独立したCommunity-Based Organization(市民団体の一種)のリーダーとしてほかの委員会メンバーをまとめ、関係者との調整や交渉を行いながら女性支援センターの運営管理を担ってくれています。
そのMwaminiさんが、あるとき、こう話してくれました。
「センターのおかげで、ファッションが大好きだった私はテーラーになる夢を叶えることができ、家族を支える力を持つことができた。だから今はセンターに恩返しがしたい。そして、センターの活動を通して、より多くの女性たちを支えたい」と。
―― 社会的風潮で無意識的に失っていた尊厳を取り戻したことが、Mwaminiさんの意識を大きく変えたのかもしれませんね。
尊厳を持って生きる権利は、難民も含めたすべての人が有するもので、その権利を守ることは私たちの大切な役割でもあります。そのなかでもMwaminiさんは、難民であることを忘れさせてしまうほどの情熱と意欲にあふれ、彼女の言葉や行動に私たちは何度も胸を打たれました。
何よりも嬉しいのは、Mwaminiさんを中心に今まで支援を受けた難民の方々が、今度はほかの難民を支えるようなサイクルが生まれつつあること。そうした彼女たちの強さとやさしさは、持続可能な支援を模索していた私たちにとっても支えとなり、希望を与えてくれる存在となっています。
Mwaminiさんも含め、難民の多くはいつ母国に帰れるのか、先行きは不透明です。厳しい環境のなかでも彼女たちは生きる意味を求め、日々暮らしています。そうした彼女たちの声をしっかり聞きながら、これからも彼女たちの夢や希望が少しでも実現できるような支援を続けていきたいと思っています。