【2025世界難民の日に寄せて(2)】
「ピースウィンズと一緒に行うプロジェクトで、これからの10年でやりたいことの解像度が上がりました」
――RICCI EVERYDAY代表 仲本千津さん

ウガンダの女性と共に色鮮やかなアフリカンプリントの布でバッグや小物を作って日本で販売する会社RICCI EVERYDAYを仲本千津さんが創業して10年。事業は順調に成長し、「これからの10年は何をしていこうか」とずっと考える日々の中で、ピースウィンズとの出会いがありました。ピースウィンズが担うUN Women事業のパートナーとして、南スーダンから逃れてきた難民女性の支援を一緒に行うことになったのです。ここに至る経緯と、これから本格化するプロジェクトは何を目指して進んでいくのかを聞きました。
NGOと手を組んだきっかけ
―― 南スーダンから逃れてきた難民女性に対する職業訓練を新たに始めると聞きました。どういうプロジェクトですか?
ウガンダ北部にある難民居住地区には、隣国南スーダンから逃れてきた人がたくさんいます。弱い立場に置かれた女性とホストコミュニティの女性を対象に、3つの難民居住地区で50人ずつ合計150人に、衣類や雑貨を縫製して販売できるよう総合的な職業訓練を行なっていきます。今年2月から2027年2月までの2年プロジェクトです。
―― ウガンダでビジネスをしていた仲本さんがNGOと手を組んで難民支援に乗り出したのには、何かきっかけがあったのですか?
小学生のとき「お医者さんになって、世界の紛争地で人の命を救う『国境なき医師団』に入りたい」という夢を抱いて以来、ずっと人の助けになる仕事をしたいと思ってきました。ウガンダでシングルマザーの自立と自活の助けになるライフスタイルブランドの会社を10年やって成果は上げていたものの、「どうやって紛争地に平和を取り戻していくか」という元々の自分の関心に照らすと、目の前の仕事と少し距離があることを感じていました。
そこでこれからの10年何をしていこうかと考えていたとき、もしかするとこれまでの10年の経験は難民の問題解決に活かせるのではないかとふと思ったのです。でも何をどうすればいいのかわからなかったので、JICAやウガンダの日本大使館に相談に行きました。すると、UN Womenが難民支援をやっていると教えられ、行ってみたら「2時間以内にコンセプトノートを出せるなら検討対象にする」と言われて、2時間で英語の概要書を書いて出しました。
―― 滑り込みですね(笑)。
はい、すごいスピード感ですよね。それでこの事業の取りまとめをしているピースウィンズのみなさんを紹介してもらって、一緒にプロジェクトを始めることになりました。
ピースウィンズのウガンダにおけるプレゼンスはとても大きくて、地元の人々の信頼を得ています。縫製を含む職業訓練も行なっていて、地元で生活したり、ちょっとした商売をするには十分なくらいの技術を身につけている人もいます。
今回、日本市場で商品を販売しているRICCI EVERYDAYが加わることで、難民の方々により高い技術を身につけてもらって、商品をグローバルマーケットに繋ぐことができると考えました。世界の市場で販売できれば収入を得る機会が多様化してチャンスも増えます。
このプロジェクトに出会ったことで、RICCI EVERYDAYとしても、これからの10年でやりたいことの解像度が上がりました。「これか!」と思いました。人生の山登りでいうと3合目に着いて、さらに前に進む道が見えた感じです。ピースウィンズとUN Womenと一緒にさらに上に登りたい。進むべき道としても大きな意味があると思っています。
目指すはニューヨークの展示会
―― グローバルマーケットということは、日本だけでなく海外の市場も視野に入れているのですか?
はい。アメリカ市場を睨んでいます。2026年の夏、ニューヨークで開かれるファッション小物や雑貨の見本市SHOPPE OBJECTで、グローバルサウスの職人技を紹介するコーナーに商品を出すことが目標です。
―― どうやって出品するのですか?
認められないと出せません。まずはそこに出せるくらいのデザインと品質のものを作れるようになりたいです。
―― 実際の訓練はどのようなものになりますか?
足踏みミシンを使って基礎的な縫い物ができる人、きちんと訓練に来る意欲のある人を選んで、シャツやワンピース、バッグなどの日用雑貨を作ったり、マーケティングや、ビジネスの目標の立て方、モチベーション管理などを学んでもらいます。こうした基礎訓練が終わったら、次に実際に商品になるものを作ります。
南スーダンには、刺繍の入った美しいベッドシーツがあります。結婚のときはこのシーツで嫁入り道具を包むそうです。難民として逃げてくるときにもシーツに家財道具を包んで来た人がいます。この伝統の刺繍が入ったシャツをデザインして展示会に出したいです。そして、訓練を受けた人たちにはロールモデルになってもらって、居住地区で暮らす他の難民の人たちに技術を伝えてほしいです。
2023年にピースウィンズの案内で難民居住地区を見学したときに、訓練で得た技術を同胞のために役立てている人たちに会いました。自分が受けた恩を次の人に渡す「恩送り」の精神がある印象を受けました。そこに期待したいです。
そして私はさらなるマーケットを開拓して、プロジェクトを大きく育てていこうと思います。いつか南スーダンの人が自分たちのブランドを作って輸出までできるようになったら、このプロジェクトは大成功だと思っています。
―― 楽しみですね。ありがとうございました。
仲本 千津(なかも とちづ)さん
1984年生まれ。一橋大学大学院法学研究科修士課程を修了後、大手都市銀行勤務を経て、アフリカ支援NGOでウガンダへ。2015年RICCI EVERYDAYを創業。女性起業家や社会起業家を対象とした賞を多数受賞。足跡を描いた本『アフリカで、バッグの会社始めました 仲本千津の進んできた道』(江口絵理著、さ・え・ら書房)は青少年読書感想文全国コンクールの中学生部門課題図書に選ばれた。
