川とともに生きてきた人びと
ジョングレイ州北西部のファンガック郡はナイル川の支流に囲まれています。湿地帯が多く、洪水も頻発し、陸路でのアクセスが困難なため、州の他地域と比べてインフラがきわめて未整備です。また、近年は近隣での反政府勢力と政府軍の戦闘によって、多くの国内避難民も発生しました。ピースウィンズ・ジャパンは2012年に、同郡の水・衛生環境改善を目的として、郡庁のあるニュー・ファンガック町で初めて5本の井戸掘削を行いました。
今年7月、ピースウィンズの南スーダンチームは昨年度建設した井戸のモニタリングと新規事業の調査のため、同地域を再訪しました。南スーダンの首都ジュバから国連機で隣のアッパーナイル州の州都マラカルへ飛び、そこからはナイル川の支流であるゼラフ川をボートで2時間半ほど上ります。左の川岸に大小のボートが係留され、子どもたちが川で水浴びをし、女性たちが洗濯をしている様子が目に入ってきたら、そこがニュー・ファンガックです。
写真左:ニュー・ファンガックの川岸、写真右:井戸を使うニュ―ファンガック小学校の子どもたち
人口約1万5千人と決して小さな町ではありませんが、外部からの陸路でのアクセスが難しいため、自動車を見かけることはありません。住民の移動は陸上では徒歩、水上では船に頼っています。より大人数の乗客と荷物を運ぶ大型ボート、少人数で早く移動できる小型スピードボート、村人が川を渡ったり、短距離を移動するときに使う、木をくりぬいたカヌー、人工の動力をつかわず川の流れに任せるイカダ、と水上交通の種類は様々です。道路と同様に、川にも交通ルールがあり、小さなカヌーが川を渡ろうとしているときは、大きなボートはいったん停止し、波を立てないように気を遣います。また、川の途中には魚の置き網を設置している流域もあり、ボートは漁網にひっかからないように注意が必要です。川沿いに点在して住む村人は、現金収入の手段として木炭を作って売るなどしています。イカダに乗った商人が炭を買い取り、彼らは何日間もイカダの上で生活しながら、川の下流にある都市、マラカルへ売りに行きます。
写真左:水上交通としてのいかだ、写真右:カヌーで移動する少年
川を中心に生活してきた住民は、飲み水、料理、洗濯、入浴の全てに川を利用してきました。しかし、水を媒介した病気は後を絶たず、井戸のない村々を訪問すると、下痢に悩まされているという住民の声をよく聞きました。町内の食堂で一般的に出される、川の水で作ったお茶の水は茶色く濁っており、決して飲用に適したものとは言えない状況です。昨年ピースウィンズが掘削した井戸を利用している女性は、「井戸の水を使い始めたら、お腹を壊すことが少なくなった。最近は川の水も汚れが進んでいるので、飲用には井戸の水を使っている」と話してくれました。
写真左:飲み水の色、写真右:井戸を利用するニャボスさんに話を聞くピースウィンズスタッフ
現地NGOの調査によると、ファンガック郡全体でも、現在使える井戸の数は12本程度しかなく、そのうちの5本がピースウィンズの支援した井戸で、多くの住民が清潔な水を入手できる状況にはまだまだ程遠いのが現状です。ピースウィンズは今、郡政府と調整しながら、8か所に新たに井戸を設置すべく準備をすすめています。しかし、中には、井戸の水の味に慣れず、「川の水は甘い、井戸の水はしょっぱい(まずい)」という人もいます。井戸を利用したことのない人びとに、その有効性や使い方をよりよく理解していただくために、井戸と衛生に関する知識を普及する活動も行っていく予定です。
報告:原田靖子
本支援は、ジャパン・プラットフォームからの助成や、皆さまからのご寄付により実施しています。