【スリランカ】小規模貯水池修繕・品質への信用と信頼を築く
「うちの組合の貯水池の修繕をしてもらえるのなら、日本のNGOにやってもらいたい!」
郡の事務所で定期的に開催される農家との会合の場で、郡長から貯水池修繕の案内をされた農民組合の組合長からの突然の発言でした。
ピースウィンズ・ジャパン(以下PWJ) スリランカ事務所では、稲作などに活用する農業用水を貯めておく小規模貯水池の修繕事業を行っています。農業用の貯水池(ため池)は日本でも古くから活用されていて、特に少雨乾燥地域の瀬戸内地方の香川県で有名です。
修繕後の小規模貯水池(ヴェッパンクラム貯水池)
世界でも気候変動の影響を大きく受ける国の一つであるスリランカでは、近年深刻な課題となっている極端な干ばつと洪水被害に対して、この小規模貯水池はとても大きな役割を果たします。活動地であるスリランカ東部州トリンコマリー県では2009年に終結した30年近く続いた内戦による立ち入り禁止制限などのために荒廃してしまった貯水池がたくさんあり、PWJは、内戦による帰還民が多い再定住地域を中心に小規模貯水池の修繕支援を行っています。
この修繕事業は建設業者ではなく、PWJのエンジニア・チームが工事の指揮を取り、実際にその貯水池を使って農業を行う農民組合の組合員が主体となり施工が行われます。現場監督や労働者への作業指示、建設機材の手配などほぼすべて農民たち自身の手で進められます。これによりすべての建設工程を農民が体験的に理解でき、今後メンテナンスや修繕が新たに必要になった際も組合員自身で修復できるようになります。
水門建設の指導を受ける農民たち
もちろん、農民組合は土木工事の初心者同然。経験豊富なPWJのエンジニアスタッフにより、指導は知識のない農民でも理解できるよう、基本に忠実に一つひとつ丁寧に行われるとともに、起こりうるミスへの事前対策指導など、これまで蓄積してきた様々な品質管理のための経験やノウハウを活かして行われます。
農民たちも自分たちの資産である貯水池をより良いものにするため、誤りのないよう慎重に取り組みます。こうして修繕された貯水池は、基盤のしっかりしたとても強固なものになります。貯水池の基本的な役割をしっかりと果たし、長年に渡りほとんど破損することもなく使うことができます。農民自身の参画により彼らのオーナーシップを育むことにも繋がります。また、他の業者による工事と比べても、品質がよく耐久性があると近隣の村落では評判が良く、貯水池の修繕をやってもらえるなら、是非PWJにやってもらいたいと言われるようになりました。
堤防の斜面を排土板の顎で表土掘削指導を行う様子
盛り土位置の測量を行う様子
また、農民たちが主体となり施工されることで、彼らのこれまでの経験、例えば降水時の浸水地や排水経路、土壌の状態や高低地など、長年の稲作で培った経験も修繕に加味され、稲作時の運用イメージに沿った施工を行うことができます。
こうした一つひとつの地道な知識や経験の積み重ねが、それぞれの貯水池修繕の品質とPWJへの信用と信頼を築くことに繋がり、今では、多くの農民組合に知られるようになりました。この知識やノウハウを少しでも還元できるよう、現在は貯水池を管理する農業開発局と協力しながら事業を進めています。
【クンブルピティ村のコンバンクラム貯水池】
2020年のプロジェクト実施地のひとつであるクッチャベリ郡のコンバンクラム貯水池は、修繕前は水が十分に貯水できないことから稲作は天水に頼った限定的なものでした。
本施工にあたった農民組合は一般施工業者を差し置いて品質の高い貯水池修繕として第2位を受賞し、翌年の雨季には収穫高が最も大きい組合として表彰されました。
修繕後の小規模貯水池(コンバンクラム貯水池)
修繕後の洪水吐、お風呂の水が溢れるように貯水池がいっぱいになると洪水吐から排水される
【テリヤイ村のコッティヤバヤルクラム貯水池】
2020年に修繕を行ったコッティヤバヤルクラム貯水池は、修繕前はジャングルに覆われ完全に荒廃した貯水池でした。この場所では、戦前より稲作が行われていましたが、内戦が進むにつれて、このテリヤイ村の住人たちは他県への避難せざる得ない状況になりました。貯水池のあった場所には海軍キャンプが設置され、この地は激戦地となりました。
修繕前のジャングルに覆われた貯水池
修繕後の小規模貯水池、農家のおじいさんが水門に腰掛け堤防から水田を眺める
やがて内戦が終結し、村人はこの地へ戻り再定住を始めましたが、以前使っていた貯水池は荒廃し、雨季も十分な貯水ができないため、稲作はほとんど行われませんでした。
初めて豊作を記念した収穫祭
豊作となった2020年の雨季
この貯水池修繕により十分な貯水を得られるようになり、景色は一変、黄金色の稲の絨毯へと変わりました。数十年ぶりの豊作に人々は歓喜しました。
修繕によって終戦後初めて自分の土地で稲作をすることができたシヴァナダムさんとシヴァリンガムさん
収穫祭の伝統的な行事に参加するPWJスタッフ
このテリヤイの地域は、他の村落と比較して自分の土地を持たない脆弱なカーストの農民が多く居住しており、この貯水池修繕で数名の農家は新たに耕地を取得し、多くの農家は小作人として十分な水を使って新たに稲作を行うことができるようになり、彼らの生計向上に大きく貢献することができました。
エンジニアチームの3名(右からランジット、プビ、プシュパ)
エンジニアチームのマネージャーランジットです。
今回、スリランカの脆弱なコミュニティへの人道支援について日本のみなさんへ感謝の気持ちを伝えられること、とてもうれしく思います。
この小規模貯水池修繕プロジェクトは、地元農家の収入を増やし、国の食糧安全保障に貢献する重要な役割を担っています。
農民自身が貯水池の修繕に参加することで、修繕後も貯水池へのオーナーシップを持ち、修繕が必要なとき自分たちでどのようにすれば良いか理解しています。
また修繕への品質管理には特に力を入れて取り組んでいます。
地元の農家の方々は、日本の人々の支援にいつも感謝しており、私たちPWJのエンジニアリングチームのメンバーは、それぞれの小規模貯水池の修繕にいつも仕事のやりがいを感じています。
これからも日本のNGOとして、品質の高い支援を維持し、現地の人々に寄り添いながら一丸となって活動を続けてまいります。
本事業は外務省の日本NGO連携無償資金協力からの助成金とサポーターの皆様からの寄付金、また地元政府のサポートを得て実施しております。皆さまからのご協力応援の程、またスリランカの発展に寄与できるようなお話等もございましたら是非よろしくお願いいたします。
■スリランカでの人道支援活動とご寄付について
https://global.peace-winds.org/activity/area/srilanka