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【トルコ】5万人以上が犠牲になったトルコ大地震からもうすぐ1年。被災者の心の傷はまだ癒えていません

2023年2月6日にマグニチュード7.8の大地震がトルコ南東部を襲ってから、もうすぐ1年になります。この間、ピースウィンズは被害の大きかったハタイ県を中心に救助・医療支援や緊急支援物資の配付などを行ってきました。1年を経て、被災地では商店が営業を再開し、倒壊した建物の跡地で新たな工事が始まるなど復興が進む一方で、まだ数多くの人が避難所暮らしを余儀なくされており、家や家族や友人を亡くした人々の心の痛みなど、大地震の傷跡は生々しく残っています。この先、どんな支援が必要なのか、現地の様子をトルコ事業担当の富樫航に聞きました。

復興作業は進んでいるものの‥‥

── この1年間、ピースウィンズはどのような支援を行ってきましたか?

富樫: 地震発生直後、災害緊急支援チームである「空飛ぶ捜索医療団”ARROWS”」を現地に派遣しました。震源地となったハタイ県とガジアンテップ県で捜索救助・医療・物資提供の支援を行い、とにかく被災された方々の命を繋ぐことに尽力しました。その後、現地調査をした結果、ハタイ県アンタキヤ市の中心部から離れた村に支援が届いていないことがわかりました。建物の多くが「パンケーキクラッシュ」と呼ばれる完全に潰れた状態で、ほとんどの商店や薬局が閉じている状況でした。ピースウィンズは孤立状態にあった5つの村で食料や生活必需品を配付しました。

夏が近づいてからは、酷暑に襲われるトルコ南部の気候に対応しました。被災者が住むテントやコンテナは、住居を確保するという目的で緊急に整備されたため、暑さを凌ぐための家具や家電が揃っていませんでした。負担を少しでも軽くするため、扇風機やクーラーボックス、蚊帳などの暑さ対策の物資を配付しました。8月からは地元NGOと連携して被災者が暮らすキャンプの子どもと保護者を対象に、心のケア(MHPSS=メンタルヘルスと心理社会的サポート)を始めました。家族や親戚の死や負傷などの影響で、トラウマを抱える子どもがいます。また親たちにも、ストレスによる児童虐待や育児放棄、児童労働をさせてしまうといったリスクがあります。

── 最近の現地の状況を教えてください。

富樫: 12月半ばから1月初めまで、現地でキャンプの様子などを見てきました。地震の被害が大きかったハタイ県イスケンデルン市では、商店が開いていて人の数も多く、活気が感じられました。地元イスケンデルン出身の現地スタッフに聞くと、「街の賑わいは地震前と何も変っていない」と言います。しかし、街を歩けば十数メートルごとに、崩壊している建物を見かけます。取り壊し跡と思われる広い更地もいたる所で目にしました。加えて、数日ごとに建物の取り壊し工事を目にします。取り壊しの際は決まって規制線が張られ、大抵の場合その周りに工事を観察する多くの市民が集まってくるのが印象的でした。複雑な思いで取り壊し作業を観察しているのではないでしょうか。

取り壊しが決まっている建築物

イスケンデルン市内には、周辺地域から避難してきた人々も多くいます。仮設テントでの生活から脱した人は多いものの、1年経った現在でもコンテナハウスでの生活を余儀なくされている人がいます。家電や水回りの設備は整っていますが、コンテナハウスは小さく、大家族は一緒に暮らすことが出来ません。また、壁が薄いため暑さ寒さを防ぎにくく、話し声が外に漏れるなどプライバシーの問題もあります。さらに、シリア難民はもっと環境の悪いコンテナハウスで生活をしています。ハタイ県はシリアと国境を接しているため、もともとシリア危機を逃れてきた難民が多い地域でした。以前から脆弱な立場に置かれていた人たちを昨年の巨大地震が襲ったのです。

── シリアの人々のキャンプはさらに厳しい環境なのですね。

富樫: はい。シリア難民が暮らすキャンプでは、トイレは共同で、しかもそこで暮らす人々の数に比べて不足しています。水回り設備も不十分で衛生面の不安と生活の不便を感じるところがありました。

ピースウィンズのMHPSSはその難民キャンプで行っています。キャンプの中にあるコンテナハウスを「チャイルド・フレンドリー・スペース」として整え、子どもたちの心のケアのための活動を行っています。ここで子どもたちは楽しい活動を通して、地震で傷ついた心を癒したり、表現活動を通して辛い気持ちを吐き出して心の荷物を下ろしたりしていました。子どもたちは元気にMHPSSに参加しており、教えられなければトラウマを抱えている地震の被災者であるとはわからないほどでした。

MHPSSの様子

また、保護者にも子どもが抱える心の傷に気づき、対処できるようトレーニングを行っています。子どもたちがMHPSSに参加する意義や、家庭内暴力への対処の仕方などを保護者が学んでいる姿が印象的でした。お母さんたちの表情は明るく、嘆いたり、落ち込んでいたりするわけではありませんが、真剣に学ぶ様子から、表には出しにくい悩みがあるのではないかと推測しました。

── 他にどんなことを感じましたか?

富樫: 私が現地にいる間に、外部ファシリテーターを招いて、提携団体とピースウィンズスタッフがPSS(心理社会的サポート)の講習会を開催しました。スタッフの能力強化を図った3日間の講習会では座学を行った後、実際に子どもたちが体験するのと同じ活動をスタッフ自ら体験しました。トラウマを克服するため、自分の過去や気持ちについて物や写真、紙粘土などを使用して表現すると同時に、その場にいる人とそれぞれの物語を共有しました。提携団体には地元出身のスタッフも多数在籍し、地震で親戚や友人を亡くした人、家をなくした人、間一髪で助かった人などが精神的なストレスを抱えていました。感極まって号泣してしまうスタッフや、つらい過去を思い出してしまうため、語ることのできないスタッフもいました。シリアから逃れてきたスタッフは、内戦で辛い目に遭った体験を話してくれました。普段一緒に活動をしていてもわからない、癒えない心の傷を目の当たりにした気持ちになりました。こうした感情を表に出すことは心のケアの重要なプロセスです。その上で、それに対してどう対処していくかを講習会で確認しました。

提携団体とピースウィンズスタッフが受けたPSSトレーニングの様子

── 富樫さんはどういう経緯でトルコ支援チームに入ったのですか?

富樫: 昨年秋にピースウィンズに入って、トルコ支援チームに加わりました。トルコ大地震は大学院で中東政治を学んでいる時に発生しました。トルコから来た友人・知人も多く、大きな被害を受けた場所のひとつであるガジアンテップ県出身の友人がいました。彼が家族を心配して友人と連絡を取る様子を見て、自分にもなにかできないかと思い志望しました。大学院で得た知識を活かしながら支援活動ができるのはNGOならではだと思って、やりがいを感じています。

── 今年のプロジェクトを教えてください。

富樫: 引き続き、避難している人々が暮らすキャンプでの心のケアに関する活動を続けていきます。トルコは大地震前の状況には戻っていません。トルコ事業ではまだ支援が必要です。みなさまからのご支援をどうかよろしくお願いいたします。

トルコで子どもたちに接する冨樫=中央

トルコ地震被災者を支援する活動は、みなさまからのご支援とジャパンプラットフォームからの助成を受けて行っています。
引き続き、皆様のご支援をよろしくお願いいたします。

 

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