SHARE
facebook X LINE
インタビュー

3年目に入るウクライナ戦争(4) ─珠洲市の人がボルシチに喜ぶ姿を見てウクライナ人の義母が涙した─

広報:ピースウィンズ国際人道支援 ジャーナル編集部

ウクライナ料理店Faina経営 菊地崇さん、カテリーナ・ヤボルスカさん

元旦の大地震で甚大な被害を受けた石川県珠洲市の市役所前で2月5日、滋賀県彦根市からキッチンカーで駆けつけた夫妻が温かいボルシチ350食を無料で振る舞い、被災者に喜ばれました。「馴染み深い自分の家や故郷の景色が突然、破壊されてしまう苦しみは、それを経験した者にしかわかりません。遠く離れたウクライナからも能登のみなさまへ思いやりとサポートの気持ちを伝えたい」と、この支援を思い立った菊地崇さんとカテリーナ・ヤボルスカさん夫妻に話を聞きました。

お手伝いしたピースウィンズスタッフとともに。キッチンカーの中が菊地さんとカテリーナさん

─能登に行こうと思われたきっかけから聞かせてください。

菊地 輪島市や珠洲市の被害の様子が報道でわかるにつれ、今も激しい戦闘が続くウクライナ東部のハルキウから逃れてきた義母と義祖母が「私たちの町もこうなってしまった」と悲しそうに語り、私たちに何かできることはないだろうかと家族で話し始めました。そこでキッチンカーを使うアイディアが出てきました。

もともとこのキッチンカーは義母たちがウクライナから日本に避難してきた時に、クラウドファンディングでみなさんから支援していただいたものです。それを使って、今度は支援の気持ちをお返しする番だと思ったのです。

─彦根から珠洲への旅は大変だったかと思います。

菊地 はい。前日の彦根から金沢への移動はわりとスムーズで、4時間半で着きました。当日の5日は朝4時に起きて5時に出発しましたが、大量のボルシチを積んだ状態で、壊れた道路を慎重に進まなければならなかったので、5時間かかりました。珠洲市役所に着いて、正午から2時間、350食のボルシチを提供しました。事前に寄付で集めたパンやレトルトカレー、お菓子などの食料品も被災者の方に受け取っていただくことができました。事前の告知が十分でなかったので350食の提供でしたが、もっと多くの方に食べていただきたいので3月初めにまた出かけて今度は500食の提供を計画しています。

温かいボルシチを手渡す
食料品も届けた

─冷たい雨の中でしたし、断水の続く珠洲市で温かいボルシチは喜ばれたでしょうね。

菊地 当日は忙しくて、食べてくださっている様子を見る余裕はなかったのですが、戻ってからみなさんが喜んでくださっているニュース映像を見て、「行って良かったなあ」と思いました。加えて、その映像を見た義母が涙を流しているのを見て、義母の気持ちも能登の人に伝えられて良かったなと思いました。

─カテリーナさんはもともと料理の仕事をされていたのですか?

カテリーナ いいえ、2018年に日本に来てからは英語教師をした後、IT企業で働いていました。ウクライナ料理店を始めたのは、2022年に母と祖母が日本に避難してからのことです。母が料理好きなこともあるのですが、国外に出られなくてハルキウに残る父がシェフなので、いつか日本で一緒に店をできるといいなと思ってやっています。

─Fainaはどういう意味ですか?

カテリーナ ウクライナ語で良い、Goodという意味です。

─お二人の出会いをうかがってもいいですか?

菊地 大学生だった2013年、友達を訪ねて一人旅でハリコフに行った時に出会いました。それから交際を重ねて結婚しました。

─カテリーナさんはそれから日本で暮らしているのですか?

カテリーナ 日本で暮らすようになったのは2018年からです。

─では、2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻の時は、故郷から離れて心配だったでしょう。

カテリーナ 私たちにとってロシアの侵攻は2022年ではなくて2014年。ドンバス地方とクリミア半島に侵攻してきた時からずっと戦争は続いています。それでも、2022年2月24日はショックでした。

菊地 毎日泣きながらお義母さんに電話していました。

カテリーナ ロシアが国境に軍隊を集結させているという報道はあったし、緊張が高まっていることは知っていましたが、「まさか」という気持ちでした。大規模侵攻が始まって、最初は「大丈夫」と言っていた母も、自宅の窓からミサイルによる爆発が見えた時に死の恐怖を強く感じて、まずはポーランドに避難しました。

菊地 そして日本政府がウクライナ人の在留資格取得を大幅緩和すると表明したので、すぐに申請して義母と義祖母に日本に来てもらいました。

─それで、キッチンカーをはじめて、その後、実店舗も開いて、今ではすっかり地元に馴染んでいらっしゃるわけですね。

カテリーナ 落ち着いております。もちろん故郷への想いはあるし、ハルキウに残る父のことが心配です。今は彦根でできることをやっていきます。ウクライナの人々を支えたいし、能登の人々も応援したい。その両方をやっていこうと思っています。

菊地 ウクライナの子どもを勇気づけ、ウクライナの一般市民にも日本の学生をはじめとする市民からの支援の気持ちを示すために、日本の高校生と協力して希望の漫画を作って届けようというクラウドファンディング(CEoW Comic=リンク:https://camp-fire.jp/projects/view/714083)を始めました(締切は2月25日)。リターンはウクライナ産の蜂蜜キャンドルです。これからも、ウクライナ支援と能登支援をやっていくつもりです。

─菊地さんが支援活動をする理由は何ですか?

菊地 もともと隔たりがないというか、国の違いや距離にこだわりがありません。巡り合った女性がたまたまウクライナの人だった。今回は困っているのが能登の人だった。同じ人間として自分にできることがあるならやりたい。ただ、それだけのことです。

─ありがとうございました。

 

プロフィール:

菊地崇さん 航空大学校を卒業してエアラインパイロットになったが、「この仕事は自分じゃなくてもいいかもしれない。自分は自分にしかできないことで、直接的に社会に貢献していきたい」と思ったこともあり、コロナ禍をきっかけに教育事業を始める。現在はレストラン(Faina)と教育部門の両方を持つ会社を経営している。4月13日、14日に東京・代々木公園で行われるEarth DayにFainaのキッチンカーを出店する。

カテリーナ・ヤボルスカさん 結婚を機にウクライナから来日。英語教師、会社員を経て、現在は母とともにFainaを切り盛りしている。

\平和をつくるために、2分でできること/
ピースサポーター申込フォームへのボタン画像です


ウクライナでの活動をもっと知る

WRITER
広報:ピースウィンズ国際人道支援 ジャーナル編集部
国際支援や世界情勢に関わる情報をお伝えしています。本当に困っている人たちに、本当に必要な支援を届けるために、私たちにできることを一緒に考えるきっかけになればと思います。
SHARE

SUPPORTご支援のお願い

支援が必要な人々のために
できること

ピースウィンズは世界各地の地震・洪水・干ばつなどの自然災害と、
紛争や貧困など人為的な要因によって
生命や生活の危機にさらされた人を支援しています。
また、復興・開発のために支援を行います。

  • HOME
  • ジャーナル
  • 2023年 難民の日 ピースウィンズの難民支援の現場から(3)