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インタビュー

3年目に入るウクライナ戦争(3)─ ウクライナの人々を支えるモルドバに関心を持って欲しい─

広報:ピースウィンズ国際人道支援 ジャーナル編集部

ピースウィンズ・キシナウ事務所 久貝隆介

ロシアがウクライナに侵攻して以降、隣国モルドバには延べ90万から100万人の避難民が流入したと見られています。今もモルドバ国内には11万人近い避難民が暮らし、滞在が長期化する中で新たな課題も生まれています。ウクライナ避難民を支援するのと同時にヨーロッパ最貧国のひとつであるモルドバをどう支えるのか考えるキシナウ事務所の久貝隆介に話を聞きました。

─モルドバでの仕事はどのくらいになりますか?

久貝 昨年9月に着任して、4ヶ月半になります。

モルドバに着任して4か月半 ─どんな仕事をして何を感じるのか─

─この間、どんな仕事をして何を感じますか?

久貝 ウクライナでの戦争が始まってからの2年間に、ピースウィンズはモルドバに仮設診療所を作って避難民を診察したり、避難所で暮らす14万人に食料や日用品を配付したりしました。現在は避難民への食料支援のほか、モルドバの提携団体と協力して、障害と基礎疾患を持つ避難民に対する医療支援を実施したり、避難している学齢期のウクライナ人が遠隔授業を受けられるように「スマートクラス」と呼ばれるパソコンルームの設置・運営を通じて教育分野での支援も行なっています。私自身はこうした事業の運営を引き継ぎつつ、これから始まる避難民が通う学校の修繕事業に携わっています。

こうした活動をしていて本当に感服するのは、モルドバの人々の忍耐力と包容力です。人口260万の小さな国が11万もの避難民を受け入れるのは大変なことです。ドイツが108万人、ポーランドが96万人を受け入れているのに比べると少なく感じますが、人口比で言えばドイツが1.3%、ポーランドが2.6%なのに比べてモルドバは4.2%です。日本の人口に当てはめると528万人もの難民を受け入れていることになります。これはすごい比率です。

地元提携団体の代表と食料支援に関して協議する久貝(右)

国の人口4.2%もの難民を受け入れるモルドバ ─決して余裕がある国ではないのになぜ─

─すごい。モルドバ自身決して余裕のある国ではないのに、どうしてそんなことができるのでしょう?

久貝 歴史的に同じ旧ソ連の一員で関係性が深いということはあると思います。海を持たないモルドバの人にとって、休暇で行く海はウクライナのオデーサの海でした。元々、モルドバの民族構成は約75%のモルドバ人に次いで7%近くをウクライナ人が占めているそうです。また、自分の親や祖父母の代にウクライナ人がいるという話もよく聞きます。ですから、ウクライナの苦難はモルドバの人にとって他人事ではないのだと思います。それにしても、よくこれだけの負担に耐えていると感心します。

─ヨーロッパ各地で移民排斥運動が見られますが、そういうことはないのですね。

久貝 あからさまに排除するような動きはありません。

戦争が長期化する ─隣国のモルドバは─

─でも、戦争が長期化するとモルドバも大変でしょう。

久貝 そこを心配しています。現に、ウクライナ避難民に住居と食事を提供する公的な一時避難所(RAC=refugee accommodation center)は、これまでモルドバ国内に述べ136ヶ所設置されましたが、徐々に減らされて44ヶ所になっています。今後も統廃合が進められる予定で、避難所に入れない人は家賃補助を受けて外部の住宅を探すことになっていますが、補助額に上限があるうえ、助成期間にも制限があります。欧州最貧国ともいわれるモルドバ社会が、彼らを今後どのように受け入れていくのかというところに注目する必要があります。

その意味で私たちの活動も、避難民を支えつつ、モルドバの社会課題も解決する支援であることが大切だと思っています。たとえば、これから改修を行うキシナウの学校は、(モルドバの公用語であるルーマニア語ではなく、ウクライナ人も使う)ロシア語での教育を行う学校なので、現在は多くの避難民の子どもたちを受け入れていますが、モルドバの子どもたちも多数通っています。こういう学校を整備すると、モルドバの子どもたちの学習環境も向上します。

タラス・シェフチェンコ校の雨漏りする体育館

未来が見通せない中 ─子どもたちの人生選択─

─ピースウィンズの事業のひとつである前述の「スマートクラス」に通って遠隔授業でウクライナの教育を受ける子ども、ロシア語学校に通う子ども、モルドバでの暮らしに合わせてルーマニア語で学ぶ子ども、未来が見通せない中で子どもたちの人生の選択は悩ましいでしょうね。

スマートクラスで遠隔授業を受ける子どもたち

久貝 はい。彼らが将来をどう見据えているのか、保護者たちはどう考えているのか、私自身とても興味のあるところなので、「スマートクラス」で企画しているイベントや課外活動などを通じて、保護者も含めて交流の機会を増やし、彼らの気持ちを知りたいと思っています。

─避難民を支えるモルドバのすごさをもっと日本の人に知って欲しいですね。

久貝 そうなんです。モルドバは、ウクライナ支援事業において当面は重要な地域であることは間違いないと思いますが、同時に、EU(欧州連合)加盟候補国でもあることから、企業にとっては将来的なヨーロッパ進出の足がかりにできるかもしれません。人件費や生活コストは低く治安も良い。また、ルーマニア語とロシア語のバイリンガルの人が多いので中央アジアやコーカサス諸国への足がかりにもなるかもしれません。モルドバワインは有名ですが、野菜をはじめとする食べ物も豊富ですし、他のヨーロッパ諸国よりは安い。投資でもCSR(企業の社会貢献)でも検討に値すると思います。NGOとしてお手伝いできそうなことがあれば、お声がけいただきたいです。

*モルドバでの支援事業は、ジャパン・プラットフォームの助成金やみなさまのご支援により実施しています。

プロフィール:
早稲田大学理工学研究科卒業後、建築家・泉幸甫に師事。その後個人での設計活動の傍ら、上智大学外国語学部ロシア語学科卒業、ロシア国内の在外公館勤務、外務省専門分析員などを経て、2023年9月よりピースウィンズ・キシナウ事務所にて支援事業に従事。

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広報:ピースウィンズ国際人道支援 ジャーナル編集部
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