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コラム&インタビュー

なぜ肝炎の感染拡大は止まらないのか?年130万人の命を奪う感染症・肝炎と闘うプロジェクト

広報:ピースウィンズ国際人道支援 ジャーナル編集部
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かつて日本で「国民病」とも言われた感染症、「肝炎」。長年の努力によって、現在は多くの命が救われるようになりました。しかし世界では年間130万人という大勢の人がいまだに肝炎によって命を奪われていることをご存じでしょうか?

すでに治療法があり、予防法もある感染症で、今も多くの人が命を落としている――このやりきれない現状を変えようと、私たちピースウィンズ・ジャパンは肝炎プロジェクトを推進しています。西アフリカなど被害が大きい地域で、検査体制の整備や、予防や治療を促進する啓発活動の支援をしてきました。

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肝炎の感染拡大が止まらないのはなぜなのか、流行地域はどのような状況なのか? そんな疑問に、ピースウィンズが提携する西アフリカ・ブルキナファソの肝炎患者団体「SOS肝炎(SOSエパティット)」の皆さんの物語を通じてお答えします。ピースウィンズや現地提携団体が、肝炎にどう立ち向かおうとしているのか、少しでもご関心を持っていただければ幸いです。

「どうして肝炎だけ薬がもらえない?」広がらない支援

ウイルス性肝炎は世界三大感染症と言われる「結核」や「HIV(エイズウイルス)」、「マラリア」に匹敵する犠牲者を出しているにもかかわらず、国際社会の関心が低く、支援が乏しいのが現状です。援助さえあれば対応策があるはずの病気が蔓延する結果となってしまっています。

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WHO(世界保健機関)によると、肝炎の感染者の多くはアフリカやアジア。最大の感染ルートは出産時の母子感染で、B型肝炎の新規感染の63%がアフリカで起こっています。

患者団体「SOS肝炎」が活動するブルキナファソも、肝炎が蔓延する国の1つ。設立者のジャスティン・ヤラさんはかつて医療機関で働いていましたが、ブルキナファソの人々のB型肝炎の有病率の高さに驚き、患者への支援が必要だと考えて団体設立に至りました。

SOS肝炎の事務局長を務めるボニーニさんは、かつてHIV患者を支援していた経験を生かそうと活動に加わりました。まず驚いたのは、HIVとの支援の格差だと言います。

「HIV患者は検査や治療に対して補助金をもらえるのに対して、B型肝炎患者にはなんの支援もありません。このため、治療へのアクセスがとても難しいのです」(ボニーニさん)

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実はHIVとB型肝炎には共通で有効な治療薬があります。しかし、HIV患者は無料でもらえる薬を、肝炎患者は経済的な理由で諦めざるを得ないケースが多くあるのです。

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身近なのに誰も知らない「肝炎」の恐怖

止まらない肝炎の感染拡大。もう一つの大きな要因は、ブルキナファソで生まれたクレール・オルタンス・サノンさんの体験が物語っています。

アルジェリアの大学でスポーツ学を学びハンドボール選手として活躍、俳優として映画にも出演……と華々しい経歴を持つオルタンスさん。しかしある日、献血をきっかけに自身が病に侵されていることが判明します。

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オルタンスさんをさらに苦しめたのは、それがどんな病気なのか、何をすればいいのかすら聞いても教えてもらえない、極度の情報不足でした。約1年後に「B型肝炎」の病名が判明してからも、その病気の詳細は分からないままだったのです。

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、自覚症状がないまま時間をかけて病気が進行します。肝炎が進行して症状が出るときには、すでに肝硬変や肝がんなど治療の難しい段階に至っていることが少なくありません。腹水や黄疸(おうだん)などの症状で亡くなる人は多くても、それを「肝炎」の結果だと認識している人はほとんどいない、というのがブルキナファソの状況でした。当然、ワクチン接種や検査を受けようなどと思い至ることもありません。

「体に不調は出ていませんでしたが、自分がこれからどうなってしまうのか、とても不安でした」というオルタンスさん。そんな彼女の転機となったのが、幼なじみのヤラさんとの再会でした。肝炎患者を助けようと手探りで活動していたヤラさんとの出会いを通じて、オルタンスさんは自らを襲う病気のことを初めて知り、患者支援や肝炎対策の活動に身を投じていくことを決めます。

そしてまもなく始動したのが、肝炎患者団体「SOS肝炎」でした。

託された遺志を大きく育てるために

代表のヤラさんを中心に、SOS肝炎のメンバーは母国の肝炎を巡る状況を少しでも良くしようと奮闘しました。肝炎の啓発活動、検査や治療の呼びかけ、理解ある医師の協力を得て検査のイベントの開催、肝炎の患者を集めての対話の会――。しかし2022年、ヤラさんの急逝という悲劇が起こってしまいます。

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SOS肝炎がもっと地域や人々に貢献できるように前へ進み続けよう、と繰り返し話していたというヤラさん。「いろいろな学びの機会を作ってくれた、母親のような存在だった」とSOS肝炎メンバーのオノリーヌさんは話します。「ヤラさんが亡くなった後にみんなで話し合い、その意志を継がなくていけない、そう結論を出したんです」(オノリーヌさん)

そしてオルタンスさんは、親友のヤラさんからSOS肝炎代表の立場を引き継ぐ決断をしました。「彼女との出会いは人生の選択を豊かにしてくれました。彼女がいなくなっても、SOS肝炎が私にとって大事な場所であることは変わりません」と語り、活動を少しでも前に進めたいと決意を新たにしています。

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日本の肝炎対策が希望の光に

自身も肝炎の情報不足に苦しんだオルタンスさんは、肝炎の認知度の低さや無理解を是正することの重要性を痛感してきました。オルタンスさんが肝炎を宣告された時代から20年以上の時が過ぎましたが、いまだに状況は改善していないと感じているのです。

自身が肝炎について知ってからは、周囲にも知識を伝え、ワクチン接種や検査を受けるよう働きかけているものの、検査・治療を怠ったために亡くなる方は後を絶ちません。最近も妹さんのご友人が、妊娠中の奥さんを遺して亡くなったと言います。SOS肝炎でも地道な啓発・広報活動を続けていますが、実際には資金の問題で、やりたいことのごくごく一部しか実現できていないのが実情です。

活動は多くの困難に直面しているものの、オルタンスさんの目には希望が灯っています。日本の患者団体の招きで来日した際(ピースウィンズも協力)、かつて肝炎の感染拡大に苦しんだ日本の軌跡を見たからです。

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「ブルキナファソの肝炎感染は非常に深刻で、大勢の感染者を見つけ出して対処するには多大な努力と強い意思の力が必要です。しかし、肝炎と闘ってきた日本の姿を見て、ブルキナファソもできる! と強く感じました。絶対に諦めないと決意しています」(オルタンスさん)

私たちが目指す肝炎克服の道筋

ピースウィンズでは、2023年からブルキナファソでの肝炎プロジェクトを開始しました。SOS肝炎を含む現地提携団体とともに、これまで検査キャンペーンへの協力、検査機器の提供、相互訪問による情報交換といった取り組みを行ってきました。

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肝炎検査を受ける機会を提供するキャンペーンは、患者を見つけて適切な治療を促すことにつながるだけでなく、会場に訪れた人に肝炎の正しい知識や対処法を伝える啓発活動においても大きな効果を発揮します。

また、クラウドファンディングを通じて贈呈した、1日に約100人の肝炎患者を検査できる検査機器「フィブロスキャン」は現地で今も活躍し、適切な治療を促すための大きな力になっています。

▶これまでの活動については過去の報告もご覧ください
ブルキナファソでの活動
【ブルキナファソ】フィブロスキャンがブルキナファソに届きました!
【空飛ぶ捜索医療団アフリカに行く#01】アフリカ最貧国ブルキナファソ 約200万の感染患者に “一筋の希望”

今後は、これまでの取り組みを強化するだけでなく、アフリカで使用できる肝炎の啓発資材の作成、地域に肝炎の正しい知識を伝えるブルキナファソ版「肝炎コーディネーター」の育成など、日本でも肝炎克服に実績のある方法を応用しながら活動を進めたいと考えています。

地道な啓発活動や地域人材育成の成果が目に見えるまでには長い時間がかかりますが、肝炎の克服を目指すうえでは避けて通れない道のりです。私たちはオルタンスさん率いるSOS肝炎とともに、肝炎に苦しむ人をひとりでも多く救うために腰を据えてこの問題に取り組んでいきます。

アフリカの命を救うために

このプロジェクトが真に実を結ぶには、皆さんのお力が必要です。継続的なご支援が、こうした長期にわたる活動を支えてくださっています。本当にありがとうございます。

かつて「国民病」と言われた肝炎を克服した日本だからこそ、アフリカの命を救うためにできることがある。あたたかいご支援をどうぞよろしくお願いいたします。

▶継続的なご支援はこちら:READYFOR
▶今回だけのご支援はこちら:Yahoo!ネット募金
▶郵便振替:
00160-3-179641 特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン
※振替用紙に、「肝炎支援」とご記入ください。
▶銀行振込:
三井住友銀行 青山支店 普通1671932
PayPay銀行 本店営業部(ホンテン) 普通 2154961
特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン
※領収書をご希望の方は、お振込後に、こちらから「ご寄付の使途(肝炎支援)、お振込いただいた口座名(三井住友銀行 or PayPay銀行)、お振込日、お振込金額」をご連絡のうえ、領収書ご希望の旨をお知らせください。

ピースウィンズ・ジャパンへのご寄付は、税制優遇制度の対象です。確定申告をしていただくことで、寄付金額の最大で約4割が所得税額から控除されます(税額控除の場合)。

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世界肝炎デーに寄せた私たちのメッセージ

毎年7月28日は世界肝炎デー(WHD)です。2025年の肝炎デーに向けて開催された「WHDリレー」に、ピースウィンズの肝炎プロジェクトチーム、そしてブルキナファソの「SOS肝炎」が参加しました。肝炎撲滅を目指す世界中の人々がビデオメッセージで繋がるこちらの企画に、私たちが寄せたメッセージをぜひご覧ください。

WRITER
広報:ピースウィンズ国際人道支援 ジャーナル編集部
国際支援や世界情勢に関わる情報をお伝えしています。本当に困っている人たちに、本当に必要な支援を届けるために、私たちにできることを一緒に考えるきっかけになればと思います。
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