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インタビュー

ガザの人道危機が続く今、なぜUNRWA支援をやめてはいけないのか

広報:ピースウィンズ国際人道支援 ジャーナル編集部

イスラム組織ハマスによる昨年10月7日のイスラエル攻撃にUNRWA(United Nations Relief and Works Agency for Palestine Refugees in Near East:国際連合パレスチナ難民救済事業機関)の職員12人が関与した疑いがあると今年1月にイスラエルが発表したことで、UNRWAは関与を疑われた12人のうち死亡した2人を除く10人の職員を解雇し、調査を開始したと発表しました。一連の報告を受けてアメリカが直ちにUNRWAへの資金拠出停止を発表すると、複数の国が次々と資金拠出停止を決め、1月28日には日本政府も資金拠出の一部停止を決定しました。しかし、この決定はすでに危機的な状況にいるガザの人々を一層苦しめることになります。なぜ資金拠出を止めてはいけないのか、ピースウィンズ中東担当マネージャーの内海旬子に聞きました。

2023年11月の物資配布の様子

ガザにおける「UNRWA」の働きとは

──そもそもUNRWAはどういう組織ですか?

内海 UNRWAは1949年12月8日に採択された国連総会決議302(IV)により設置され、1950年5月に活動を開始したパレスチナ難民の救済と保護を目的とする国連機関です。ガザにおいて初等教育の学校183校を運営しており、イスラエルの攻撃が始まる前は約30万人の子どもたちが通っていました。また、22の診療所で120万人に保健医療を提供してきました。その他にも困窮する世帯に食料や生活費を支給するなど、人々の基本的なニーズの充足には欠かせない存在です。これらの機関で働く教員や医療従事者、その他の専門家もUNRWAの職員です。人と物の出入りがイスラエルにより激しく制限されているガザでは、失業率は70%を超えており、雇用機会の提供という意味でもUNRWAは重要な役割を担ってきました。そして現在、ガザにはUNRWAの学校を含む155か所の避難所があり、UNRWAのスタッフが自らも被害者でありながらその運営を担っています。

各国からの資金拠出が止まるとどうなる?

──日本を含む各国からの資金拠出が止まると、どんな問題が起きますか?

内海 1月27日、UNRWAのラザリーニ事務局長は「ガザでは200万人がUNRWAの支援に頼っており、資金拠出が止まると2月末には活動ができなくなる恐れがある」とUNRWA支援継続を訴える緊急声明を出しました。つまり、先ほど述べたようなガザの人々の暮らしを支える機構が機能しなくなってしまうのです。

イスラエルの指摘を受けUNRWAはどう動いたか

──イスラエルの指摘を受けて、UNRWA側は対策を講じたのですよね?

内海 はい。UNRWAはイスラエル攻撃への関与を疑われた12人のうち死亡した2人を除く10人の職員を解雇し、調査を開始したと発表しました。ただし、ラザリーニ事務局長は「イスラエルから証拠を示されていない」ことを明らかにしており、そのことは、イギリスのテレビ局Channel 4も検証しています。UNRWAは、全職員のリストを毎年イスラエルに提出していて、直近の2023年5月に提出したリストを含めてこれまでにイスラエルからいかなるコメントも受けたことはないとのことです。翌28日には国連のグテーレス事務総長も、UNRWAがイスラエルの求めに応じて疑いのある職員を解雇し、適切な対応をとっていることを改めて説明し、「テロ行為に関与した国連職員は、刑事訴追を含め責任を問われる」と述べました。

──各国の資金拠出一時停止を受けて、「UNRWAの機能をUNHCRやUNICEFなどほかの国連機関が担えばよい」との意見があるようですが、内海さんが当面UNRWAの代わりはないと考える理由は何ですか?

内海 ほかの国連機関が代替するというのは、この人道危機下で現実的ではありません。今、ガザの住民の9割が飢餓の危機に直面しています。また、爆撃の被害を直接受けなかったとしても、病気やケガの治療を受けられないために命を落とす関連死も防げない状況です。ガザのパレスチナ難民の支援はこれまでUNRWAが一手に引き受けてきており、実際の活動にはガザの住人である職員が当たってきました。つまり、他のUN機関もその職員もガザにいないので、急にUNRWAに代わって役割を担うことはできないのです。「他の機関がやればよい」との意見には、「UNRWAに問題がある」という理由が含まれていることがあります。しかし、もしUNRWAの組織の見直しが必要だとしても、それを今この人道危機に瀕している最中に、ガザの人々の命と引き換えに行う必要はないでしょう。

2023年10月7日以降、ガザ地区では、イスラエルによる前例のない規模の空爆およびガザ北部への地上侵攻が展開され、パレスチナ保健省の発表では、2月16日現在、12,300人の子どもを含む28,775人が死亡し、負傷者は68,552人、さらに7,000人が行方不明になっています。

幼稚園児たちへのセッション(2023年10月の攻撃前)

なぜNGOが国連機関を心配する?

──なぜNGOが国連機関のことを心配するのですか?

内海 国際人道支援というのは、どこか一つのアクターだけで完結することはありません。国連、国際機関、各国の支援、NGO、地元の団体など様々なアクターがそれぞれの役割を担ってはじめて危機に対応できます。NGOの活動もUNRWAと協力して実施することがあります。たとえば、ピースウィンズが緊急支援としてUNRWAの学校に避難している人々に食料を届けた際には、その学校のUNRWA職員たちの多大な協力を得てスムーズに実施できました。ガザのパレスチナ難民への基本的なサービスは、ほぼUNRWAによって提供されている状況を考えると、UNRWAの機能が失われたらパレスチナ難民が困難に直面し、パレスチナ難民のコミュニティがさらなる大混乱に陥るのは明らかで、それを今この状況下でNGOや他の援助機関が補うのは不可能です。

NGOが日本政府に求めたいこととは

──資金拠出を停止していない国はあるのですか?

内海 NPOのUNウォッチによると、2024年1月末の時点でUNRWAへの資金拠出の一時停止を決定したのは、拠出額の多い順に、米国、ドイツ、EU、スウェーデン、日本、フランス、スイス、カナダ、英国、オランダ、オーストラリア、イタリア、オーストリア、フィンランド、ニュージーランド、アイスランド、ルーマニア、エストニアの18の国と地域です。日本は昨年11月に成立した2023年度補正予算にUNRWAに対する約3500万ドル(約52億円)の追加支援を盛り込んでいましたが、その停止を決定しました。一方、ロイターなどの報道によると、ノルウェー、アイルランド、ベルギー、ルクセンブルグ、スコットランドは、資金拠出の継続あるいは増額を表明しており、ポルトガルは2月2日に100万ユーロ、スペインは2月5日に350万ユーロのUNRWAへの追加拠出を発表しています。

ガザの海岸。(2023年10月の攻撃前)

──今、日本政府にもっとも強く求めたいことは何ですか?

内海 これ以上ガザの市民の犠牲を出さないためには、一刻も早い停戦を実現させなければなりません。しかし、残念ながらその兆候はまったくなく、ガザでは、ピースウィンズのスタッフの言葉を借りれば「最悪を日々更新している状況」がすでに4か月続いています。当初イスラエルは「市民は南部に避難せよ」と通達したので、多くの人々が南部に向かいました。そして、今、イスラエルはその南部への地上作戦をちらつかせています。ガザの多くの人々は家を失い、日々の食料にも事欠く中、十分な医療も受けられず、子どもは教育を受けられず、爆撃もやみません。そんななかで文字通り「命をつなぐ支援」を実施する重要なアクターであるUNRWAへの資金拠出の一時停止は、人道状況をさらに悪化させることにしかなりません。

昨年12月29日、南アフリカが、ガザでのジェノサイドの疑いでイスラエルを国際司法裁判所(ICJ)に提訴して暫定措置を要請しており、その仮判決が1月26日に出ることになっていました。イスラエルがUNRWA職員によるハマスのイスラエル攻撃関与を発表したのは、この暫定措置命令が出る直前のことです。予定通りの期日に発表された国際司法裁判所(ICJ)の暫定措置は、イスラエルに対し、ジェノサイドを防止するためのすべての措置を講じるよう命じるものでした。日本では、上川外務大臣が、暫定措置命令は「誠実に履行されるべきもの」と支持を示す談話を発表しています。

イスラエルにはジェノサイドの即時停止を求めます。そしてUNRWAへの資金拠出の一時停止を決めたすべての国に、特に日本政府には決定の撤回を強く求めます。そして国際社会には、人道外交を駆使して停戦を実現させるよう重ねて求めます。

 

(参考)UNRWAとは

国際連合パレスチナ難民救済事業機関。第一次中東戦争後、1949年12月8日に採択された国連総会決議302(IV)により設置され、1950年5月1日に活動を開始しました。
設立の背景には、1948年5月14日のイスラエルによるパレスチナの地での建国宣言にあります。これを機に第1次中東戦争が起こり、約75万人のパレスチナ人が故郷を追われました。パレスチナの人々は、自分たちがヨルダン川西岸およびガザ、またレバノン、シリア、ヨルダンに逃れて難民となった1948年5月15日を「ナクバ(アラビア語で破壊、災厄の意味)」と呼び、「ナクバ」はパレスチナの人々の心に今も深く刻まれています。
難民支援を司る国連機関であるUNHCRの設立はUNRWA設立の翌年1950年12月14日であり、パレスチナ難民支援については、UNHCRではなく、UNRWAが一貫してその役割を担っています。2022年12月の時点で、ヨルダン、シリア、レバノン、ヨルダン川西岸及びガザ地区の難民キャンプ 61 カ所を中心に居住するパレスチナ難民およそ590 万人を対象として 、教育、保健医療、福祉、社会サービス 、難民キャンプのインフラ整備・環境改善、保護、小規模金融、緊急支援など 、通常は政府が担う多岐にわたる活動を展開しています。
UNRWAの2023年度予算は22億ドルで、9割を国連加盟国からの拠出に頼っています 。日本政府は、日本が1956年に国連に加盟する前の1953年よりUNRWAに資金を拠出しており 、近年の拠出額は、2020年度の当初予算で1億9911万6千円(拠出順位:5位 )、2021年の当初予算では1億7594万7千円で、日本の外務省は「日本は長年アジアのトップドナーを維持している」と報告しています 。実際、UNRWAからの信頼も厚く、この2月に緊急来日した清田明宏UNRWA保健局長は、14日に開かれた超党派の国会議員の勉強会で人道支援の継続を訴えた際、「日本が拠出を停止したときはショックだった」と話しました 。

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広報:ピースウィンズ国際人道支援 ジャーナル編集部
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