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インタビュー

いまパレスチナ・ガザでなにが起きているのか?現地から届けられる凄惨な現実と見逃されがちな真実

広報:ピースウィンズ国際人道支援 ジャーナル編集部

2023年10月7日、以前からイスラエルによる封鎖と軍事攻撃に晒されてきたパレスチナのガザ地区における紛争が激化。ピースウィンズのパレスチナ事業担当としてエルサレムに駐在する矢加部真怜(まさと)が「日々最悪が更新される」と表現するほど、状況は悪化し続けています。いまパレスチナ・ガザでは、なにが起きているのか? 現況とともに、紛争をめぐる言説で見逃されがちな点について、支援の最前線にいる矢加部に聞きました。

空爆や銃撃が起きる異常な世界と日常が同居する紛争の現実

―― 昨年10月以降、紛争が激しくなるなかでピースウィンズは現在も支援活動を続けています。そうした厳しい状況下でも現地スタッフとして一緒に支援活動を行うハデルとサミーラはいま、どのような状況なのでしょうか。

緊迫するガザでピースウィンズ・スタッフは何を考え、どう行動したか?

ふたりは、現在もガザ地区にとどまり、私たちの支援活動をサポートしています。ハデルの自宅のある街は11月に激しい空爆に遭い、奥さんの実家に一時的に避難しましたが、今度はそこに地上侵攻が行われ危ないということで、実家の焼け跡に戻って家族と暮らしていました。

しかし、そこで義理のお兄さんと姪っ子がイスラエル軍の銃撃に遭い……助けようと駆け寄る人々にも容赦なく銃が向けられたため助けることができず、ハデルは大切な人を亡くしてしまいました。その後も攻撃は続き、約2週間経ってようやく一時休戦されたときに、自分の手でご遺体を葬ることができたそうです。そのときの状況は、本当に筆舌に尽くしがたい光景だったといいます。毎日毎日、悪夢を見ているようだけれど、これは悪夢ではない、目の前で起きている現実なのだと。

もうひとりのスタッフ、サミーラもガザにとどまり、自宅の地下室で避難生活を送っています。しかし、まわりはイスラエル軍の戦車に囲まれて身動きがとれない状況で、備蓄していたわずかな食料と水でなんとか食いつないでいますが、彼女も数週間前にお兄さんを銃撃で失ってしまいました。

―― 矢加部さんが駐在しているエルサレムは、ふたりのいるガザ地区からそれほど遠いところではありません。矢加部さんの言葉には、助けに行けないはがゆさのようなものも感じられます。

そうですね、車で2時間くらいの距離なのですが、今は私たちがガザ地区に入ることはできません。ふたりともただただ、なんとか生き抜いてくれと、もう祈ることしかできない状況に、とても無力さを感じてしまいます。

サミーラは、「ガザは本当に人が住めないところになってしまった」といいます。ガザの人びとはこれまで経済封鎖と紛争が続く状況下でも街をなんとか立て直して秩序を保ってきたのですが、その努力がこのわずか数カ月ですべて踏みにじられてしまったと言わざるを得ません。それでもふたりは凛として高い志を持って、今もわれわれの活動を支えてくれています。

―― サミーラさんには、たしかお子さんもいらっしゃると聞いています。

はい、幸いなことに家族は無事です。サミーラの家は電波が届かず、自宅アパートの屋上付近まで上って電話をくれるのですが、「友人や親戚が大勢殺された。もう耐えられない」と涙ながらに話し始めることも少なくはありません。それでも、ゆっくりと話を聞いているうちに少しずつ元気を取り戻し、支援活動のアイデアや現地の状況を冷静に話し始めます。

「現場に行くのは危ないのではないか」「避難するつもりはないのか」と聞くと、「もうガザに安全な場所なんてないことは、あなたも知っているでしょ」と、すぐに強い彼女に戻るのです。まだ自分は家があるし、子どもや夫も生きている、ここではとても恵まれている、私がやらないで誰がやるの、と。

そして気づいたら子どもたちのたわいもない話をはじめます。彼女は4人の母親で、子どもの話をしているときはとてもいい表情で幸せそうです。どんな状況下でも、母親としてのやさしさと強さを失うことはありません。それはハデルも同じです。

ただこうした会話をするたびに、日々空爆や銃撃が起きている異常な世界のなかに、ごく普通の日常が同居している、紛争の生々しいリアルを思い知らされます。パレスチナではいま、人々のごく当たり前の日常と幸せが、不条理に破壊され奪われているのです。

互いに支えあいガザの地を守るパレスチナ人の揺るぎない信念

―― 一般的な報道では「220万人の避難民」とひと括りに伝えられますが、今のお話を聞いて、当たり前ですが一人ひとりの人間が生きていること、そしてそこにはそれぞれの人生があって、過酷な状況下でも強く生きていることをあらためて実感させられました。

ガザの人というと、「危険なテロリスト」あるいは空爆で街を破壊された「かわいそうな弱い人たち」というイメージで報道されることが多いのですが、現実はそうではなく、ハデルやサミーラのように、とてもやさしく、ホスピタリティにあふれています。築いてきた歴史と文化に尊厳と誇りを持ち、占領や封鎖といった不条理が繰り返されてもその強い意思は微塵も変わることなく、互いに支えあいながらガザの地に生きてきました。ゆるぎない信念を持って生きるふたりを、本当に心から尊敬しています。

しかし、こうした彼らの誇りを踏みにじり、人としての尊厳を奪うことも攻撃の核をなす部分だと思っています。空爆や銃撃は人に向けられるものだけでなく、大学や古文書館、博物館、モスクや教会などの歴史的建造物なども標的とされ破壊されました。こうした建物内には過激派組織の拠点や武器があるからという建前ですが、その裏にはパレスチナ人が何百年とかけて築き上げてきた歴史や文化を一掃しようとする意図がみられます。

ただ殺戮するだけではなく、パレスチナ人という存在そのものを消して、この地を自分たちのものにしようとしている。物的な被害だけではない、文字どおり「民族浄化」をしようとする攻撃に卑劣さしか感じられません。これがパレスチナの紛争地の現実です。

悪化し続けるパレスチナ・ガザ地区の危機的状況

パレスチナの問題は、宗教や民族間の争いなど、いろいろな問題が複雑に絡んだ紛争といわれていますが、本質的にはその土地をめぐる争いだと私はとらえています。この土地で何百年と暮らしてきたアラブ人が武力によって追い出された。パレスチナの人々は、その故郷を守ろうとして権利を主張し、土地や水資源などをめぐって争いが絶えないのが実態です。

ガザ地区の人口約220万人のうち、7割以上は元々ガザの人ではなく、過去の中東戦争でイスラエル軍に故郷を追われて逃げ延びた人々、もしくはその子孫です。

難民キャンプに都市をつくり、地域コミュニティの不断の努力と国際社会の支援で何とか人々は秩序を維持してきたのですが、長引く封鎖に伴う経済危機と毎年のように繰り返される空爆で人々の暮らしは限界に達していました。そこで起きたのが今回の人道危機です。

――イスラエル軍は、北部のガザ地区を空爆することを宣告し、住民に対して南部に避難せよという警告が発令されました。

はい、しかし現実はその南下する道中も安全の保障はいっさいなく、実際に避難ルートが空爆を受けました。さらになんとか戦禍を逃れてたどり着いた難民キャンプは劣悪な環境で、例えば2,000人が1つのトイレやシャワーを共有しなければならない状況です。何よりも生きるための食料や水などの物資が圧倒的に不足しています。

―― 物資の絶対量が足りていないのか、それとも支援物資が届いていないということなのでしょうか。

両方ですね。特にガザ北部の市内の物資はほとんど枯渇しかけていて、国外から持ってくるしかありません。ガザにアクセスするにはエジプトとの境界にあるラファ検問所と、イスラエルとの境界にあるケレム・シャローム検問所からのルートしかないのですが、ここも長い間一時期封鎖されて20日間もの間、物資が全く届かないこともありました。10月7日以前は1日500台前後のトラックが入れていましたが、今は数十台から百数台が入れるかどうか。ニーズは膨れ上がっているのに、入ってくる物資は平時よりも少ないので、足りるわけがありません。

こうした状況下で避難者のなかには餓死してしまう人も出てきています。今ではガザにいるすべてのパレスチナの人々がその危機に瀕していて、極度の栄養失調に喘いでいる状況です。

―― 多くのパレスチナ人が避難したガザ南部も同じ状況なのでしょうか。

南部のラファにある避難所でも、小麦や米などの食料をはじめ、衛生用品などの必要な生活物資はほとんど手に入りません。もともと人口の少なかったところに、百数十万の避難民が大挙して押し寄せたので、住むシェルターも物資も不足してしまい、物資はあってもその多くはブラックマーケットで高値で取引されていて、一般の人は買うことができません。かろうじて市場には野菜が出回っていて、それをピースウィンズも含めた支援団体が脆弱な人々に配付しています。

―― 避難しても住むシェルターさえないということが起きてしまっている……

避難所のなかで仮設のテントに入れた人は幸運なほうかもしれません。なかには穴だらけのビニールシートをつなぎ合わせて、そこで冬の寒さに凍えながらなんとかしのいでいる家族がいます。また冬のパレスチナは雨も多く、即席のビニールハウスは寒さに加えて浸水してしまうこともあり、横になる場所さえもないという人も。子どもが風邪ひいて高熱でも寝る場所がなく、薬も買えなくて本当に困窮している状況だと聞きました。

そうした過酷な環境をさらに厳しくしているのが、水の問題です。

ガザの人々は、昨年10月以前から水不足に苦しんできましたが、紛争が激化してからはほとんど支援物資は届けられず、希少な地下水をたくさんくみ上げてしまったことで、現在は塩分が混じった水しかくみ上げることができなくなっています。塩分濃度の高い井戸水で腎臓疾患にかかる人が増えています。しかし、それでも生きるためには、塩水でも飲むしかない。もう選択肢がないわけです。

ガザ市民が本当に求めているのは停戦。いま私たちにできること

ハデルもサミーラも、故郷を追われることはなににも代えがたい屈辱で受け入れがたく、ガザにとどまっていましたが、ガザ北部の状況は逼迫してもう限界を超えています。ハデルは妻と共にエジプトへの退避を目指して移動していますが、都市間の移動があまりにも危険なので検問所のある南部にはたどり着けていません。ガザ市のご両親は頑として動かないようで、その身を案じています。

サミーラは、南部にも行く当てがないし、同じく高齢の両親を置いて行けないと言って家族と共にガザ市の自宅にいます。

―― 今、ガザの人々はどのような支援をもっとも必要としているのでしょうか。

もちろん、今日生きるための食料や水などの支援も大事ですが、いまパレスチナの人たちが何よりも求めているのは停戦です。元々は10月7日にイスラエルへの攻撃を企てた過激派組織の掃討という名目で激化した今回の紛争ですが、イスラエルはもはやガザ地区からパレスチナ人を抹殺し、領土を手に入れるという野心を隠さなくなっています。

イスラエルの極右政党は、ガザへの再入植をしきりに主張していますし、イスラエル軍による病院への執拗な攻撃、医療従事者への拷問、性暴力等も数多く報告されています。まずは、イスラエルが空爆と軍事侵攻、市民の殺戮、大規模な人権侵害を止めること。そして、パレスチナ人の生存権を認めること。これがないと、問題は何一つ前進しません。

憎しみの負の連鎖を一度断ち切らない限り、前に進むことは不可能で、とにかく停戦がすべてのはじまり、一丁目一番地だと、パレスチナの人々も、私たちも信じています。そのために、ほかのNGOと連携して各政府機関に停戦に向けた取り組みを呼びかける活動も続けています。

―― しかし、国際法に則り、国際機関は国際法に則った平和的解決を働きかけ、周辺国も仲介を試みていますが、紛争は終わる気配さえみえません。

現実はそうです。支援を続けても焼石に水のような状況です。平和的解決は無理だという人もいますが、難しいのは100も承知で、不可能といわれようとあきらめるという選択肢はありません。何も行動しないことは、ジェノサイドを容認してしまうことと同じで、なによりも目の前で苦しむ人を、ハデルやサミーラを私たちは助けなければいけない。

―― 私たちにできること、するべきこととはなんでしょうか。

ピースウィンズとしては、できる限りの支援を続けることのほかに、ひとりでも多くの人に、この紛争の現況を伝えていくことが重要だと思っています。

本当に明日、生きながらえるか分からない状況のなか、ハデルやサミーラはなんとか現状を知ってほしいと情報を私たちに発信し続けてくれます。

ガザの人々は、「天井のない監獄」といわれるように、17年間も封鎖されて出入りが厳しく制限されているため、外の世界を知らない人もいます。特に17歳以下の子どもたちの多くは、フェンスの向こうに住んでいるイスラエル人の顔を見たことがありません。そうした環境もあり、自分たちは世界から見捨てられていると感じています。

だから、かろうじて国外と関わりがある人は、なんとかして自分たちが置かれている境遇を発信したい、知ってほしいという思いが非常に強い。

私たちもできる限りの情報を拡散させることで、現況を知った人々が停戦を訴えるさまざまな活動に取り組むアクションにつながっていきます。多くの人々の努力によって、日本でもガザ情勢への関心が高まってきました。私の家族や友人たちも含め、国内各地でイスラエルに自制を求めるデモや、ガザの人々への連帯を示す動きが強まっています。実際にそうしたニュースや光景を見かけたら真っ先にガザの関係者に伝えるのですが、彼らはとても喜んでくれます。自分たちは、世界からまだ見捨てられていないのだと。

本当にささやかなことかもしれません。それでも少しでも彼らにとって希望となり、生き延びるエネルギーになることを願い、これからも支援活動を続けながら、現地の状況を発信し続けていきたいと思っています。

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※インタビューは、現地の最新の状況を伝えるさまざまな映像とともに、動画でも見ることができます。

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広報:ピースウィンズ国際人道支援 ジャーナル編集部
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