インドとパキスタンが衝突。暴力の拡大で懸念される人道的影響とは?

対立の歴史を持つ2カ国、インドとパキスタンの間の緊張が急速に高まっています。インド政府は2025年5月7日、先月起きたテロ事件を受けてパキスタン側のイスラム過激派組織の拠点を攻撃したと発表。パキスタン政府は市民に多くの犠牲が出ていると反発して報復の姿勢を示しており、暴力の応酬が激化しかねないとの懸念が広がっています。
なぜ緊張が高まったのか?
4月22日、インドが実効支配するカシミールの観光地パハルガムにて武装集団による襲撃事件が発生し、外国人観光客を含む26人の民間人が死亡しました。インドは、背後にパキスタンの支援を受けた武装勢力がいると非難し、その報復としてテロ組織の拠点9カ所を攻撃したとしています。
これに対しパキスタン側は、インドの攻撃によってこれまでに民間人31人が死亡したと強く反発し、インド側の戦闘機5機を撃墜したと発表しました。
インドはテロ事件のあと、両国を流れるインダス川水系の水資源の配分を定めた条約の停止を表明し、パキスタンへの水供給を抑制するなど、両国の関係は急速に悪化していましたが、今回の攻撃でその対立は決定的になりました。
インドとパキスタン、対立の歴史
インドとパキスタンの対立の歴史は、1947年、イギリスからの独立時点にさかのぼります。このとき、宗教を基盤にヒンドゥー教徒中心のインド、イスラム教徒中心のパキスタンに分離独立を果たしました。
しかし、ここで発生したのが、カシミール地方の帰属問題です。カシミール地方はイスラム教徒が多数派でしたが、統治者がヒンドゥー教徒であったことから帰属問題が勃発。これをきっかけにインドとパキスタンの対立が先鋭化し、この後3度の印パ戦争(1947年、65年、71年)につながりました。その後も軍事的な衝突は絶えず発生しています。
今後の展開と軍事衝突のリスク
インドとパキスタンは、いずれも核保有国です。報復合戦が続き行動がエスカレートして大規模な軍事衝突となれば核戦争に拡大する可能性も否定できず、一つの事件が全面衝突に発展するリスクを常にはらんでいます。
今後の展開について、最大のポイントは報復の応酬がどの時点で止まるのかという点です。国際社会も状況を注視しており、国連や米国などが即時停戦を促す仲介を試みています。
インド・パキスタン両国も事態の極端な悪化は望まないと考えられますが、突発的な事態が起こる可能性は常にあり、国内情勢が妥協を難しくすることも考えられます。ここから数日、数週間の動向が今後の展開を分ける分水嶺となりそうです。
「対話による平和的解決と即時の緊張緩和を」
ピースウィンズ・ジャパンは、このインドとパキスタンの緊張の高まりに深い懸念を表明します。私たちは、すべての人びとの生命と尊厳を守ることを使命としており、これ以上の衝突や暴力の拡大がもたらす人道的影響を重く受け止め、国際社会とともに関係するすべての当事者に対し、対話による平和的な解決と即時の緊張緩和を強く求めます。
パキスタンでは、2022年に国土の3分の1が被害を受ける大規模な洪水が発生。3,300万人が被災し、790万人が避難を余儀なくされました。この災害に対し、ピースウィンズは被災地において農業支援を実施。しかし、翌2023年にも激しい強風や豪雨により90万人の人びとが被災し、現在も生活再建は道半ばです。
こうした現地の脆弱な人びとが、今回の事態によってより一層困難な状況に陥ることを私たちは危惧しています。人道支援が妨げられることなく、必要とされる支援が速やかに届けられることを願ってやみません。ピースウィンズは、今後もすべての人びとの安全と人権が守られるよう、最大限の努力を続けていきます。
福井美穂(ピースウィンズ・パキスタン事業部統括責任者)
