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インタビュー

2023年 難民の日 ピースウィンズの難民支援の現場から(2)

広報:ピースウィンズ国際人道支援 ジャーナル編集部

6月20日は「世界難民の日(World Refugee Day)」です。UNHCR(国連高等難民弁務官事務所)によると、紛争、迫害、人道危機から逃れてきた難民や避難民など、助けを必要とする支援対象者は全世界で約9470 万人。ウクライナ戦争やスーダンの治安悪化など様々な要因によってその数は増え、第二次世界大戦後、最も多い危機的な状況となっています。「世界難民の日」は苦難に立ち向かう難民・避難民への共感と理解を深め、彼らの勇気を讃える日。UNHCRが掲げる2023年のテーマは“hope away from home(難民とともに描く希望)”。世界各地で難民・避難民支援を行なってきたピースウィンズは、今どんな活動を行っているのか? そこにどんな希望があるのか? 現場から3人の声をお届けします。

 

●ロヒンギャ難民を前に「希望」を模索する山本裕子

 

──山本さんはバングラデシュに駐在して、どのような仕事をしているのですか?

山本 バングラデシュ南東部のコックスバザール県で、ミャンマーから逃れてきたロヒンギャ難民の支援をしています。多くの人が仏教徒であるミャンマーで、イスラム教徒が多い少数民族のロヒンギャはミャンマー政府から不法移民とみなされ、迫害されました。1978年から隣国のバングラデシュに避難する人はいたのですが、2017年に事態がさらに悪化しミャンマーで大規模な掃討作戦が発生し、およそ74万人がコックスバザールに逃れて難民となりました(民族的背景や多様性への配慮から「ロヒンギャ難民」ではなく「ミャンマー避難民」と呼ばれることもあります。)。それ以降、新たな流入やキャンプ内での出産もあり、現在、30数ヶ所の難民キャンプで暮らす人の総数は約96万人(2023年4月時点)。世界最大の難民キャンプと言われています。

 

 

──すさまじい数です。

山本 はい。96万人というのは日本の政令都市に近いということですから。

 

──そこでピースウィンズはどのような難民支援を行なっているのですか?

山本 医療保健支援をしています。2017年当初は現地団体のダッカ・コミュニティ・ホスピタル・トラストと一緒に移動診療を始めました。その後、2018年にクリニックを開設して、分娩サービスを含む基礎的な医療サービスの提供を始め、クリニックはこの春、5周年を迎えました。現在は、医療サービスの提供だけでなく、キャンプで暮らす人々が自分自身で健康管理ができるように、予防方法や衛生知識を増やすための啓発活動も行なっています。避難生活が長くなると、感染症だけでなく、高血圧や糖尿病などの慢性疾患も問題になってきます。そのため健康的な食生活や運動習慣など、病気を予防するために自分自身でできることを知ってもらえるようにしています。同時に、難民キャンプの人々だけでなく、バングラデシュの地元の人にも健康教育の場を設けています。

 

診療所での医師の診察
診療所での医師の診察
診療所で生まれたばかりの赤ちゃん
診療所で生まれたばかりの赤ちゃん
キャンプの啓発活動をするロヒンギャのボランティア
キャンプの啓発活動をするロヒンギャのボランティア

 

──難民キャンプの中だけでなく、受け入れているホストコミュニティへの支援もするのですね。

山本 はい。ロヒンギャ問題は政治や民族が絡み複雑なので、ホストコミュニティへの配慮はとても大切です。ミャンマー政府はロヒンギャの人々がそもそも「バングラデシュから流入した不法移民である」と主張し、彼らに国籍を与えていません。一方、避難先のコックスバザールは都市部から離れているもともと貧しいところです。そこに100万人近い難民が流れ込むと、経済的にもインフラ的にも十分な対応をすることが難しいです。2017年の危機の当初は、キャンプ内のみに支援が行われることについての不満や、難民キャンプのために土地を切り開いたことによる「自然破壊だ」という訴えが起こるなど、両者の間に緊張感がありました。

 

──貧しいところに難民キャンプができると摩擦は避けられませんね。

山本 難しい問題です。キャンプのための開拓との因果関係は明確な結論は出ていませんが、井戸が枯れたとか、さまざまな疑念が生じます。人道支援関係者も最初は難民キャンプの支援だけに入っていたのですが、今はバングラデシュ政府の方針もあり、ホストコミュニティも一定のメリットがないと事業実施が許可されない仕組みになっています。それでも摩擦が完全になくなるわけではありませんが、近隣の人々に不公平感が生じることは望ましく無く、地域全体の調和や発展へは最大限の配慮をしています。

 

──ミャンマーでは2021年にクーデターで軍事政権が戻ってくるなど、ロヒンギャの人たちにとって将来の見通しが立ちにくい状況だと思いますが、問題が長期化することの苦悩はありますよね。

山本 難民にとっての一般的な選択肢は①自国に戻る ②避難先に定住する ③第三国に移住する、の3つと言われますが、ロヒンギャの人々にとっては、どの道も容易ではありません。ミャンマー政府は国籍を与えておらず、バングラデシュ政府も定住に積極的ではありません。また身分証明書を持たない彼らにとって第三国への移住も容易ではありません。そんな困難な状況で私たちにできる支援は何なのか、常に考え続けています。

残念なことに、最近、キャンプ内の治安がすごく悪化しています。今年に入ってから、以前より頻繁に「どこかのキャンプで銃撃があった」「火事があった」という知らせが来るようになっています。そのような治安状況も影響しているのかは分かりませんが、急に見かけなくなった人がいると思ったら、どうやら非公式のルートで第三国に渡ったらしいと聞くこともあります。「より良い生活」は何かと考えた結果の一つの選択肢になっているのかもしれません。

 

 

──そうしたなか、山本さんを支えるのはどんな思いですか?

山本 彼らにとって何をすれば「希望」となり得るのか? どこに目標をおいて考えればいいのか? 事業実施時に常に考えることですが、私自身まだ明確な答を持っているわけではありませんが、人材育成がひとつなのではないかと思っています。いま行っている難民とバングラデシュのホストコミュニティの保健ボランティアの育成と、彼らが行う保健啓発活動を通じ、少しずつ変わっていく人々の様子や彼らの笑顔に明るい兆しを感じることがあります。また難民とホストコミュニティのボランティアが、事業活動を通して交流している様子にも、新たなコミュニティの形の片鱗を感じます。このような両当事者の交流は、行動制限があるキャンプで大々的にできる活動ではないので、実施できる人数は限られますが、事業を実施しているからこそ生み出せる効果ではないかと考えます。長期化している問題だからこそ、支援内容も一時的な効果のものだけでなく、人々や地域の変化のきっかけづくりやその後押しができるようなものが求められるのではないかと考えています。

 

 

WRITER
広報:ピースウィンズ国際人道支援 ジャーナル編集部
国際支援や世界情勢に関わる情報をお伝えしています。本当に困っている人たちに、本当に必要な支援を届けるために、私たちにできることを一緒に考えるきっかけになればと思います。
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