ハイチを「忘れられた地」にしないために、つながり続ける
〜ハイチの会・セスラ代表の高岡美智子さんのお話をうかがいました〜
ウクライナ、トルコ、スーダン、ハワイ‥‥戦争や紛争、自然災害のために世界のあちこちで支援を必要とする人が増える中、深刻な人道危機が起きていながら忘れられた存在になりつつあるのがカリブ海の島国ハイチです。
5月のレポートでも報告したとおり、一昨年夏モイーズ大統領が武装集団に銃殺されてから2年以上元首不在で政治も警察も機能せず、武装ギャング同士の衝突で暴力犯罪は衝撃的なペースで増加中。その上、食料やガソリン価格の高騰、ギャングが畑に火を放って農業までもが壊滅的打撃を受け、人々の暮らしはさらに危機的な状況に陥っています。国連のグテーレス事務総長は昨秋と今春、ハイチの人道危機に対処するため国連部隊派遣の必要性を訴えましたが、応じる国はありません。
こうした状況の中で、20年来ハイチの学校に支援を行ってきて、ピースウィンズにも貴重な支援金を託してくださった「ハイチの会セスラ(セスラは学校の名前)」は、どのようにしてハイチ支援を続けているのか、代表の高岡美智子さんにお話をうかがいました。
−ハイチ支援を始められたきっかけは何だったのですか?
高岡 なぜハイチか、と聞かれると「出会っちゃったから」としか答えようがありません(笑)。バナナペーパープロジェクトというNPO法人の事務局長をしていた時、日本のODAで作られたハイチのバナナペーパー工房を視察に行こうと計画したのが始まりです。準備中に横浜の国際交流フェスティバルでバナナプロジェクトの展示をしていたところ、通りかかって興味を示してくれたのが、現在私たちの団体の理事も務めてくれているハイチ出身の山田カリンさんでした。2003年に里帰りを兼ねてカリンさんが案内してくれて、ハイチの工房などを視察しました。この時、カリンさんのお姉さんのマリクレールさんが自宅を開放して私費で運営している学校も見せてもらいました。以来、マリクレールさんとの交流が深まり、彼女の学校を支援しています。
−マリクレールさんの学校はどんなところですか?
高岡 彼女は公立の学校の先生でしたが、学校のキャパシティが足りないのと学費が払えない家が多いために、ハイチの子どもの3分の1くらいしか学校に行くことができず、自分の名前すら書けない人が大人になっていく状況を見過ごすことができなくて、自宅を開放して、学費を払えない子どもも受け入れて学校を開いた教育者です。もともと首都ポルトープランス郊外の借地で学校を開いていました。2010年のハイチ大地震の後、出身地のアルチボニット県モーリャンクにも近所の子どもたちのための学校を作りました。その後、私たちの会に多くの寄付が寄せられたので、それを使って1.1ヘクタールの土地を手に入れ、モーリャンク校を拡充することができたのです。
−そのマリクレールさんの学校をこの20年間、支援してこられたのですね?
高岡 はい。メインとなる支援は学校の運営、すなわち先生たちのお給料への支援です。政府からは一銭の支援もない学校ですから、「学校が存続する」ための資金です。一部の生徒への奨学金は、セスラ校(幼稚園と小学校)の卒業生が中等教育(中学と高校)を受けられるようにと願う先生たちの要請で始まりました。現在、6人の奨学生を選んで経済的に支援しています。ギャングから子どもと先生を守るために学校の周りに塀を建設したりもしました。また、給食支援は、子どもたちと先生たちだけでなく、親たちからも大変よろこばれています。
−学校は今年の春頃から閉校の危機にあると聞きました。
高岡 ギャング同士の衝突で治安が本当に悪くなり、子どもを連れた人たちは少しでも安全なところを求めて移動するために、学校に来られる子どもが減りました。暴力事件が頻発するなか、登校するのも大変です。春頃から、学校を開くことができるのは週に2日か3日になっていて、そのまま夏休みに入りました。夏休みの間もサマースクールを計画していたのですが、予定していた開催日の3日前にギャング同士の撃ち合いによって近所で火事がおき、サマースクールは開催できませんでした。新学期がどうなることかと心配しています。
−学校が開けない間も先生たちの給与の一部を負担する支援をなさっていたそうですね。
高岡 はい。給料がなければ先生たちも生活ができませんから、できる限りのことをしてきました。
−遠いハイチへの支援を熱心になさっている原動力は何ですか?
高岡 子どもたちが本当に可愛らしいのです。水道もトイレもないような地で、裸足で、青空教室でも学ぼうとするハイチの子どもたちが。そして、環境が何であれ、育っていく子どもたちには教育こそが大切だと信じて一身を投げ打つマリクレール先生を助けなければならないと思っています。先の見通しがない中だからこそ余計にそう感じています。それでも私たちにできることは限られています。どうしたらいいんだろう、と悩むことしかできません。でも、思い続けていたい。繋がっていたい。そう強く願っています。ハイチのことを忘れないで欲しいと思います。
自身が翻訳したハイチの絵本『希望の木』と訳者あとがき。妹のためにマンゴーを育てようとした少年ファシールが、獣害や自然災害にめげずに工夫して木を育てる物語のあとがきに、高岡さんは書いています。〈ハイチの人々が、この物語のファシールのように、くじけず希望を持って頑張るよう祈らずにいられません。「僕たちは何もないけど、希望だけはあるんだよ」と言った子がいました。その笑顔を思い浮かべるとき、その子どもたちとともに、明日への希望を分かち合って、支援活動を続けたいという思いを新たにしています。〉
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