SHARE
facebook X LINE
コラム&インタビュー

【レバノンの現在(3)】イスラエル軍による空爆だけではない、知られざるレバノンの人道危機

広報:ピースウィンズ国際人道支援 ジャーナル編集部

長年の政治的混乱や腐敗、シリアからの難民流入、イスラム教シーア派組織ヒズボラとの対立などさまざまな問題を抱え、深刻な人道危機に苦しむレバノン。ピースウィンズのカメラマン近藤史門が紛争で困窮するレバノンのいまを伝えるレポート第三弾――

真っ暗な建物の中で身を寄せ合う避難者の生活

レバノンの首都ベイルート、中心街から車で20分ほど運転すると、街の様子が変わり車内にも少し緊張感が走ります。古い集合住宅が立ち並び、ベランダには無造作に掛けられた洗濯物の山。幹線道路の高架の影なのか少し薄暗く感じるこのエリアが、都市部よりはるかに治安の悪いエリアなのだと、一瞬で感じとれます。

荷物を最小限にまとめて車外に出ると、1人の男性が歩み寄ってきました。顔と名前は出さない約束で話を聞かせてくれた彼が、空爆によりベイルートに避難してきた人々を受け入れる避難センターの管理運営者でした。

住宅街の一角に建つ薄暗い建物。元は公立学校の施設だったがもう何年も放置されているというこの場所に、現在25世帯75人の避難者が生活しているとのこと。真っ暗な入り口から入るその場所は、まるでギャング映画で悪の組織が本部にしていそうな、薄気味の悪い建物だなというのが正直な印象です。

各階には7~8ほどのさまざまな大きさの部屋があり、家族の大きさに合わせてか、部屋があてがわれています。マットレスが敷かれただけの部屋に、無造作に服や雑貨が積み上げられ、昼なのに薄暗い部屋の中を窓から入る光だけが照らしていました。

真っ暗で汚いトイレに男女の区別はなく、その横に無造作に置かれたバケツの水で避難者は体を洗います。食事は1日3回、人道支援団体が持ってくるもので、倉庫には飲料水が積み上げられていました。避難所を確保するにも市内中心は人口が密集しており、長期的に避難者を宿泊させ得る場所がありません。そのために長期避難所はこのような郊外の貧困街に近いエリアが選ばれるのだろうと現地提携団体職員は話します。

何よりも必要なのはお金。一番の心配は子どもの教育

避難者の撮影は許可されませんでしたが、1人のレバノン人避難者から話を聞くことができました。3人の子どもの父親であるカダルさん(仮名)はこう語ります。

「私たちは、ベイルート郊外のBorj El Brajnehという街から3ヵ月前に避難してきました。空爆によって自宅は跡形もなく破壊されています。以前は病院に勤めていましたが、ここでは仕事が見つかりません。私も子どもたちも、今は一日中この部屋にいるだけです。今何よりも必要なのは現金。必要なものを手にいれることも、どこかへ行くにしても現金なしには身動きがとれません。一番心配なのは、子どもの教育です。避難してからまだこちらの学校に通えていないので……」

現地提携団体Dorcasは、このような避難施設を回って話を聞きながら、ニーズに応じて必要な支援を実施してきました。しかし、レバノンにおける人道支援ニーズの報道価値が高まっていない今、レバノン支援に投じられる国際支援の規模は、現地から要請される金額を大きく下回っています。

国連WFPの報告によれば、2025年1月~3月に必要となる支援ニーズは、およそ9千万ドルと概算されるものの、現在までに確保できている支援資金総額はわずか6百万ドル。必要量の7%にも満たないのが現状です(*5)。

*5)WFP国連世界食糧計画|WFP Lebanon Snapshot (December 2024)

物資を受け取り涙を流す人びと

レバノンの人々は自らを「楽観主義的で順応性がある国民」と話します。どんな問題が降りかかってきても笑い話にして、生き抜く道を見つけるのがレバノン人なのだと、レバノン滞在中に複数の人から同様のことを言われました。

しかし、そんな彼らですら現在のレバノンの状況を前にして “希望を見出すことが難しい” と涙ながらに訴える人々がいます。

現在レバノンの抱える問題は「イスラエル軍による空爆」などという一言で片づけられるものではありません。国内に抱える150万人以上の難民、2019年から続く壊滅的な経済危機、20年に発生したベイルート湾での爆発事故、それに伴う政府と銀行の機能不全、コロナ禍の観光業衰退による損失、貨幣価値の暴落と急激なインフレ……今回の空爆は、こうした問題が積み重なってきた数々の国家的危機の上にさらに重くのしかかった人道危機です。

報道量や世間の関心に左右されず、適切な場所に適切な支援を届けるためにはどうすればよいのか、国際人道支援の世界は今試されています。(了)
【レバノンの現在(1)】を読む)

※レバノン国内での支援活動を実現するため、日本外務省・在外公館に報告した上で現地治安情報の収集と提携団体との連携を密に取り、移動時の安全と万一を想定した国外退避経路を確保した上でスタッフを派遣しています。

レバノン人道危機に対する緊急支援(ピースウィンズ・ジャパン)

\平和をつくるために、2分でできること/
ピースサポーター申込フォームへのボタン画像です

レバノンでの活動をもっと知る

WRITER
広報:ピースウィンズ国際人道支援 ジャーナル編集部
国際支援や世界情勢に関わる情報をお伝えしています。本当に困っている人たちに、本当に必要な支援を届けるために、私たちにできることを一緒に考えるきっかけになればと思います。
SHARE

SUPPORTご支援のお願い

支援が必要な人々のために
できること

ピースウィンズは世界各地で起こる紛争や災害などの危機に
いち早く駆けつけ、危機にある命を支援します。
また、傷ついた命が自分たちの力で歩んでいけるよう、
復旧・復興・開発に寄り添います。

  • HOME
  • ジャーナル
  • 2023年 難民の日 ピースウィンズの難民支援の現場から(3)