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コラム&インタビュー

【レバノンの現在(1)】「空爆で子どもたちは“20年”を失った」母親が見たレバノン紛争の罪

広報:ピースウィンズ国際人道支援 ジャーナル編集部

昨年9月23日、イスラエル軍はレバノン南部に大規模な空爆を実施。その数日後には首都ベイルートまで標的は拡大され、多くの犠牲者が生まれました。ピースウィンズはこの事態を受け、緊急支援をおこなってきましたが、レバノンの人びとは今回の攻撃だけでなく、政治的混乱や腐敗、シリアからの難民流入、イスラム教シーア派組織ヒズボラとの対立などさまざまな問題を抱え、長年深刻な人道危機に苦しんでいます。レバノンはいま、どのような状況なのか。ピースウィンズのカメラマン近藤史門が、年が明けた1月のレバノンの様子をレポートする。

「失望」が支配するレバノンの首都ベイルート

決して裕福ではなくとも、中東ならばどこでも見るような日常生活が車窓には続いていました。次の瞬間、車を運転する現地提携団体職員のロージーさんが前を指差します。

「ほら、あそこ。この間ミサイルが落ちた場所よ」

集合住宅の間に突如現れる崩れ落ちた建物。まるで映画のセットのような非現実的で異様な光景が迫ってきました。

ここはレバノン共和国の首都ベイルート。繁華街から車でわずか20分ほど走ったこのエリアは、イスラエルと対立するイスラム教シーア派組織ヒズボラが本部を構えていたことから、昨年9月から続いていたイスラエル軍による空爆目標の一つでした。

11月27日に60日間の停戦合意が発効し住民は胸を撫で下ろしましたが、イスラエルに面するレバノン南部を中心に停戦合意後もイスラエル軍による攻撃は続き、少なくとも29人の民間人が死亡したと報じられています。ベイルートの街中では、この日も軍用偵察ドローンの不気味なモーター音が空に響いていました。

国連が発表した空爆による民間人の犠牲者は4,000人超。大規模な攻撃を受けた南部をはじめ、紛争を原因に避難した人々は98万人に上ります。昨年11月末に停戦合意がされたものの、破壊された住宅やインフラの復旧には時間がかかるため、2025年1月時点でも11万人以上が避難生活を余儀なくされています(*1)。

*1)国連人道問題調整事務所(OCHA)|Escalation of hostilities in Lebanon, as of 09 January 2025

重苦しい車内で、私は言葉を選びながらロージーに聞きました。

「自分の住んでいる街が攻撃されて、最初に感じた感情はなんだったの?」

ロージーは数秒 黙り込み、そしてため息をついて、ゆっくりと口を開きました。

「Disappointment (失望) ね。ただでさえレバノンはこの5年、あまりにもたくさんの困難にぶつかってきた。金融危機でレバノンポンドは紙屑になって、ベイルート港の爆発事故で街は傷ついた。コロナ禍で経済は破綻して、2年も大統領が決まらず政府は機能不全のまま。そんなときに空爆までされるの?っていう失望。怒りとかそういう感情的なものでなくて、ただ失望。社会と経済の立て直し、加えてこの街の復興を考えれば、今の子どもたちは “20年” ぐらいの時間を失ったと言えるわ。私の小学生の子どもに残されるレバノンの未来はなに?」

紛争が日常となった子どもたちの異常

イスラエル軍による攻撃は、レバノンに住む大多数の一般市民とは無関係のグループを攻撃目標にしています。ロージーさんはこう続けます。

「私たちに過激思想も対立意識もあるわけないけれど、紛争下では間接的にも直接的にも被害を受けてしまう。毎日ドローンの音を聞いている子どもたちも最近ではもう何も言わなくなったわ。爆撃のアラートがあったから学校の娘に電話をして迎えに行こうかって聞いたら “こんなのいつものことじゃん、来なくていいよ” って。紛争状態に慣れてしまうなんて、どうかしているわね」

そう笑い話にするロージーさんのその目からは、どこか冷たさを感じました。

ピースウィンズは現在、ロージーさんが所属する現地提携団体と共に、紛争による避難者をはじめレバノンで困窮する人々のための食料支援を行っています。停戦合意が発効された2024年11月時点で人口の23%が急性食料不安に直面しており、加えて昨今の経済破綻による急激な物価上昇により、食料確保は避難者の喫緊の課題となっています(*2)。

*2)WFP国連世界食糧計画|Lebanon

復興に向けた長い道のりを前に、レバノンは今なお非常に不安定な状態で世界から取り残されています。(【レバノンの現在(2)】へ続く)

※レバノン国内での支援活動を実現するため、日本外務省・在外公館に報告した上で現地治安情報の収集と提携団体との連携を密に取り、移動時の安全と万一を想定した国外退避経路を確保した上でスタッフを派遣しています。

レバノン人道危機に対する緊急支援(ピースウィンズ・ジャパン)

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広報:ピースウィンズ国際人道支援 ジャーナル編集部
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