【レバノンの現在(2)】政治の混乱と腐敗、破綻する経済。支援しなければ国が崩壊する
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長年の政治的混乱や腐敗、シリアからの難民流入、イスラム教シーア派組織ヒズボラとの対立などさまざまな問題を抱え、深刻な人道危機に苦しむレバノン。ピースウィンズのカメラマン近藤史門が紛争で困窮するレバノンのいまを伝えるレポート第二弾――
相次ぐ軍事介入により崩壊していく、かつて「中東のパリ」と呼ばれた街
地中海に面したレバノン共和国。国土面積は岐阜県ほどしかない小国家であるものの、首都ベイルートはかつて「中東のパリ」と呼ばれたほど、商業・金融・文化の中心地として栄えていました。
しかし、70年代に入るとその繁栄が陰り始めます。イスラム教とキリスト教の混在する複雑な宗教的・政治的背景を抱えていた国内が内戦状態に陥り、ベイルートの街は荒廃していきます。その後もイスラエルによる軍事介入が相次ぎ、国内は現在も非常に危うい状態に置かれています。
レバノン経済は、長年の政治的混乱や腐敗、シリア内戦による大量の難民流入、イスラム教シーア派組織ヒズボラとの対立など、外的および内的な要因で弱体化していました。そしてついに2020年3月、政府の債務問題によりデフォルト(債務不履行)が宣言されると、直後のベイルート港爆発事故(20年8月)が追い打ちとなり経済状況は急激に悪化、対処すべきレバノン政府も内閣を組閣ができないほどの機能不全に陥りました。
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レバノンの貨幣は急激に価値を失い、2019年に1米ドル=1500ポンドだった貨幣価値は現在およそ60分の1にまで落ち込んでいます。(現在1USD=約90,000LBP)
食料品や日用品の物価が急激に上昇し、2022年の3月から6月の間に食料価格が122%上昇するという食料品インフレ率としては、世界一の数値を出しています(*3)。レバノンに続く二番目のインフレ率となったジンバブエですら23%であることからも、この価格上昇がいかに異常なものかがわかります。
もともと、人口1人あたりの難民受け入れ数も世界一だったレバノンでは、難民の生活に国際支援の目が向けられてきましたが、経済危機を受けてレバノン国民も苦しい生活を強いられています(*4)。
*3)The World Bank|Food Security Update (July29 2022) Table 1: Food Price Inflation: Top 10 List
*4)UNHCR|Lebanon Fact Sheet Q2 2024
1500ポンドで10枚買えたパンは75,000ポンド払っても6枚しか買えない
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現地提携団体のロージーさんとスーパーマーケットを訪れました。
そこに並ぶ野菜を指さし、ロージーさんは話します。「5年前ならトマトは、1kg1500ポンドで買えました。今では100倍の150,000ポンド必要なこともあります。ここは安い店だから75,000ぐらいでも買えるけれど、みてください、質は悪いしこれなんてほぼ腐ってる……」
卵やチーズ・肉など、毎日のように値段が上がるので、お店が値札を貼ることをやめた時期もあったとロージーさんは話します。
「値札がないからレジに持って行って初めて値段を聞くのよ。ドキドキする瞬間よね..笑 あんまりにも高くなってたから、買うのをやめたこともしょっちゅうあるわ」
毎日食べるパンも昔は1500ポンドで10枚買えたのに、今では75,000ポンド払ってようやく6枚入りの袋が買える状態です。
「こんなことがいつまで続くのか、誰もわからないのが一番怖いことよ。2年ぶりにようやく新しい大統領も決まったし、これで少しは経済も落ち着くと期待はしているけど、まだ安心するのは早いわね…」
「本当は支援を受けるなんて恥ずかしい」誇りと現実の狭間に揺れる信念
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ロージーさんは「支援を受けることを恥ずかしいと思う人は多い」と言います。「それは自分に力がないことを認める行為で、周りの目を気にして支援を受け取りに行きづらい気持ちはレバノン人に限らず理解できることもあるだろう」と。
しかし、そんなことを言っていられないほどにレバノンの経済状況は悪化していました。ベイルートの市中心部で生活困窮者への食料支援を行うと、訪れるのは難民よりもレバノン人が多数を占めます。経済破綻により銀行に入れていた老後用の貯金が引き出せなくなった高齢者、母子家庭の収入では子どもを学校に送ることも難しくなった母親、高騰する医療費に生活を圧迫されその日の食事もままならない親子……。
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「イスラエル軍の空爆を受けて国内は混乱したけれど、それよりも前からこの国は危機的状況にあったのよ。今はその危機が悪化しただけ。難民に限らず、レバノン国民も含めて支援しなければこの国は本当に崩壊する。レバノン人は、前向きな国民だと私は思ってるけれど、現実は厳しいわ」
物資支援を管理していたセンターの責任者 エリアナさんは深刻な顔でそう話していました。(【レバノンの現在(1)】を読む|【レバノンの現在(3)】へ続く)
※レバノン国内での支援活動を実現するため、日本外務省・在外公館に報告した上で現地治安情報の収集と提携団体との連携を密に取り、移動時の安全と万一を想定した国外退避経路を確保した上でスタッフを派遣しています。
▶レバノン人道危機に対する緊急支援(ピースウィンズ・ジャパン)
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